日増しに気温が肌に快くなってきていた聖域だったが、その日は朝から雨だった。
こんな日は大抵の黄金聖闘士が自室でゆっくりと過ごしている。
しかし、自室でゆっくり過ごすタイプではない一部の男たち・・・早い話がミロとカノンだが・・・は、こういう日に限ってどうでもいいようなことを思いつき、行動に起こすのだった。
ミロ「ムウ、ちょっといいか?」
ムウ「ミロ?それにカノン・・・どうしたんですかそんなびしょ濡れで」
ミロ「いや、今日はな、雨が降っていて外で遊べないからな、カノンと一緒に双児宮の本でドミノ倒しを作って遊んでいたのだ。そしたらサガに見つかってえらく怒られてな。部屋を散らかすなと」
ムウ「・・・・二十歳の男が何やってるんですか・・・」
ミロ「で、出した本を片付けさせられることになって、その時に『名前で占うあなたの人生』という本を見つけてな。面白そうなので聖域全員分やってみようとしたのだが、そこで問題があることに気づいたのだ。なあ、カノン」
カノン「うむ」
カノンは重々しい表情で頷いた。
ムウ「問題?なんです?」
カノン「ムウよ、お前、デスマスクの本名を知っているか?」
ムウ「・・・・・・・・・・・・」
ムウはしばし沈黙し・・・・
ムウ「・・・デスマスクが本名じゃないんですか?」
ミロ「そんなわけがあるか。あんなクソ縁起の悪い名前をつけられたら性格が歪む」
ムウ「立派に歪んでるじゃないですか。でもまあ、そうですね・・・本名ではないですよね」
ミロ「自分で巨蟹宮の死に顔の説明に『デスマスクと呼ばれるゆえんでもある』って言ってたしな。あれは、呼び名はデスだが本名は別ということだろう?」
ムウ「いいんじゃないですか、本名デスマスク・呼び名は蟹で」
カノン「ああ、それもラクなんだがな。だが、適当な推定では占いができん。本名が知りたいのだ」
ムウ「本人には聞いたんですか?」
ミロ「聞いた。しかし、占いに使うから教えてくれと言ったら『人の名前で遊ぶんじゃねえ』と教えてくれなかった。そこで、あいつが埋まっていた墓の墓標を確かめに行ってきたんだが、そこにも『デスマスク』と書いてある。死に顔。一歩間違えば日本の耳塚なんかと同じ解釈をされそうな墓だった」
ムウ「なるほど。それで全身ずぶ濡れになって帰ってきた、と」
カノン「なあムウ。お前、テレパシーかなんかであいつの記憶を探ったり出来ないか?」
ムウ「そんな友達なくしそうな特技はありません。プライバシーの侵害じゃないですか」
ミロ「でも、気になるだろう?あいつの本名」
ムウ「それは気になりますけど・・・・」
だが、わからないものは仕方ない。
結局この日は話もここで打ち切られたのだった。
数日後。
疑問は聖域にじわじわと浸透していた。
サガ「デスマスクの本名?・・・ふむ、言われてみれば気になるな」
バラン「デスマスクの本名だと?そういえば、確かに誰も知らんな」
シャカ「あいつの本名か。まああんな愚民の名前など、知ったところで一文の得にもならんが、私が知らぬことがこの世にあるのは不愉快だな」
リア「なに!?デスマスクが本名じゃなかったのか!?おい、本名は何だ!誰も知らんのか!?」
シュラ「本名か。知りたくないと言えば嘘になるな。あれとはつきあいも長いし・・・ロクな縁でもないんだが・・・」
カミュ「そういえば知らなかったな。・・・そう思うとモヤモヤして気持ちが悪い。誰かはっきりさせてくれ」
アフロ「本名!やっぱり気になっていたか!?私も前々から気になって気になって仕方なかったのだ!やはりデスマスクは偽名だろうな!?本名は何なのだ!」
そしてついに、本人には内緒で会合が開かれるに至った。
シャカ「要するにだ。だれも奴の名前を知らんのなら、奴自身に聞くしかあるまい。吊るし上げて名前を吐かねば殺すと脅そう」
