その日。
外から帰ってきたアフロディーテが双児宮へ飛び込むなりこうどなった。
アフロ「サガ、私はこの聖衣が嫌になった!他のと換えてくれ!」
丁度カノンをどつきながら晩飯の支度をしているところだったサガは、しばし鍋を持つ手を止めて、
サガ「・・・帰った早々バカ満開か、お前は。いくら聖域責任者だからといって、気軽に黄金聖衣を取り替えられるわけがなかろうが」
アフロ「しかし嫌なのだ!!アイオロスの聖衣が余ってるだろう?あれでいい!」
サガ「あれは余っているのではない!着る人間がいないだけだ!」
アフロ「立派に余っているではないか!!全部が駄目なら頭のところだけでいいから換えてくれ!」
サガ「無茶を言うな・・・・!」
カノン「サガ。イモの皮は剥き終わったから、俺は向こうでテレビを見ていていいか?」
サガ「殺すぞ。次はキャベツを出して洗え」
カノン「・・・・・・;」
アフロ「そのキャベツ洗いは私がやろう。だから聖衣を換えてくれ。それならいいな?」
サガ「いいわけあるか!!いつまでもグダグダ馬鹿なことを言っとらんでさっさと自分の家に帰れ!私は忙しい!これからカノンにサラダの作り方を教えなければならんのだ!」
カノン「いや、そんなもの切って皿に盛るだけだろう・・・?俺はそれより六時からの天才テレビくんが・・・」
サガ「28にもなって見るなそんなもの!!時間の無駄だ!!」
カノン「ニュースステーションをCM抜きで録画してるお前に言われたくは無い!!無駄はどっちだ!」
アフロ「どっちもだろう・・・。そんなことより、サガ・・・」
サガ「聖衣の話なら聞かんぞ!帰れ!」
アフロ「そのことではなく」
サガ「何だ!」
アフロ「・・・鍋が焦げてる」
サガ「!?」
気がついたときには再起不能であった。
鍋の中身は泡を吹き、煙が部屋中に立ち込めている・・・・
デス「・・・・それで俺のところにずれ込んだか。材料費払えよ、お前ら・・・」
30分後、三人は隣の巨蟹宮で夕食にありついていた。
シュラ「鍋を焦がしたサガとカノンはいいとして、なぜお前まで参加しているのだ?アフロディーテ」
アフロ「いては悪いのか?君こそどうしてここにいるのだ」
シュラ「もともと今日はデスマスクと飲む予定だった」
アフロ「二人で?私も誘ってくれたらよかったのに」
デス「ムウも来て三人で紫龍のウワサ話大会するはずだったんだよ」
アフロ「・・・そうか。どこもかしこも無駄なことばっかりやってるな・・・」
そこへ、遅れたムウがそっと顔を覗かせた。
ムウ「あの・・・・・」
デス「おう、来たか。どうした?入れ」
ムウ「あ、いいんですか?日を間違えたかと思いました。てっきり、何かシニアの集まりかと」
デス「・・・・どうせ俺らは年くってるよ・・・・っつーか、先輩なんだから少しは敬えよお前・・・」
ムウ「にぎやかですね」
シュラ「ああ、色々あったらしくてな」
シュラが客の増えたわけを説明しているその横で、サガが苦い顔をして皿の上の食べ物をつついている。
サガ「デスマスク。カノンにも少し料理を教えてやってくれ。こいつと来たら食う飲む専門で、作ることは全部私任せだ」
デス「悪いけどな。俺はコカコーラとオレンジジュースとドクターペッパー混ぜて飲んで美味いという奴に料理を教える気にはなれん。ザルで水汲むようなもんだ」
カノン「あれは本当に美味い!お前、やってみたことあるのか!?」
デス「・・・お前に勧められたミロが飲んで死に掛けてたの覚えてるぞ。誰がやるかよ」
カノン「あれはミロが・・・!」
アフロ「君ら、無駄話はそれくらいにしてそろそろ本題に移ろう。私の聖衣についてだが・・・」
サガ「いつから本題だ。駄目と言ったら駄目!何度言えばわかるのだ!」
アフロ「だって・・・・・・・だって・・・・・・・・・・っ・・・・・」
・・・・・・・・・・・・
デス「・・・・あ〜ら〜ら〜こ〜ら〜ら〜、泣〜かした〜泣〜かした〜♪」
サガ「昔懐かしい歌を歌うな!!小学生か貴様は!?というか、私が何か悪いことをしたか!?いやそれ以前にアフロディーテ!二十歳を過ぎた男が下らんことでびーびー泣くな!!」
アフロ「・・・・・・はい・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
全員「・・・・・・・・・・」
サガ「何だその目は!?」
カノン「いや・・・少しは話を聞いてやったらどうかと・・・」
デス「怒鳴らなくたって、なあ」
シュラ「うむ・・・」
サガ「・・・おい、たまにアフロディーテが素直に出たからといって、そのまま私が悪者か!?ふざけるなよ貴様ら!!」
ムウ「あの、言ってることはほんと正論なんですけど、そこで怒鳴るとますます貴方が悪く見えますよ」
サガ「何だと!?・・・・おのれ・・・・!っ、そこの魚!言いたいことがあるならさっさと言え!!」
アフロ「・・・ん・・・・」
言われてうなずくアフロディーテ。
