アスガルドに冬の足音が忍び寄ってきていたある日のことである。
ヒルダがフレアを呼んで、鍵の束を渡し、こう言った。
ヒルダ「私は今日から一週間ほど、日本にいるアテナのもとへ呼ばれて行って来ます。その間、あなたにこの宮殿のことを頼もうと思うのですけれど・・・」
フレア「わかりましたわ、お姉さま。大丈夫、私はちゃんとやれてよ」
ヒルダ「宮殿の部屋の鍵を貴方に渡しておきます。今まで入ったことのない部屋もあるでしょうから、開けてみてもいいですよ。中を汚したりしないようにね」
フレア「はい」
ヒルダ「唯一つだけ言っておきます」
と、ヒルダは鍵の束の中から小さな金色をした一つをつまんで見せた。
ヒルダ「・・・この鍵は北の棟の13番目の部屋の鍵です。いいですか、フレア。この部屋だけは決して開けてはなりませんよ」
フレア「?どうして?」
ヒルダ「どうしてもです。絶対に開けてはならないと、それだけは覚えて置いてくださいね」
そういい残して、彼女は遠い南の地へ旅立っていった。
しかし、開けてみるなと言われると開けたくなってしまうのが人間の心理というものであろう。
そしてまた、「開けちゃいけない部屋の鍵なんか渡すなよ」というのも正論ではある。
だがそうした誘惑に負けてさっそく開けてみるほど、フレアは愚かな娘ではなかった。
フレア「お姉さまが絶対開けてはいけないっておっしゃったのだから・・・・」
ヒルダが出かけて2日後、自分に言い聞かせるように彼女は一人ごちていた。
フレア「開けてしまったら、きっと何か大変なことが起こるのね。それをわかっていて開けてみるのは、推理小説で言うところの犯人のもとへ一人で乗り込んで行って返り討ちにあう3番目の犠牲者みたいなものだわ」
13番目の部屋は、北の棟の一番端の部屋であった。
フレアはその前にある12個の部屋は、この2日間で全て開けてみていた。
一つ目の部屋を開けると、春の野原が広がっていた。
そんな馬鹿なと思って二つ目の部屋を開けると、こんどは青々とした草の茂る夏の林の中に出た。
三つ目の部屋は紅葉の山、四つ目の部屋はどこまでも続く雪と氷の大地、五つ目の部屋は海底、六つ目の部屋は雲の上というように、扉の向こうはいつも一体この宮殿は何なのかしらと思うに足る場所へ繋がっていた。
昨日最後に開けた12番目の部屋は宇宙へ繋がっていた。
では、13番目の部屋には何があるのだろう。
フレア「ワルハラ宮、無駄に部屋数多いとは思ってたけど一部異次元空間だとは思わなかったわ・・・やっぱり、そんなところを開けたりしたらタダじゃあすまないって事よね・・・・」
部屋の中身が気になるが、しかし言いつけを破ってひどい目にはあいたくない。
ならば・・・・
他の誰かに開けさせよう。
フレア「ああ丁度いいところへ来てくれたわ、アルベリッヒ。あなたならそれほど良心も痛まないから適任よ」
アルベ「は?」
フレア「北の棟の13番目の部屋に新兵器の設計図があるらしいの。持ってきてくれないかしら」
アルベ「・・・・兵器の設計図ですか?そんなものがここに?」
フレア「あるのよ。鍵は開いてるから頑張ってね!」
アルベ「?」
釈然としない面持ちながら、アルベリッヒは言われたとおりに北の棟へ行った。
フレアはこっそりあとをつけ、彼が確かに13番目の部屋へ入っていくのを見た。
それきり1日たっても出てこなかった。
フレア「・・・やっぱりやめておくべきだったかしら。でも、こうなるとますます気になるわ・・・一体何があったのよ」
少女の好奇心は、もはやとどめようも無かった。
フレア「フェンリル!あなたぐらいならいなくなってもバレないわ!ギングの餌が北の棟の13番目の部屋に置いてあるから持って行っていいわよ!」
フェン「!ありがとうございます」
バタン。・・・・・・・・・
フレア「バド!あなたもバレにくいポジションよね!シドが北の棟の13番目の部屋で呼んでたわ!」
バド「シドが?行ってみます」
バタン。・・・・・・・・・・・
フレア「シド!バドが北の棟の13番目の部屋に行ったっきり帰ってこないの(本当)!探しに行ってくれる?」
シド「バドが?わかりました、行ってみます」