サガ「気持ちはわかるがたかが名前で私闘はよくない。もっと平和的な手段を考えろ」
ムウ「こういうのはどうです?アフロディーテ、あなたデスマスクと籍を入れるんです。いくらなんでも婚姻届には本名サインするでしょう」
アフロ「白バラ食らいたいかムウ・・・」
カミュ「しかし墓石にも『デスマスク』で刻んであったぐらいだからな。婚姻届程度に本名をあかすものだろうか」
カノン「それは明かさなくちゃいけないんじゃないのか・・・?」
サガ「デスマスクが結婚するかどうかがそもそも疑わしかろう。あの遊び人が身を固めるとは思えん」
シュラ「・・・すまん、俺はもっと根本的に間違ってるような気が・・・・」
バラン「ならばいっそイタリアまで行って、あれの戸籍を調べてくればいいのではないか?」
ムウ「だめですよ。そもそも本名わからないのにどうやって調べるんです」
ミロ「だが出身地を攻めるのはありだと思う。あいつの人相書きをシチリア中に張り巡らすのはどうだろうか。『この顔に、ピンと来たならお電話を』とか言って、昔の知人をおびき出すのだ」
サガ「やめろ。聖域から犯罪者を出したみたいではないか。あいつが犯罪じゃないかどうかはあえて断言しないでおくが、聖域のイメージダウンにつながる行動は慎んでもらうぞ」
シャカ「ええい、面倒くさい!」
唐突にシャカが奮起した。
シャカ「私達が蟹の名前を知らなくても、蟹は自分の名前を知っているのだろう!?だったらカマをかけまくってみればよいのだ!あらゆる名前を思いつくまま呼びかけて、一番反応の大きかったのが本名だ!」
・・・何一つ苦労のいらないこの提案が支持の大半を集めた。
かくして翌日から、『デスマスクの名前・総当たり戦』が繰り広げられることになったのである。
とりあえず、導入は基本的な名前から行くのがいい。
ムウ「ああ、おはようございます、ピーター。今日はいい天気ですね」
デス「あん?」
サガ「すまんジェイムズ。穴あけパンチを失くして書類がとじられんのだが、お前のを借りていいか?」
デス「・・・・おい」
ミロ「ポール。俺は今から町へ行くぞ。何か買ってきて欲しいものがあったら頼まれてやる」
デス「無い。っていうか・・・」
アフロ「エドガー!ケーキを焼いたのだが真っ黒焦げで人の食えるものではなくなった!君にやるから食ってくれ!」
デス「誰が食うか!お前らいい加減に・・・」
シャカ「おい、下に用がある。通してもらうぞ大五郎」
デス「いやそれはほんとにちょっと待てや」
さすがに聞き流せなかったか、通りすがろうとしたシャカの袖をひっ捕まえたデスマスクである。
シャカ「なんだ?私は忙しいのだ。放したまえ」
デス「お前の予定なんか知るか!それより何なんださっきっから、全員して俺を勝手な名前で呼びやがって!」
シャカ「心当たりが無ければ無視していいのだ。気にするな」
デス「気になるわ!!」
ルルルルル。
怒鳴ったその時、巨蟹宮の電話が鳴った。
デスマスクは、シャカを逃がさないように腕をつかんだまま、もう片手で受話器を取る。
デス「はい、もしもし!?」
受話器「すみません、そちらステイシーさんのお宅ですか・・・?」
デス「違うわ!こちらはデスマスクさんだよ!っつーかその声アイオリアだろ!?わざとか!?なにかんがえてんだコラ・・・・!!」
受話器「(ガチャンっ。ツー・・・ツー・・・)」
・・・・・・・・・
デス「ふざけてんじゃねえぞどいつもこいつも・・・・」
シャカ「おい、もう行っていいか?」
デス「よくねえ!!どうしてこんなことになってんのか吐きやがれ!」
シャカ「やがれだと?口の利き方を知らんようだな、貴様」
デス「人を大五郎呼ばわりする奴がそれをいうか!!」
シャカ「フッ、放さんと次は長兵衛だぞ。それでもいいのか?」
デス「・・・楽しいかお前・・・?」