一生懸命涙を引っ込めようとしている風情の彼が、実はテーブルの下で小さくガッツポーズを決めていることなど誰も知らなかった。
アフロ「実はな・・・子供にバカにされたのだ」
サガ「そうか。ガキに馬鹿にされるようではおしまいだな!人生頑張るがいい。以上」
アフロ「!・・・・・っ・・・」
全員『あ〜ら〜ら〜こ〜ら〜ら〜、泣〜かした〜泣〜かし・・・』
サガ「聞けばいいのだろう!?わかったからやめろ!!」
アフロ「・・・・・(ガッツポーズ)」
デス「おい、お前、ガキに馬鹿にされたって、どこのガキにされたんだよ?」
アフロ「・・・日本のだ」
シュラ「日本?どうしてそんなところに行ったのだ。何か用でもあったのか?」
アフロ「もちろんだ。用も無いのにユーラシア大陸を横断するわけなかろう。買い物だ。吉祥寺で野菜の特売があったから」
カノン「・・・・すまん、その理由だと大陸横断の言い訳にはならん気がするんだが・・・」
アフロ「だってレタスが一玉10円だぞ!?他で買ったら無駄だろうが!」
シュラ「一番無駄なのはお前の行動だ。で、そこで子供に会ったんだな?」
アフロ「ああ。道端でチョロチョロしている目障りなのが二三匹いた」
デス「何を言われたんだ?」
デスマスクが訪ねると、アフロディーテは顔を悔しそうに歪めてこう言った。
アフロ「私のヘッドギアの形がサザエさんに似ている、と」
全員「・・・・・・・・・・・・・;」
アフロ「しかも!そのうちの一人をつるしあげてサザエさんとは何かと聞いたら、魚を咥えたドラ猫を追いかけて裸足で駈ける女だというではないか!そんな品の無いのと同一視されてたまるか!こんな聖衣、嫌だ!サガ、これでわかっただろう?わかってくれたらさっそく交換・・・」
サガ「ギャラクシアンエクスプロー・・・」
デス「ひとんちでやんじゃねえ!!!」
づかごっ!!
デスマスクのぶん投げた皿がサガの頭に命中した。
サガ「何をする!!」
デス「うるせえ!!そんな技ここでやられたら迷惑だろうが!!こいつを殺りたいなら自分の家まで持ち帰れ!!」
アフロ「なんだ人を物みたいに・・・」
デス「黙れ!っつーか、帰れてめえは!!」
アフロ「わっ!!」
ゴガアッ!!
アフロ「何でいきなり怒るのだ!?」
デス「当たり前だろうが!!サザエさんぐらいでムキになんじゃねえ、馬鹿野郎!!」
サガ「そうだぞ!波平でなかっただけましだと思え!!」
ムウ「元ネタ知ってるんですねサガ・・・」
カノン「・・・俺的にはサザエがどうよりも、フル装備で買出しに行ってる時点で馬鹿にされる理由十分なのではないかと思うんだが・・・」
シュラ「ああ。何が何だかわからんが、とりあえず俺もそう思う」
サガ「アフロディーテ!今後聖衣についてこんなどうしようもない話を持ち出したら厳罰に処すからな!!あきらめて飯を食って帰って寝ろ!!」
アフロ「やさしくない・・・・っ・・・・!」
サガ「貴様のような馬鹿に優しくするゆとりなんぞないわ!!泣くな!!泣くなといってるだろうが!!」
デス「お前なあ!いい年してわがまま言って泣くって、恥ずかしくねえのか!?」
アフロ「だって・・・・」
デス「だってじゃねえ!!」
アフロ「(ちっ、泣きもそろそろ通用せんか・・・)じゃあ君は今のままでいいのか!?あんなクソダッサい蟹型マスクを一生涯被り続けるつもりとでも!?」
デス「!・・・・・」
サガ「おい!騙されるのではないぞ、デスマスク!」
アフロ「本当のことだ!デスマスク、君は素面ならかなりイイ男だ!私が保証する!粋だし、ハンサムだし、モデル体型だ!」
カノン「・・・・どうかと思うがその台詞・・・・;」
アフロ「なあデスマスク。もっと他の聖衣を着て、君の魅力を引き出そう?そしたら三流とかギャグキャラとかアイドルオタクとか、そんな陰口もたたかれなくなるぞ?」
シュラ「いや、それは別に聖衣の形のせいでは・・・;」
アフロ「なあ、せっかくハリウッド男優並みの君なのだから、なあ?」
ムウ「・・・アフロディーテ。いくらデスマスクでもそんな安いおだて言葉に洗脳されたりはしませんよ。怪しい芸能スカウトっぽいですし。そうでしょう?デスマスク」
ムウの問いかけに、デスマスクはしばし視線を遠くにやって、真顔でなにやら考え込んだ。
やがて、その口元にふっと笑みが浮かぶ。
デス「・・・・あたりまえだろ。こんなくだらねえ台詞で洗脳されてたまるかよ」
アフロ「デスマスク・・・!」
デス「お前と一緒にするんじゃねえ!聖衣の交換なんてやってられるか!・・・だから三日間だけにしようぜ。サガ、明日から俺の聖衣交換・・・・」
サガ「立派に洗脳されてるではないか!!貴様も馬鹿の一直線上か!?」
デス「・・・・」
怒鳴られた男は急に剣呑な顔つきになった。
デス「おい・・・・あんた今どこで誰の作った飯食ってると思ってんだ、アア?」
サガ「う・・・・・・(汗)」