バタン。・・・・・・・・・・・
フレア「トール!北の棟の13番目の部屋で雨漏りがひどいの!直してきてくれるかしら?」
トール「雨なんか降ってましたか・・・?いえ、承知しました。直してきます」
バタン。・・・・・・・・・・
フレア「ミーメ!北の棟の13番目の部屋は防音なの!あそこならいくら竪琴がなりたてても誰も文句言わないわよ!」
ミーメ「・・・迷惑だったんですか?私の演奏・・・・・よくわかりました」
バタン。・・・・・・・・・・・・・
フレア「ジークフリート!北の棟の13番目の部屋でお姉さまがあれなの!すぐに行って助けてあげて!」
ジーク「ヒルダ様が!?わかりました!(詳細無用)」
バタン。・・・・・・・・・・・・・
フレア「ハーゲン!もうあなたしか頼れる人がいないのよ!何でもいいから北の棟の13番目の部屋に行って!」
ハーゲン「はい!」
バタン。
・・・・・・・・・。そして誰もいなくなった。
フレア「いけない・・・つい勢いで全員13番送りにしちゃったけれど、このまま帰ってこなかったら私がお姉さまに怒られるわ」
いや、怒られるぐらいで済む話ではないだろう。
フレア「こうなったら・・・こうなったら・・・・・・・私も行くしかないわね!」
最初から自分が行けばよかった、と、扉のうちに吸い込まれながらフレアは思ったのだった。・・・・・・・
背中にじりじりとした暑さを感じて、アルベリッヒは目をさました。
その瞬間に、北国のものではありえない日の量が視界に飛び込んできた。
鼻に、潮のにおいを感じておどろく。
一体・・・・ここはどこだ?
アルベ「・・・・・・?」
体を起こすと、混乱はますますひどくなった。
自分が寝ていたこの白い砂浜といい、明るすぎるような太陽といい、暖かく打ち寄せる波といい、何一つ覚えの無いものだったのだから。
確か・・・フレアに言われて秘密兵器の設計図を取りに部屋に入って・・・そこから先の記憶が無い。
彼は努めて冷静に考えようとした。
アルベ「こういう場合・・・よくあるパターンとしては、部屋に入った瞬間に横から頭を一撃されて昏倒したというやつだな」
だが、別に頭は痛くなかった。
アルベ「とすると薬品か・・・・おそらくクロロフォルム。しかしなぜだ。裏で色々やってたのがヒルダにばれたか。だからといって有無を言わさず廃棄処分にされるいわれは無いような気がするが・・・」
それでも辺りを見回す限り、寝てるうちに捨てられたのは確かなことのように思われた。
しかも国外追放っぽい。
アルベ「・・・くそっ!卑怯な!出て行けと口で言われりゃ出て行ってやるものを!!今に見ていろ、地道に軍備増強してアスガルドなんかつぶしてやる!!」
がすっ!
愚痴るだけ愚痴って砂の上に拳をつきたてた、そのときであった。
背後から声がした。
少年「・・・おい、先生」
アルベ「!」
振り向くと、だらしなく汚れた格好をした少年が一人、立ってこちらを見下ろしていた。
アルベ「・・・何だお前は」
少年「なんだとはなんだよ。あんたの弟子にしてもらいにきたんだよ」
アルベ「弟子?」
少年「あんただろ?聖闘士にしてくれるって先生は。他の奴らと小宇宙が違うもんな」
アルベ「コスモだと?」
少年「・・・・あんたじゃねえのかよ?」
まだ小学校上がりたてぐらいの少年は、生意気な顔で口を尖らせる。
アルベリッヒはとっさに答えた。
アルベ「いや、俺がそれだ」
少年「ほんとか?」
アルベ「本当だ」
とにかく、なんだかよくわからないが今ここで話し相手を失うべきではないというのがアルベリッヒの判断であった。
嘘がばれたらばれたで「勘違いでした。すみません」の一言で済ませればいい。ガキとはいえ利用できるものは最大限利用するのが上策であろう。
コホン、とおもむろに咳をし、立ち上がった。
アルベ「お前は、つまり、聖闘士になりにきたというのか?」
少年「そうだよ」
アルベ「ならばまず、簡単なテストをさせてもらう。これに答えられなければ俺の弟子とは認められん」
少年「・・・わかった。どんなテストだ?」
アルベ「一般常識だ。いくぞ。第一問・この場所の地名を答えよ」