うんざりした顔でデスマスクはつぶやいたのだった。
夜、黄金聖闘士たちは密かに集まり結果を確認しあう。
サガ「一番反応の大きかったのは大五郎か・・・しかしちょっとどうかと思う」
シュラ「いや、明らかに違うだろう。あれの国籍をどこだと思っているのだ」
カミュ「イタリアなら、厳密に言えばピーターはペテロ、ポールはパウロになるはずだしな」
ミロ「けど呼び名がデスマスクだよな?そのまんま英語なんだが」
アフロ「聖域に英語圏の人間など一人もいないのに、どうしてあんな呼び名がついたのだろうな。あいつの派遣区域はアメリカだったのか?」
サガ「いや。そんなところに派遣した覚えは無い。あそこはFBIが頑張ってるから・・・」
シャカ「しかし、とりあえずこの方法はすこぶる有効だということがわかった。もうしばらく続けるぞ、諸君」
一同「・・・・・;」
どこのなにを見てそんな結論に達したのかはまったくわからなかったが、シャカが得意そうに言い切ったのであえて反論できるものはいなかった。
そして翌日も。
シュラ「おい、アフロディーテが呼んでたぞシュトラウス」
デス「だからやめろっつってんだろうがよ!!お前だけは参加してないと思ってたのに裏切りやがって!冷静に考えてみろよ!シュトラウスはかっこよすぎだろ!?」
バラン「自分で言わなくても・・・・・。ならば、ロドリゲス辺りか」
デス「どういう基準だ!?っつーか、本当に何なんだ貴様ら!!」
カミュ「当たったら返事をしてくれ。ダニエル、トーマス、スチュワート・・・」
デス「やめろ!!変な名前で呼ぶな!!俺のことは普通にデスマスクと呼べ!!」
カノン「いや、それたぶん一番変だぞお前・・・;」
物的証拠を探そうと、部屋のガサ入れを始める奴もいた。
リア「!これは・・・!!」
デス「おい、なんだコラ、そこで何やってるてめえ」
リア「見つけたぞ!この箱に書かれている名前・・・・・さてはこの名前がお前の本名だろう!そうなんだな、カルバン・クライン!!」
デス「あからさまにブランド名じゃねえか!!この世の知識も無い奴が俺の部屋に手ぇつけるな!!」
アフロ「・・・・その箱、サイズからして口紅が入っていたのだよな?私はもらってないぞ!誰にやったんだ!?」
デス「知るか!出てけ!」
アフロ「ひど・・・・!!」
リア「むっ!!ならばこれはどうだ!返事をしろクリスチャン・ディオール!!」
デス「だから違うって・・・・・!」
アフロ「あっ!それは絶対香水の箱だ!!おのれポチョムキン、またふらふらと街の女に・・・・!」
デス「誰だポチョムキンって!!嫉妬するときぐらいまともに名前呼べよ!!」
リア「よし!今度こそは間違いない!!これがお前の本名だな!?ココ・シャネ・・・・・・」
デス「てめえは一回免税店で勉強しなおしてから来い!!」
二日目も何の収穫も無いまま終わった。
ミロ「どうして本名を隠すのだろう。よっぽど知られたくないのだろうか」
シャカ「うむ。裏を返せばそれぐらい変な名前だということだな。『デスマスク』も悪役覆面レスラーみたいで完全におかしいが、もっとおかしな名前とはなんだろう」
カノン「あれだ、エロマンガ島みたいなノリなのだ、きっと」
バラン「それは確かに名乗れんな・・・;」
サガ「あるいは同名であまりにも偉大な人間がいるため公言できんのかもしれん。アインシュタインとか」
ムウ「そんな謙虚な人間ですか。単に変な名前だという説に一票ですね」
カミュ「しかしデスマスクも、これだけ名前攻撃にあわされたのだ。精神的に追い詰められて、寝ながらうなされたりするのではないか?その時にふっと自分の名前を口走ったりせんものかな」
ミロ「ご都合主義だが・・・ありえないとも言い切れんな」
一同は顔を見合わせた。
草木も眠る丑三つ時。
アフロ「・・・押すなよ。見つかったら本気でキレられそうだからな」