デス「俺の作った飯はフランスの三ツ星レストランのシェフが裸足で逃げて包丁折りするほどすげえんだぞ。それをタダで食っといて頼みの一つも聞けねえってかコラ」
シュラ「・・・なんだか地上げ屋くさいぞデスマスク・・・・;」
デス「どうなんだよ?聞けねえなら金とるぞ。・・・まあ、聞いてくれるならデザートぐらいは出すけどな」
サガ「くっ・・・・!」
カノン「・・・・サガ、三日間ぐらいいいではないか。デザート食いたい・・・」
サガ「お前は黙ってろ!!」
八つ当たり気味に怒鳴ったサガだったが、しかしやはり食を握っている者は強かった。
かくして、アフロディーテが横で万歳をしているうちに、「お祭り企画・レッツ衣装チェンジ」は決定したのである。
公正を期すためにこれだけは譲れない、というサガの言い分で、換えの聖衣はくじ引きによって選ばれることになった。
サガ「天秤座の聖衣は除外するぞ。あれは特殊なものだからアテナの御許し無しに他人がまとう事があってはならん。あと、アイオロスの聖衣に手を出したものは殺す。残りの聖衣で交換するように」
アフロ「射手座の羽をつけてみたかったのに・・・」
サガ「これ以上わがままを言うな」
ミロ「・・・・・なあ、一つ聞きたいんだが」
集められた一同の中から、釈然としない顔でミロが言った。
ミロ「どうして俺たちまで参加せねばならんのだ?俺は自分の聖衣が気に入ってるから交換などしたくない」
アフロ「でも、君が交換したくなくても、私は君のその頭の長い奴をつけてみたい。強制参加だ」
ミロ「そんな勝手な理屈があるか!!」
シャカ「フン、いいではないか。死ぬほど下らん企画だが、たまには雑魚のレベルにつきあってやる心の広さも必要だろう。今日は花粉の量も少ないようだし私は機嫌がいいのだ。参加してやるからありがたく思え」
ムウ「・・・素直に面白そうだから自分もやりたいと言ったらどうなんです、シャカ・・・」
くじ引き会場・教皇の間の中央には、それぞれの聖闘士カードを放り込んだ箱が置かれている。
サガがその中をかき混ぜながら、
サガ「こんなことでもない限り使えそうに無いからな、このカードは・・・」
カノン「サガ、俺も参加していいだろう?聖衣はないが、代わりにシードラゴンの鱗衣を持ってきた」
サガ「・・・参加したかったのか?それを早く言ってくれていたら、双子座の聖衣をお前に預けて私は辞退していたのにな」
カノン「海闘士には『海闘士カード』というものが無いんだが・・・くじはどうすればいいだろうか」
サガ「仕方ない。私のカードを一枚やろう。これに、区別がつくようにマジックで鱗衣の名前でも書いておけ。ほら」
カノン「そうか。礼を言うぞ。お前、なんだか初めて兄貴っぽいな」
サガ「・・・だまれ」
抽選が始まった。
バラン「・・・最初は誰が引くんだ?」
デス「アフロディーテ。お前が引けよ。もともとお前がやりたがったんだろ」
アフロ「嫌だ。最初はつまらん。5番目ぐらいに引く」
デス「何だそれ・・・;」
シャカ「誰も引かんのか?どいつもこいつも臆病者というわけだな。時間の無駄だ。貸せ、私が引く」
ムウ「要するに待ちきれないんですよね。はい、どうぞ」
ガサゴソガサゴソ。
シャカ「よし、これだ!」
引いたのは牡牛座の聖闘士カード!
シャカ「むう、いきなりつまらんものが当たってしまった」
バラン「つまらなくて悪かったな。こっちこそ、いきなり妙な奴に当たってしまった、という心境なんだが」
シャカ「妙な奴とは何だ。君のようなむさくるしい男から離れて私の手に渡る聖衣もさぞかし喜んでいるだろう。貸せ」
バラン「・・・・・」
黙って自分の聖衣を渡すアルデバラン。人間が出来ている。
ムウ「・・・・貴方少しは怒ってもいいと思いますよ」
バラン「いや、もう、なんだかな・・・・台詞はひどいが、顔が微妙に嬉しそうだったので怒るに怒れん・・・」
シャカ「嬉しくなど無いぞ!つまらんといったはずだ」
バラン「そうか。好きにしろ」
次にくじを引いたのはデスマスクだった。
デス「ジェミニ」
サガ「う・・・」
デス「なんだ?俺が不満か?」
サガ「そういうわけではない・・・・が、正義の面が泣きっぱなしになるような気がする。錆びるのでは・・・」
デス「別にいいだろ。あんた、めったに被らねえんだから。でも、この聖衣は便利だな。どんなに悪くなっても裏切らないもんな」
サガ「!デスマスク、悪用したら許さんぞ!」
デス「・・・・悪用って何だ?これ被って出てガキを脅かすとかそういうことか?」
ムウ「馬鹿なこと言ってないでさっさと進めましょう。次は・・・」
カミュ「私が引いていいか?なんとなく、イロモノ聖衣が後に溜まるような気がするのでな」
リア「うむ、俺もそんな気がする。お前の次に引かせてもらおう」
カミュが引いたのは山羊座だった。
持ち主のシュラははあ、とため息をついて聖衣を渡した。
シュラ「まあ、お前なら乱雑に扱うこともあるまい。3日間頼むぞ」
カミュ「うむ・・・・・。・・・・・・むっ」