少年「地名?シチリアだろ?」
アルベ「シチリア!?イタリアの!?」
少年「ま、間違ってんのか・・・・?俺は確かにシチリア行きの船に乗ったはずなんだが」
アルベ「・・・そうか。まあいい、正解だ。・・・おのれ、まさか地中海域まで飛ばされていたとは・・・」
少年「?;」
アルベ「次に行くぞ。第二問・今日の日付を答えよ」
少年「・・・馬鹿にしてんのかあんた」
アルベ「黙れ!年月日が答えられんで聖闘士になれると思うな!」
少年「・・・・」
少年は眉根を寄せていたが、やがてある数字を口にした。
・・・・アルベリッヒは硬直した。
アルベ「・・・もう一回言え」
少年「あ?だからぁ・・・」
聞き間違いではなかった。
少年の言った年月は・・・それはアルベリッヒの記憶から10年以上もさかのぼった過去のものであった。
アルベ「・・・・・・・・・・・」
少年「?どうした?」
胸騒ぎを感じた。
・・・正しいはずはない。おそらく、このガキが何かを勘違いしているのだろう。
しかし・・・自分が何かとんでもないところへ来てしまったのは確かだという気がした。
アルベ「・・・・もういい。よくわかった」
少年「え?テストってこれで終わりか?俺、合格か?」
アルベ「ああ、合格だ」
この少年を追い払うわけには行かない。まだまだわからないことがありすぎる。
少年「ほんとか!?っしゃあっ!!おい、あんたの名前はなんていうんだ!?」
アルベ「名前?俺は・・・・俺はアルベリッヒ。お前は?」
少年「俺?俺は、えーと」
決まり悪げな笑顔を浮かべた少年は、銀の髪をかきあげて紅い目をそらしながらこう答えたのだった。
少年「デスマスクって呼んでくれりゃいいよ、先生」
所変わってスペイン、ピレネー山脈。
ジーク「ヒルダ様!どこにいらっしゃるのですか、ヒルダ様!!」
自らのおかれた状況すらも把握せず、目覚めた瞬間に主人の姿を探している男が一人いた。
ジーク「ヒルダ様ーっ!・・・くそっ、何がなんだかわからん!フレア様はヒルダ様が『あれ』だからとおっしゃったが、考えてみればあれとは一体何なのだ。というか、そもそもヒルダ様はギリシャにお出かけになられたのではなかったのか?お戻りになられたのか?そしてここはどこだ」
本来一番最初に疑問に思うべきことに最後にぶちあたる男、ジークフリート。
しかし結局彼にとって、それは些末な問題に過ぎなかった。
ジーク「ええい、どこであろうと構わん!とにかくヒルダ様を探さねば、日も落ちてきたし夜道は危ない!こんな岩だらけの空気の薄い場所では昼間でも危険だ!おい、そこの少年!ちょっと聞きたいのだがいいか!」
少年「ん?」
黒い髪の、目つきの鋭い少年が、少し離れたところで淡々となにやら稽古をしていた。
少年「何か?」
ジーク「このあたりで、水色の髪の神聖で美しく優しい女性を見なかったか?」
少年「?さあ・・・俺は朝からここで修行をしていたが、そんな女は見たことない」
ジーク「本当か?見落としたりはしていないか?」
少年「誰かが来ればすぐにわかる。この山にはそんな人間は来ていない。・・・・・・あんたはどこから来たんだ?」
ジーク「ワルハラ宮だ」
少年「ワルハラ?・・・知らんな」
ジーク「知らないことはあるまい。アスガルドに住むものなら誰だって知っているはず」
少年「アスガルドなどという国も知らない。ここはスペインのピレネーだ」
ジーク「・・・・・・・・・スペイン?」
さすがに、ジークフリートも妙だと思い始めた。
ジーク「・・・君はここで何をしているんだ?」
少年「聖闘士になる修行をしている」
ジーク「聖闘士だと?星矢を知っているか?」
少年「・・・・さあ。俺が知っているのは教皇様だけだ」
ジーク「教皇?」
おかしい。
聖域には教皇など、今はいないはずなのに。
ジーク「・・・・教皇など、いないだろう」
少年「いらっしゃる。いないのは黄金聖闘士だ。以前の聖戦で、ほとんどが死んでしまった。俺は山羊座の聖衣を継ぐためにこうして修行をしている。これも教皇様の勅命だ」
ジーク「・・・・・・・」
まじまじと少年の顔を見た。少年は切れ長の眼で、臆することなくジークフリートを見つめ返した。