シュラ「なあ、張り込みはいいが、どうして俺までやらねばならんのだ・・・?」
アフロ「責任放棄か?君だって、蟹の本名を知りたいと思うだろう?」
シュラ「それは気にはなるが、しかしここまでして知ってどうするという気がしなくも・・・」
デス「・・・・・何してんだおまえら、そこで」
二人「!!」
寝言を盗み聞きに来たはずが、速攻で見つかった二人である。
アフロ「よ、よくわかったな」
デス「夜中に人の部屋でヒソヒソ言ってりゃバレるに決まってんだろうが。何しに来た?」
アフロ「・・・フッ」
アフロディーテは開き直った。
アフロ「君の寝言を聞きに来たのだ」
デス「変態かてめえは!!シュラ、まさかとは思うがお前も同じ動機じゃねえだろな!」
シュラ「いや、お前の寝言を聞きに来たのは確かなんだが、お前の寝言を聞きに来たわけではない・・・・って、すまん、言ってて自分でも意味がよくわからん;俺はなにを言いたいんだ?」
デス「知らねえよ。要するに何しに来たんだお前」
シュラ「さあ・・・;」
アフロ「さあ、ではない!デスマスクの本名を聞きに来たのだろう!?」
デス「ならなんでコソコソ隠れてんだよ」
アフロ「こっちにも色々事情があるのだ!君が大人しく教えないからだぞ本名!」
デス「・・・本名本名うるせえなあ・・・」
あたまをガシガシ掻きながら、渋い顔のデスマスク。
デス「俺には本名なんかねえよ」
アフロ「無いこと無いだろう?」
デス「呼ぶのに不便じゃなきゃいいだろうが、デスマスクで。とっとと帰って寝ろよ。何時だと思ってんだ」
アフロ「君だって起きていたではないか。何をしていたのだ?」
デス「・・・・色々考えることがあって眠れねえんだよ」
ふっと遠い目をする。
デス「昔な・・・・あるところに一人の男がいた」
アフロ「何いきなりモノローグに突入して・・・・」
デス「黙って聞け。その男は物心のついたときから一人だった。周りに頼れるような人間も無く、名前を呼んでくれるはずの親も無く・・・・自分の名前がわからなかったって当たり前だろ」
言葉に詰まるアフロディーテとシュラの前で、彼は皮肉に微笑む。
デス「生きるためにはあくどい事もいろいろした・・・・やたらめったら他人を恨んだこともある。だが、そうして男は強くなっていった。・・・・・という気の滅入る内容の本を前に読んだんだがタイトルは何だったか気になって眠れな・・・」
黄金全員「読書感想かよ!!」
シャカ「シリアスに話し込むからてっきり君の昔話だと思ったではないか!!」
ミロ「まったくだ!!扉の向こうでもらい泣きしてた俺の涙を返せ!!」
デス「知るかそんなもん!!お前らなんで全員して人の部屋に忍び込んでんだ!?っていうか、そんなに隠れるとこあるのか俺の部屋・・・」
シュラ「読書感想だか何だかしらんが紛らわしいにもほどがある。危うくお前のイメージが『愚連隊の一直線上で戦後の混乱に乗じて黄金化した奴』から『必死に頑張ったけなげな男』に見直されるところだった」
デス「そうかよ・・・・俺、お前は友達だと思ってたんだが、実は違ったんだな。よくわかった」
サガ「おい、それで本当のところはどうなのだ?お前の名前は何だ、蟹」
デス「あーうるせえうるせえうるせえ!!!貴様らに教える名前なんかねえよ!!散れってんだオラオラオラっ!!!」
しつこく訪ねられ、デスマスクはついにぶち切れて暴れ始めた。
が、敵の総数は10人。うち半数以上が手加減を知らない人間。ものの20分も立たないうちに粛清された。
完全に昏倒させられた彼は、悪夢のひとかけも見ないまま、朝までぐっすりよく眠れたという。
やはりこうなったらローラー作戦を続けるしかない。語りたがらないのはよっぽど妙な名前だからだろう。
よし、これからは妙な名前で攻めよう!