シュラ「どうした?」
カミュ「いかん。この聖衣だと、頭の角が邪魔でオーロラエクスキューションが構えられん。切り詰めていいか?」
シュラ「絶対駄目だ!!良いわけあるか!」
カミュ「先の方を少し、ほんの少しだけなのだが・・・」
シュラ「ふざけるな!聖衣に傷一つつけてみろ、お前の頭を切り詰めてやるぞ!!」
カミュ「お前は隣人よりも聖衣のほうが大事なのか?」
シュラ「そういう問題ではなかろうが!!」
喧嘩の横で、アイオリアがくじを引く。
リア「・・・・・・・・・・・」
サガ「どうした?何座だ?」
リア「・・・・牡羊座」
ムウ「私の聖衣ですね。何ですか?この聖衣が嫌なんですか?それとも私から借りるのが嫌なんですか?遠慮せずに本音をどうぞ」
リア「いや、俺は別に・・・」
ムウ「我慢は体によくありませんよ。体力だけがとりえなのに、体調崩したらおしまいでしょう」
リア「・・・お前、喧嘩を売っているのか・・・・?」
ムウ「邪推は困ります。はい、大事に扱ってくださいね」
ムウは笑顔で聖衣を手渡した。
サガ「アフロディーテ。五番目だぞ。引け」
アフロ「うむ」
サガに催促されて、アフロディーテが箱に手を突っ込む。
ガサゴソ。スッ。
アフロ「!これは・・・・!」
カノン「お!俺カードだ!」
アフロ「・・・・・・・・」
俺カード。それは双子座の聖闘士カードの上に、マジックででっかく「俺の」と大書されたものだった。
サガ「『俺の』ってなんだ!!私は鱗衣の名前を書けといったのだ!所有格で書く奴があるか!!」
カノン「わかればいいではないか!俺のだし!」
サガ「いかん、わが弟ながら真剣に馬鹿ではないかと思えてきた・・・・こんなのと同じ血が自分の中に流れていると思うと、今すぐ献血に行きたいぐらいだ」
デス「被害広めるのはよそうな。・・・カノン、俺は鱗衣って見たことねえんだけどよ。どんなもんだ?」
カノン「これだ」
と言ってカノンが持ってきた鱗衣を、引き当てたアフロディーテはしばしみつめた。
そして・・・
アフロ「嫌だ!!ヘッドギアの形が魚座と大して変わらんではないか!!これもサザエさんだ!引きなおさせてくれ!」
デス「反則は駄目だろ。安心しろよ、ギザギザがなくなった分、これはむしろデビルマンかサリーちゃんのパパに近い」
アフロ「もっと嫌だ!!というか、君が魔女っ娘アニメを見ていたらしいその発言が何より嫌だ!!」
ムウ「・・・そこで『魔女っ娘アニメ』という言葉が出てくるあなたもどうかと思いますが・・・まあ、次に行きましょうか」
アフロ「待て・・・!そもそも私は自分の聖衣の形が嫌でこの企画をねだったのに、これでは全然意味が無・・・」
抗議を叫ぶアフロディーテを無視して6番目にサガが引いた。
サガ「そしてその散々ケチのついた魚座の聖衣が私、と・・・許さん、アフロディーテ・・・」
アフロ「わ、私のせいではない!引いた君が悪いのだ」
サガ「元はと言えば貴様が下らん企画を思いついたせいだろうが!ええい、貸せ!!」
やけくそ気味に、彼は魚座の聖衣を取り上げる。
アフロ「その、一応大事に扱ってくれ。魚の形のときは可愛い奴なのだ。ピスケスだから、名前はピーちゃん」
サガ「呼ばんわそんなつまらん名前!!」
アフロディーテが怒鳴られる横ではくじをひいたカノンが兄と対照的に喜んでいた。
カノン「よし!俺は獅子座!!比較的かっこいい奴だ!!」
ムウ「というか、最も平均的で目立った特徴のない奴ですよね」
リア「・・・・ムウ、お前さっきから妙につっかかるが、本当に喧嘩を売っているのか・・・?」
ムウ「いえいえ、まさかそんなことは。ただ、長年聖衣修復をやっている私の目にはすこしばかり芸のない感じに見えるだけです。なんでしたら私の道具の中で余ってるパーツをくっつけて、いろいろグレードアップしてあげましょうか?」
リア「いらん!!」
カノン「いや、俺は何だかやって欲しい気がするぞ?ムウ、ラダマンティスの冥衣ぐらいゴージャスにしてもらっていいか?」
ムウ「任せてください」
リア「おい、ふざけるなよ貴様ら!!人ごとだと思って・・・・ムウ!お前もくじの管理人やってないで自分で一枚引いてみろ!」
ムウ「構いませんけど・・・どうせ遅かれ早かれ引くことになるんですし」
温和に微笑みながらムウは箱の中に手を入れた。
引いたカードは蟹座だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
ムウ「・・・わかりました。それがルールだというならば、私はあえて拒みはしないでしょう・・・だが、この聖衣だけは絶対に嫌です!!」
カノン「おお、天翔ける黄金の羊のごとく常に優雅な微笑を絶やさなかったムウが初めてその牙をむいた!!」
リア「何だか安い感情だな、おい・・・;」
ムウ「どう考えたって私に似合うわけないでしょう!?チャームポイントはこの眉だけで腹いっぱいだというのに、こんな愉快なマスクを被れますか!!」