ジーク「・・・・アテナは。アテナはどこにおられるのだ」
少年「どこにも、今はまだ。やがてこの世に降臨されると教皇様はおっしゃっている。その時のために、俺の力も必要なのだ」
ジーク「・・・・・・・君の名は?」
少年「シュラ」
それは、言葉だけならばジークフリートにもはっきりと聞き覚えのある名前であった。
一方その頃、シベリア大陸。
カミュ「・・・・というわけで、いずれこの世に現れるアテナをお守りするために、私は教皇から勅命を受けてここで修行をすることになっているのです」
ハーゲン「なるほど。それはわかった。しかし。それでどうして俺がお前の師匠にならねばならんのだ!俺にはそんな資格も権利も義務も無い!」
カミュ「いいえ、あなたこそわが師となりうる方です。なんと言っても、この猛吹雪の中でノースリーブというその格好こそが氷の聖闘士の象徴ではないですか」
ハーゲン「知るか!!」
ヒュゴオオオオオ・・・・
吹き荒れる風と雪。ブリザード。見渡す限りが真っ白な凍てついた大地。
そんなマイナス二桁の世界で、この二人は立ち話中である。
カミュ「確かに、貴方から見れば私などは才能の欠片もなく思われるのかもしれません。毛皮のコート着てますし。ですが、生粋のパリっ子として育ってきた私にとって、いきなりここの寒さに適応しろというのは無理な話なのです!」
ハーゲン「そんな話は聞いてない!!コートでもなんでも着たければ好きに着とけばいいだろう!?ただ俺を師匠扱いするのはやめろといっているのだ!お前のような奴を弟子に取る気は無い!!」
カミュ「なぜ!」
ハーゲン「うるさい!いきなりこんなわけのわからんところに飛ばされてきて、混乱しているのは俺の方だ!最初はアスガルドにまた冬が来たのかなぐらいの考えだったが、その実見たこともない大陸鉄道が走ってやがる!しかも目の前で事故って横転して炎上、とっさに助け出した子供に『師匠』呼ばわりされるとは、一体なんなのだ俺は!!」
カミュ「・・・・・」
子供はじっと彼を見上げていた。その眼に涙が浮かんだのに気づき、ハーゲンはぎょっとして口をつぐんだ。
カミュ「・・・私は・・・もうどこにも帰れません。今の事故で親も死んでしまったし」
ハーゲン「修行地に保護者同伴でくるな馬鹿者!!」
カミュ「私は・・・・・・・いえ、もう何も言いません。あなたが弟子入りを拒むというならば、この大地の礎となって死ぬだけです」
ハーゲン「・・・・何も言わないと言う割には嫌な脅迫をするなお前・・・・」
カミュ「・・・・・・・・・」
さめざめと涙を流す赤い髪の子供。
流れ出た涙は瞬時に凍りついてすごいことになってしまったが、それでも泣くのをやめようとしない。
ハーゲンはしばらくの間苦い顔をしていたものの・・・・・・・最終的には折れたのだった。
ハーゲン「・・・・・わかった。弟子にしてやろう」
カミュ「!」
ハーゲン「フレア様が何の目的で俺をここに送り込んだのかは謎だが、頼れるのは俺しかいないと言っていたし、ひょっとしたらお前の師匠になることをお望みなのかもしれん。だが、あの方が戻ってくるようにおっしゃったときには俺はお前など放り出して帰る!それを忘れるな」
カミュ「はい!わかりました!」
子供は涙氷のバリバリに張った顔でにっこりと微笑んだのだった。
・・・・グリーンランドのとある谷間に一軒のログハウスがあり、その窓辺で一人の男が憂鬱そうな顔をしていた。
バドである。
彼もまた、理解しがたい時空の渦に巻き込まれたのは他の者と同様であり、そして偶然にも一人の聖闘士候補生とであったところも他のものと寸分たがうことも無かったのだが、しかし多分に特殊な例に当たってしまった事は事実だっただろう。
キイっ
アフロ「先生、具合はどうですか?」
バド「・・・・・・・・・・・・ああ」
ドアを開けて部屋に入ってきた少年を見ようともせず、バドはうなるようにそう言った。
彼はこの少年に、倒れていたところを助けられたのだ。眼が覚めたらベッドに寝かされていた。
少年の名はアフロディーテという。