・・・というシャカの立案で、明けた翌日も拷問は続けられた。
カミュ「ホッテントット、いい加減名前を教えたらどうだ」
デス「なに人だ俺は!っていうか、何族だその名前!!」
カノン「文句を言うなグレゴリウスJr。俺たちだって一生懸命なのだぞ」
デス「Jrってなんだ!俺の親父もグレゴリウスか!?勝手に作ってんじゃねえ!!」
ムウ「サガ、このまま続けても埒が明きませんよ。そろそろペスにあなたの幻朧魔皇拳を叩き込んで自白させ・・・」
デス「ペスも俺か!?俺なのか!?」
サガ「黙っていろペス。話の邪魔だ」
デス「定着さすんじゃねえーー!!;」
ミロ「なべやん、久しぶりに飲みにでも行くか?今日」
デス「それは名前じゃなくてあだ名だろ・・・そんなあだ名のつきそうな名前も持ってねえし・・・くそ、なんかツッこむのも疲れてきた」
シャカ「ならばいい加減認めたらどうだ。お前の名前は花子だと」
デス「全然違うわ!!!!」
その他、ルンペルシュティルツヒェン、アジヤ=ブジバ=タルタルロー等の奇妙な名前。
ジュゲムジュゲム(以下略)、パブロ=ディエゴ=ホセ(中略)トリニダット=ルイス=イ=ブランスコ=ピカソ等のお前それ必死に覚えたろうというような名前。
また、ガイダンス、レジデンス、レジスタンス等のそれは人名じゃないからという名前や、クローン、アメーバ、16号等のそれは人間じゃないからという名前がゴマンと挙げられ、その一つ一つに律儀にツッコミを入れ続けた結果、デスマスクの喉は完全に嗄れた。
デス「・・・・・・ゲホっ・・・」
シュラ「・・・・・そんなになるまでツッこまなくても・・・」
デス「うるせえ・・・誰のせいだと思ってんだ・・・」
バラン「おい、無理をすると本当につぶれるぞ。もうよせ」
デス「それは俺の台詞だ・・・!」
サガ「わかったわかった。もう詮索はせんから、しゃべるな。私達も疲れた。皆、遊びはここまでにしよう」
シャカ「そうだな。飽きた」
デス「てめえらいつか絶対殺す!!」
アフロ「しゃべるなと言っているのだ!静かにしていろ!」
ミロ「デ、デスマスク・・・・その、そもそもは俺とカノンのせいでお前をこんなにしてしまって・・・のど飴いるか?」
デス「いらねえよ!」
怒鳴って盛大に咳き込むと、デスマスクは足音も荒く巨蟹宮の自室へ帰り、閉じこもってしまった。
蟹の名前当てゲームはこうして唐突に終わりを迎えたのであった。
それから三日ほどして。
アフロ「・・・デスマスク。入るぞ」
デス「・・・・・・・・・・・」
名前責めにあって以来、閉じこもったまますっかり拗ねて出て来なくなった友人を心配したか、アフロディーテが巨蟹宮を訪れた。
デスマスクは寝床でゴロゴロしていた。
アフロ「喉はまだよくならんのか」
デス「・・・・・・・・・・・」
アフロ「たいしたことは無いのだろう?つまらんことでいじけてないで、さっさと起きて出てきたらどうだ」
デス「・・・・・・・・・・・」
アフロ「・・・君が一向に顔を見せないものだから、ミロとカノンが責任を感じてな。『命の水を取りにいく』と言ってでていったまま消息不明になってるのだ。おかげでサガもやつれてきたし。君のせいだぞ」
デス「・・・・・・・・・悪いことは全部俺のせいかよ」
アフロ「ほら、しゃべれるではないか。甘えてないで起きろ」
デス「・・・・・・・・・・・・・・・・」
男は再び黙って向こうを向いた。
アフロ「デスマスク」
デス「・・・・・・・・・・・なあ」
アフロ「ん?」
デス「本名ってそんなに大事か」
アフロ「・・・・大事か、とは?」
デス「『デスマスク』でいいだろ」
アフロ「でも、それは二つ名だろう?あまり縁起のいい名前でもないしな」
デス「・・・・・・縁起悪くても、人に呼んでもらった名前はこれだけだ」
アフロディーテはデスマスクを振り返った。
ふっと、『読書感想』が頭をよぎった。
名前の無い男。
・・・・まあ、あの大半は読書感想に過ぎないのだろうけれども。
アフロ「・・・・ならいいのではないか。・・・安心しろ、もう誰も君をからかったりしないから」
デス「・・・・・・・・・・・」
アフロ「まだ寝ているか?」
デス「・・・・・・明日は起きる」
アフロ「絶対だぞ」
サガに伝えておく、と言って、アフロディーテはそっと部屋を後にした。
・・・誰が最初にデスマスクの名を呼んだのかはわからない。たぶん、知る術も無い。
しかしそれがどんな人間であっても、会えるものなら一度は殴ってやりたいと彼は思った。