デス「愉快で悪かったな。俺は年中被ってんだよ!たまには味わってみろ、この気持ち」
ムウ「じゃあ貴方は私の気持ちを味わってくれるんですか!?眉毛丸く剃って下さい!」
デス「死んでも嫌だ」
リア「ムウ、まさかここまで来て義務放棄する気ではあるまいな。そんな奴は男として認めん!」
ムウ「女だったらこの蟹着なくていいんですか?だったら女でいいです、もう別に」
カノン「いや、いいといわれてもお前は男だしな。あきらめろ」
ムウ「・・・・・・・・」
いつになく悄然とするムウ。そんなに嫌か。
続いてブラックボックスの前に押し出されてきたのはミロだった。
ミロ「俺は・・・・!」
カミュ「聖衣を換えるのが嫌なのはわかるが、これもつき合いだ。こういうイベントで真っ先に引いて地雷を踏むのがいつものお前の役どころだろう?」
ミロ「殺すぞカミュ・・・」
カミュ「しかし、ほら、もう蟹に当たることはないから今なら安心して引け」
デス「お前らな・・・;」
友人に箱を差し出され、ミロはしぶしぶカードを引いた。
ミロ「!蠍座!俺のカードだ!やったぞ、俺は交換しなくていい・・・・」
喜びかけたその時。
彼の手からカードは突然離れて宙に浮き、ひとりでに箱に戻ると、ガッサガッサとシャッフル。
ミロ「!!」
ムウ「駄目ですよ、ミロ。それでは面白くありませんから引き直しです」
ミロ「お前のせいか!自分が蟹だからって人まで不幸に引きずり込もうとするのはよせ!!俺のカードを返せ!!」
ムウ「引きなおし」
・・・箱を持って迫るムウの目は本気だった。
引きなおしたミロの今度のカードは、幸運も続かず水瓶座だった。
ミロ「・・・・・カミュ、お前の聖衣借りるぞ・・・・・」
カミュ「そこまで落ち込むことなかろう;」
ここで、残りのカードはあと2枚。
ムウ「蠍座と乙女座の聖衣ですね」
シュラ「そして残っているのが俺とアルデバラン。どっちがどっちに転んでも似合わないこと夥しいのだが、それでもやるのかこの企画・・・?」
ムウ「むろんです。最後の二枚は二人とも同時に引きましょう。その方が楽しいですから」
バラン「・・・・ちっとも楽しくないぞムウ・・・」
ちなみに最終結果はアルデバランが蠍座、シュラが乙女座であった。
聖衣交換三日間企画。翌日からさっそく問題が勃発した。
バラン「聖衣を着ようにもサイズが小さくて着られん。どうすれば・・・」
ムウ「ああ、貸してください。一時間でうち直して体に合わせて差し上げますよ」
ミロ「やめろ!!俺の聖衣をどうする気だ!!」
ムウ「大丈夫大丈夫、返すときにはちゃんと元に戻しますから」
ミロ「そういう問題ではないだろう!?ツギハギ跡が残ったらどうしてくれる!」
ムウ「あなた、私の修復能力が信じられないのですか?」
ミロ「そんなことはいってない!!というか、修復かこれは!?」
デス「おいムウ。お前なんでマスクつけてないんだよ」
ムウ「さあ何ででしょうね。貴方こそヘッドギア被ってないじゃないですか」
デス「いや、一度被っては見たんだけどよ、あれ重いんだよな。どうするか考え中だ。植木鉢にするか鍋にするか風呂の椅子にするか・・・」
ガシャーン、ガシャーン。
シャカ「フッ、雑魚どもが雁首そろえて集まっているな」
デス「・・・シャカ、思いっきり体にあってねえぞ、その聖衣(牡牛座)・・・」
ムウ「打ち直しましょうか?」
シャカ「いいや、これで結構。巨大ロボになったようで中々気分がいい」
デス「それは着ているって言うか、操縦っていうんだけどな。どうやって浮いてんだよ中で・・・」
シャカ「サイズの事より我慢ならんのはこの半端に折れた角だ。ムウ、さっさと直してくれたまえ。まあいっそ両方きれいにとってしまってザクタイプにしてくれても私は構わん」
バラン「いや、それは俺が構う。お前にはザクでも俺には坊主だ。やめてくれ」
ミロ「人の聖衣を巨大化させようとしている奴が言えた義理か!」
そこへカノンが、何やらわめきながら後を追ってくるアイオリアを従え現れた。
カノン「お、いた、ムウ!さっそくカスタマイズを強化してくれ。まず、右腕にバズーカ砲装備・・・」
リア「やめろといってるだろうが!!アテナの聖闘士は武器の使用厳禁だ!!そこら辺中で破られているザル法だが、俺は律儀に守ってきたのだ!!バズーカ砲など装備するな!!」
カノン「固い事を言うな。どうせ三日だけだ。ムウ、それからこっちのアームパッドにワイヤーアンカーつけて、ついでにナックルガードつきのナイフも・・・」
リア「どこの戦場で何をする気だ貴様!?破壊工作員か!?」
デス「・・・俺的には何の漫画読んだのかが気になるけどな・・・」
ムウ「はいはい、カノン。なんでもやってあげますよ。・・・それはそうとアイオリア、あなたどうして牡羊座の聖衣着てないんです」
リア「そ、れは・・・」
ムウ「やはり私の聖衣だと不満だとでも?」