光で染め抜いたような柔らかいブロンドに、スウェーデン・フィヨルドの雫とも言うべきつぶらな瞳、ミルクにバラの花びらを浮かべたとはまさにこうであろう肌と唇。
以上の条件から初見でしっかり女の子と間違えたバドは、己の幸運を噛み締めつつ、たまたま家の前を通りすがった暴れ牛の群れをシャドウバイキングタイガースクロウで必要以上に殲滅したりしてしまい、その技に聖闘士候補生であるアフロディーテが感動して「先生」と呼んでくれるまでに親しくなり、一体自分がどういう場所に送られたのかはまったくもってわからないが、これならこれでいいのではないか、この子の足長おじさんとして一生を送るのもある意味幸せな人生といえるかもしれない、少なくとも女性部門ではシドに勝ったといえる、と優越感に心地よく身をゆだねていたつい昨日、ふとしたことからアフロディーテが男だったと知ってしまい、そのときの彼のショックは、エネルギーに換算すれば地球全体の消費電力を3年賄っておつりがくるぐらいのものがあった。
いかに美人でも同性では論外。
間違えたまま幸せ家族計画立ててしまった自分はシドがどうのという以前に人間として敗北である。
落ち込むだけ落ち込んだまま、一日中床に伏せっているわけなのであった。
アフロディーテはベッドの脇で、心配そうに首をかしげている。
アフロ「急にどうしたんですか。一度お医者さんにかかりますか」
バド「・・・・いい。どうせマイフェアレディ症候群とか診断されて恥をかくだけだ。俺のことはかまうな」
アフロ「でも・・・」
バド「かまうなと言ってるだろう!しかもなんだこの花は!家の中にバラなんか飾るな男の分際で!!」
アフロ「で、でも先生、一昨日まではすごく綺麗だって誉めてくれて・・・!」
バド「知らん!」
アフロ「だって、私が隣の温室で育てたんだって言ったら、すごい喜んでくれて!」
バド「忘れたそんな昔の話!!」
アフロ「な、なんか先生昨日から変わりましたよ!やっぱりお医者さんにみてもらった方が・・・」
バド「黙れ黙れ!!俺のことを『先生』などと呼ぶな!虫唾が走るわ!!『師匠』と呼べ!!」
アフロ「し、ししょう・・・」
バド「『お医者さん』もやめろ!!『医者』だ『医者』!!わかったか!!」
アフロ「は、はいっ・・・・っ!」
バド「泣くなーっ!!」
アフロ「っ、すみません!ちょっとびっくりして・・・!」
バド「いいか男は力が全てだ!実力こそが物を言う!!メソメソしてる暇があるなら外に出て外周300キロ走って来んか!!」
アフロ「は、はいっ!・・・・・ってあの、外周ってどこの・・・?」
バド「いいから行け!!」
アフロ「はいっ!;;」
アフロディーテは慌てて外に飛び出していったのだった。
そのほかの神闘士達も、大体皆が大して差のない環境へと迷い込んでいる。
ギリシャのミロス島では金の髪の少年がシドと出会って、完全に友達になっていた。
ミロ「シド、あんたが未来から来たというのは本当か?」
シド「ああ、お前の言う年号が真実ならな」
ミロ「帰りたいか?」
シド「それはもちろん。しかし帰り方もわからんし、お前に稽古をつけてやる約束をしてしまった・・・3食食わせてもらう条件で」
ミロ「じゃあ俺が黄金聖闘士になるまでここにいてくれるんだな!頑張るぞ!そうだ、きいてくれシド。もう、技を一つ覚えたんだ」
シド「ほう、どんな?」
ミロ「あんたがやってた奴だ。『シャドウバイキングタイガーズクロー!』・・・・な?言えただろ!」
シド「・・・・早口言葉か俺の技は・・・」
ミロ「そのうち構えもできるようになる!」
シド「やめておけ。百年早い。大体、その技は既にバドにパクられているからな。希少価値は薄いぞ」
ミロ「ばど?」
シド「ああ。人生で2度目の生き別れ中の俺の兄だ。よほど縁が薄いらしいな・・・・俺が帰れんのは、あいつを探しにここへ来たせいもあるのだ。見つけて連れて帰らねば」
ミロ「だったら俺も探してやるよ!」
シド「そうか、もし見かけたら声をかけてくれ」
ミロ「いや、ちゃんと探しに行って来る。どこにいるんだそいつ?」
シド「・・・・・・もういい。ありがとう」
・・・・ブラジルでは選ばれた者しか抜けないといわれている、岩に突き刺さった斧を何気なく引き抜いたトールが一人の大柄な少年に尊敬されていた。