リア「違う!あれを着ると肩の角が邪魔で『振り向きざま攻撃』ができんのだ!振り向いても角しか見えん!しかも重い!」
ムウ「・・・一応着てみてはくれたんですか」
リア「ああ。ヘッドギアも装備してみた」
ムウ「そうですか。さぞかし似合わなかったことでしょうね」
デス「アイオリアだってちゃんと着てみてるじゃねえか。お前も俺の聖衣、全部装備してみろよ」
ムウ「嫌です。このトゲトゲしい場末の愚連隊のような形でさえ周りを傷つけないか気を使うというのに(特に肩パーツ)、蟹マスクなんか装備したらいたたまれなくて胃に穴が開きます。大体あれ、装備というより仮装です」
聖域の「下の方」でそんなやり取りがある一方、「上の方」ではまた別の問題が持ち上がっている。
シュラ「・・・・アフロディーテ。何をやっているのだお前は」
アフロ「何って、見てわからんのか?散歩だ」
当然のように答える彼の右手には一本の鎖。その先に繋がれているシードラゴンの鱗衣。
シュラ「・・・・・・散歩・・・・」
アフロ「そうだ。思ったよりもこいつはいい子でな。好き嫌いも言わんし良く寝るしすぐに懐いたし。名前はシーちゃん。お気に入りだ」
シュラ「何とかならんかそのワンパターンなネーミングセンス」
シーちゃん「キューキュー」
アフロ「ん?どうしたシーちゃん・・・なに?ワンパターンと言われたのがショック?そうか、悪いお兄さんだな、叱っておこうな。ぺん!これでいいだろう?」
シュラ「お前性格変わったぞ;何なのだその過保護な中年のような台詞は」
アフロ「うるさい。何でもいいだろう。それより、君、どうして乙女座の聖衣を着てないのだ」
シュラ「着られるかあんなもの!着用時の自分を想像しただけで鳥肌が立つ!それに・・・・何だか妙なのだ」
アフロ「妙?」
シュラ「うむ。着ていないから必然的に合体形のまま置いてあるのだが・・・昨夜置いたときと今朝起きたときでは向きと位置が変わっていてな」
アフロ「どんなふうに」
シュラ「昨日は向こうを向いていたはずが今日はこっちを向いて、しかも俺の寝床に一歩近づいていた」
アフロ「・・・・恐いな、それ・・・・」
シュラ「だろう?さすがに俺も朝から背筋が寒くなった。明後日まで、無事でいられるのだろうか・・・」
アフロ「ちょっと調べに行ってみるか。二人だけなのは恐いから、念のためにカミュも誘おう」
シュラ「お前さてはお化け屋敷が駄目な人間なんだな・・・」
二人は宝瓶宮でカミュを誘い、磨羯宮へやってきた。
シュラ「これだ」
カミュ「?見たところ、どこにも変な感じは見えんが。普通の、乙女の祈りの像だ」
シュラ「そうだな・・・」
前後左右からまじまじと見ても、特に異変はない。
アフロ「君の思い違いではないのか?シュラ」
シュラ「そうだろうか・・・」
そういいながら、シュラが何気なく横に移動したその時。
キィッ
アフロ「動いた!!」
シュラ「シードラゴンを連れて散歩しているお前が今更動いたぐらいで驚くのもどうかと思うが・・・確かに動いたな。向きが変わった」
カミュ「向きが変わったというか、シュラ。この像は明らかに君を見ている」
・・・・・・・・・・・・・・・・
アフロ「恐いことを言うなカミュ!!」
シュラ「ひっつくなアフロディーテ・・・;」
カミュ「事実だ。シュラ、ちょっとこのぐるりを回ってみろ」
シュラ「あ、ああ」
シュラは聖衣の周りをゆっくり一周する。
キィッ キィッ キィッ
アフロ「見てるぞおい・・・!」
シュラ「・・・ひっつくなといってるだろうが・・・」
アフロ「シュラ、悪いことは言わん!こんな呪われた聖衣はさっさと埋めるか焼くか寺に寄付するかしたほうがいい!!」
シュラ「俺の聖衣ならそれでもいいが、これはシャカのだからな。あれに聞けば何か理由がわかるかもしれん」
アフロ「そんな悠長なことを言ってる場合か!」
アフロディーテが怒鳴った瞬間だった。
ピシィッ!!
突然、鋭い音を立てて乙女の首が弾き飛んだ。
まっすぐ、アフロディーテに向かって。
アフロ「!!」
間一髪身を沈めて一撃をかわす黄金聖闘士。首はそのまま背後の壁に激突して床へ落ちる。
シュラ「おい、大丈夫か!?」
アフロ「恐い恐い恐い!!本気で恐いぞこの聖衣!!」
何より恐いのは、床に落ちてなおその顔がシュラに向けられている辺りか。
シュラ「一体何だ?俺が何をしたというのだ?」
アフロ「いや、しかし今のは確実に私を狙っていた!君でなく!なんなのだ、私も何か悪いことをしたのか!?」
カミュ「・・・・・一つ、思ったのだが」
と、カミュが顎に手を当てて考え込むポーズで言った。
カミュ「ひょっとして、この聖衣は嫉妬したのではないだろうか」
・・・・・・・・・・・・・・
アフロ「・・・嫉妬・・・・・?」
カミュ「ああ。お前があんまりシュラにひっついているものだからな・・・早い話、シュラ。お前はこの聖衣に惚れられたのだということだ」
翌日。
バンッ!!
シュラ「デスマスク!!助けてくれ!!何とかしてくれ!!おい、起きろ!!」
デス「あ〜・・・?」
シュラ「どうすればいいのかわからんのだ!明らかにこれは俺の次元の話ではない!お前に任せるから何とかしてくれ!」
デス「なんだぁ、うるせえな」
もそもそと起きてきたデスマスクの肩を、シュラは必至の形相でわしづかみにする。
デス「・・・・至近距離で見るにはお前の面は恐すぎだからやめろ」
シュラ「恐いのは聖衣だ!!聞いてくれ、デスマスク・・・・!」
昨日の一件を話す。
シュラ「・・・と、カミュは言ったのだが、俺は馬鹿な話だと笑って済ませた。しかし!今朝起きてみたら枕元に首だけが添い寝していたのだ!心臓止まるかと思ったぞ!!何だ、あの聖衣は女なのか!?」
デス「・・・そりゃあ、乙女座が男だったら詐欺だろうな・・・・」
シュラ「俺を好いているのかそれとも単に殺す気なのかはどうでもいい!!いや、極論を言えば俺個人の問題なら修行の一環ぐらいの気持ちで何とかする!」
デス「するなよ;」
シュラ「だが、どうやらあの聖衣の怨念だかなんだかは昨日一緒にいたアフロディーテやカミュにまで及んでいるらしいのだ。二人とも、とてつもなく恐ろしい夢を見たと今朝方俺に訴えてきた」
デス「あー、両方とも女顔だもんな」
シュラ「女と霊の扱いならお前の十八番だろう!?頼む、何とかしてくれ!」
デス「面倒くせえなあ・・・」
デスマスクはあくびをして寝癖の頭をぼりぼりかくと、
デス「女だろうが霊だろうが始末に負えん物は扱い一緒だ。横っ面張り飛ばしてそれでも黙らなきゃ黙るまで蹴る。簡単だろ?頑張れよ」
シュラ「・・・お前、ほんと最低だな・・・俺には出来んぞそんなこと」
デス「そういうところが惚れられる原因なんだよ!甘い事言ってないでさっさと帰って殴って来い!」
シュラ「たとえ聖衣でも女相手に外道が出来るか!!というか、借り物に傷を作るわけにはいかんだろうが!もう少しマシな手段を考えてくれ!」
デス「知るか!」
言い争っているところへ、第二の飛び入り客がやってきた。
ムウ「デスマスク。ちょっと、いいですか?」
デス「なんだ?ムウ、どうかしたのか?」
ムウ「どうもこうもありませんよ。何なんですか、あの聖衣。夕食のおかずはつまみ食いするわ、人の家の財布は隠すわ、朝っぱらからいなくなったと思ったら新品のプレステ2を持ち帰ってきました。どこの店先から盗ってきたのかわかります?」
デス「いや・・・さすがに俺もそれはちょっと・・・・」
ムウ「まあ盗みだけならまだしも、遊びに来た貴鬼をぶって蹴って泣かしたのは許せないんですが・・・・あなた一体、自分の聖衣にどういう教育したんですか」
デス「・・・・・・;」
シュラ「なるほどな。どこまでも飼い主に似るということか」
デス「それより『盗みだけならまだしも』発言の方が問題じゃねえのか・・・?」
ムウ「シュラはどうしてここに?やはり、何か蟹が面倒でもかけましたか」
デス「かけられてんのは俺だ!!」
シュラ「いや、実はな・・・」
話を聞くと、ムウはふむふむと頷いて、
ムウ「なるほど。世間知らずの純情な女性から見ると、シュラはちょっと寡黙でしぶくて魅力的な男性かも知れませんね」
シュラ「素朴に感心しとらんで助けてくれ・・・」
ムウ「別にいいのではないですか?貴方今、彼女がいるわけでもありませんし」
シュラ「いるとかいないとかそういう問題ではなかろうが!!」
デス「何だ?好みじゃないのか?」
シュラ「殺されたいかデスマスク・・・」
デス「そんな、本気で怒らなくてもよ・・・」
シュラ「くそっ!もういい、貴様には頼まん!シャカに聞いてくる!」
シュラは足音も荒く飛び出していった。
そのころの宝瓶宮。
ミロ「カミュ!!これは返すからお前の部屋に置いといてくれ!」
水瓶座の聖衣を抱えたミロが、目の下に黒々と隈をつくって怒鳴り込んできていた。
カミュ「それは、返してもらえるのはありがたいが、どうした?問題か?」
ミロ「問題もクソも、何で出来ているのだこの聖衣は!?部屋においておくだけで床に霜柱ができるとはどういう了見だ!!着たら着たで全身にアイスノンを装備しているのではないかと思うほど寒いし!!おかげで昨夜は一睡も出来なかったぞ!何とかしろ!」
カミュ「そうか。丁度良かった。私も、それがないと暑くて寝られなかったところだ。・・・縁起の悪い夢を見たのはそのせいもあるかもな。返してもらう代わりに、お前にはこの山羊座を譲ってやろう」
ミロ「いらん!俺は自分の聖衣を取り返す!!あれだけ嫌だといったのに巨大化させられてしまったが、今からムウのところへ怒鳴り込んで無理矢理にでも直させてやる!!その前に、サガに直談判だ!!」
サガ「私ならここにいるが」
声はミロの背後から聞こえた。
振り向くと、魚座の聖衣腕に抱いたサガが立っていた。やはり、どこかやつれた顔をしている。
ミロ「サガ!何のようだ!?」
サガ「用があるのはお前だろう?まあ、聞かないでも言いたい事はわかるがな。私もこのイベントを続ける気が失せたところだ」