バラン「あの、本当に俺なんかが弟子になっていいんですか?迷惑じゃありませんか?」
トール「迷惑、か。確かに迷惑と言えば迷惑だが・・・・しかし、神闘士サイドとしてはお前には負い目があるのでな。俺に直接の原因は無いが、やっぱり力になってやるのがスジだろう。そして俺はもともと、そういう貧乏くじを引きやすいポジションだ」
バラン「?」
トール「気にするな。あと10年以上したらお前にもわかる日が来る」
バラン「はあ・・・。あの、それで、最初の修行は何をするんですか?」
トール「最初は、そうだな。さとうきび農場のバイトをするぞ」
バラン「それは聖闘士になるのとどういう関係が・・・?」
トール「関係は無いが生活のためだ。食い扶持は自分で稼げ。いくぞ」
バラン「はい!」
・・・インドのガンジス川流域の寺院に出現してしまったミーメは神像の前で泣いていた少年に神からの使者だと思い込まれて崇拝されていた。
シャカ「それでは、天人様は今浄土を望むことはできないとおっしゃるのですか?」
ミーメ「そうとも。この世は醜い・・・人と人とが常にいがみあい、争いは絶えない。違うか?」
シャカ「・・・・」
ミーメ「所詮、この世はうたかたに過ぎない。人は生きて後必ず死ぬものだ。そして皆がそれを知っている。ならばなぜ、うたかたの通過点に過ぎない今生に、浄土を現さねばならないのだ?それはすぐに夢に消えると言うのに」
シャカ「ですが天人様、それならどうして人はこの世に生まれてくるのですか?死ぬためにのみ生まれてくるとおっしゃるのですか?」
ミーメ「いっそその方が楽なのだ。それを知ってさえいれば、人は無駄に争わずに済むものをな」
シャカ「・・・・・」
ミーメ「君が泣く必要はない。・・・というか、何で幼児相手に宗教哲学の議論をしなければならないのだ;」
・・・そしてチベットでは、フェンリルが眉の特異な超能力の一族を見かけていたものの、ちょっと恐くて話しかけられずにいた。
シオン「ムウ。それでは私は聖域のつとめに行ってくるが、留守を頼んだぞ」
ムウ「はい」
シオン「最近、このあたりは物騒だ。昨日も農家の羊一匹が、放牧地からはぐれたところを襲われて食い荒らされている。手口は狼のようだが歯形は人間らしい。得体がしれんから、外出のときはくれぐれも注意するのだぞ」
ムウ「わかりました。シオンも気をつけて」
シオン「ああ」
岩陰のフェンリル「・・・・・・・・・・・(汗)」(←食料は自力調達)
月日は瞬く間に過ぎていった。
一方、元の世界のワルハラ宮。
ギリシア訪問を終えて帰ってきたヒルダは、いつもは真っ先に出迎えてくれるジークフリートの姿が無いので首をかしげた。
宮殿に入ってみるとフレアの姿も無い。ハーゲンもいない。
嫌な予感がした。
ヒルダ「まさか・・・・」
一通り色々な部屋を探し歩いた後、例の北の棟13番目の部屋の様子を見に来た。ノブに手を掛け、ちょっと押す。
鍵はかかっていなかった。
ヒルダ「・・・・・・やっぱり」
ヒルダは深くため息をついた。フレアが禁断の扉を開けてしまったことは明白だ。あまり考えたくは無いが、ジークフリートとハーゲンも中に入ってる可能性が高いと思われる。
あれほど念を押したのに・・・・
仕方ありませんね、とつぶやいて、彼女もまた扉を押し開けた。
水色の髪が、部屋の中に消えていった。・・・・
つづく
次回予告!!
予期せぬ事態に巻き込まれ、異世界で生きていくことを強いられる神闘士たち!
そして神闘士を師匠にしてしまった黄金聖闘士(未満)たち!
過酷な修行の末に彼らを待ち受けていたものは、黄金聖衣との予想のつかないようなつくような何かどこかが懐かしい出会いだった!
果たして少年達は黄金聖闘士になれるのか!?
神闘士たちは元の世界に帰れるのか!?
消息不明のフレアはどうした!?
っていうか、キリリクなのに続き物でいいのか!?
そして何より、この連載は完結するのか!?
数々の不安な謎を抱えつつ、次号乞うご期待!!
作者の呟き・・・「いや、ほら・・・・全部書いてからだと更新遅くなる一方だし・・・・;」