カミュ「何かあったのか?」
サガ「実は昨日からこいつが元気がなくてな・・・」
サガは腕に抱いた魚座聖衣(ピーちゃん)を見る。
サガ「・・・最初は病気かと思ったのだがどうやら違うようだ」
ミロ「それは違うだろうな。どうしてだかわかったか?」
サガ「うむ。ホームシックらしい。うちに来たときからずっと、聖域の上のほうばかり見上げているのだ。ルールには反するが早いうちに飼い主に返してやらんと可愛そうなので連れてきた。アフロディーテはいるだろうか」
アフロディーテは双魚宮にいた。
いて、シーちゃんにお手を教えて遊んでいた。
サガ「アフロディーテ・・・・」
アフロ「お手!おかわり!よし、おりこうだな、シーちゃん!」
シーちゃん「キュ!」
・・・・この、自分の飼い主と新たなペットの仲むつまじい様子を見たとき、「ピーは一瞬硬直した」と後にサガは証言する。
ちなみに、この発言に対してアフロディーテは「放送禁止用語みたいだからきちんとちゃん付けで呼べ!」と抗議したが、それは全然関係ない話である。
アフロ「ん?サガ、きていたのか。何だ?」
サガ「いや、お前の聖衣がさびしがってな。お前のところに帰りたそうだったから返しにきた・・・・・」
サガが皆まで言い終わらないうちだった。
彼の腕の中でピーちゃんが当然発光した。
そしてまるで泣き咽ぶかのように震えて飛び出すと、そのまま一筋の流星と化して青空のかなたへ消えていったのだった。
アフロ「・・・・ピーちゃん・・・・?・・・」
サガ「一体何が・・・・・はっ!さては!」
アフロ「ん?」
サガ「お前が鱗衣と仲良くしているのでショックを受けたのに違いない!いかん、家出だ!!」
アフロ「な、なに!?」
戸惑うアフロディーテに、サガは説明してやった。
昨日からずっと、ピーちゃんがアフロディーテの元に帰りたがっていたこと。しかし周りに心配をかけまいと口には出さずにいたこと。夜中に一人でこっそり涙を拭いていたこと。そのくせ人前では笑顔を絶やさなかったこと。
・・・・多少大げさになったかもしれないが、それくらいが丁度いいだろうとサガは勝手に判断した。
アフロ「ピーちゃん・・・・!(涙目)」
サガ「わかったか、あのけなげな聖衣の心が。お前はこんなところで鱗衣を可愛がっている場合ではないのだ」
アフロ「うむ・・・!サガ、私は今すぐあいつを探しにいく!シーちゃんはカノンに返しておいてくれ!」
シーちゃん「キュー!」
アフロ「シーちゃん・・・・すまん!君とはもう遊べない!!」
アフロディーテはそう言い残して青空へと消えた。
ハナから遊ぶなと思ったサガだったが、言葉にはしなかったのだった。
さて、シャカのもとへやってきたシュラは身に降りかかった異常気象を訴えてどうしたらいいかと飼い主の助言を求めていた。
シャカは答えた。
シャカ「君が甘くするからつけあがるのだ。殴るなり蹴るなりして力の差を見せつけ、服従させてしまえばいい」
シュラ「・・・・・結局デスマスクと同じ結論か・・・・お前らには良心と言うものがないのか・・・・?」
シャカ「良心がないのは蟹だけだ。私は慈悲の心がないだけだ」
シュラ「そこにどれだけの差がある!!おい、俺はもう嫌だぞ!あの聖衣はお前に返すから、正気にもどらせてやれ!!」
シャカ「参考までに聞きたいが、何が原因で君は惚れられたのだ?」
シュラ「知るか!ただくじで当たったからもって帰って置いておいただけだ!」
シャカ「だとすると一目ぼれか・・・いかんな、君のような三白眼に一目ぼれするようではよっぽど惚れっぽいか、よっぽどゲテモノ好きかのどちらかだ。どちらにしろ歓迎できん性質だな」
シュラ「悪かったな!歓迎できんのはこっちの方だ!落ち着いて修行もしてられん!」
シャカ「修行?磨羯宮でか?」
シュラ「エクスカリバーの切れ味が伊達に保てると思うか。剣の稽古は朝晩欠かさん」
シャカ「昨晩もやったのか」
シュラ「当然だろう」
シャカ「・・・・・・・・・・それだな」
シュラ「なに?」
シャカ「熱心に鍛錬に励む男を見て恋に落ちる、か・・・・。フ、さすが乙女。王道だ」
シュラ「・・・・?;」
シャカ「気にするな。返すのなら早くもってきたまえ。最も神に近い男の名に賭けて、きちんと洗脳しなおしてやる。二度と面倒はおこさせん、安心しろ」
シュラ「・・・何だか不穏だが・・・頼むぞ」
かくして、交換イベント2日目の朝の時点で3体返品、1体逃亡。
その後も、改造された自分の聖衣に怒り狂ったミロとアイオリアが白羊宮へ怒鳴り込んだり、四本の腕が物干し代わりに便利だという理由からパンツを乾かすのに使われていた双子座の聖衣をサガが殺すつもりで取り返したり、どこからともなくジュラルミンケースを運んできた蟹にムウが愛想をつかしたり、シャカがザクにも飽きたりと色々あった結果、3日目が始まるまでにはそれぞれの聖衣がそれぞれの持ち主のもとへと再び帰っていたのだった。
ちなみに、ピーちゃんはギリシャ海岸で砂に頭を突っ込んで拗ねているところを無事に発見・捕獲されたという。