あたしは通称「」と呼ばれている、女だてらの必殺仕事人。
 自慢じゃないけど、腕は超一流。J・F・Kから台所のゴキブリまで、あたしに狙われて三日と生きながらえていたものはいないわ。
 座右の銘は「生者必滅」、愛読書は「ゴルゴ13」。心を悪魔に売り渡した女、それがあたし。
 この奇跡の腕を求めて、黒鞄ひっさげた各国の裏組織の使いがどこからともなくやってくる。
 金額に不足が無ければ、仕事は選ばない。
 だってあたしはプロなんだもの。


 ・・・・だけど、今回の依頼を受けて一週間たった今、あたしはちょっと経営方針を変えようかと思っている。
 こんなに手こずりそうな仕事は始めてよ。一体何なのあの男は・・・
 




 依頼自体は大した事無かった。
 とある国の大統領を暗殺して欲しい。よくある話ね。
 この世界では標的と報酬が全てだから、依頼主がどういう人間なのか、動機は何なのかなんて聞かないのが暗黙の了解。
 そうでなくても大統領の命を欲しがる人間なんて、武器商人か宗教敵か愛人ぐらいのもんよ。くだらないわ。
 ただ、あたしに電話をかけてきた依頼人がこんなことを言った。

「あんたの腕を信用してないわけじゃないが、ホシはボディーガードを雇ったんでな。・・・手強いぞ」

 なめられたものね。SPの5人や10人に、このが臆すると思って?
 正直むっとしたわ。
 
「見てなさい。あたしの腕を疑った事を後悔させてあげる。成功したら、報酬は慰謝料こみで3倍いただくわよ」
「・・・・よかろう」

 ・・・相当大きなバックみたいね。まあどうでもいいけれど。
 商談が成立し、あたしは翌日から徹底的に調査に入った。大統領の移動経路やリムジンの大きさ、防弾ガラスの強度等を徹底的に調べ上げ、対策を練った。
 そんなに難しいことじゃない。いつもやっていること。

 そして一週間目の今日、500m離れたビルの屋上から高速道路を走りぬける大統領の車を銃で狙ったの。
 あたしの弾はサイドガラスを突き抜けて標的のこめかみに食い込む予定だった。
 スコープを覗けば、手に取るように彼の顔が見えるはずだった。

 なのに・・・・・・できなかった。

 私が土壇場で気が変わったなんてことはないわ。あるわけ無いじゃない。
 もっと単純なこと。大統領が見えなかったの。
 私の眼が問題だったわけじゃない。スコープも曇り一つなかった。
 それこそもっと単純なこと。サイドガラスの前に邪魔な人間が立ちはだかっていたのよ。
 ・・・・立ちはだかっていた、というのは正確じゃないかもしれない。
 その2mは優に超しているだろう大男は、時速100km出してるリムジンの横を並走して、サイドガラスを守っていたのだから。


 ・・・現場で混乱するなんて事は本当に久しぶりだった。
 ちょっと待ってよ。聞いてないわよ。
 あれが噂のボディーガード?・・・そうね、そりゃ手強いとは言われたかもしれないわ。
 でもこれは「手強い」とかそういうレベルなの!?
 あんなロータリーエンジン搭載したぬりかべみたいな人間を、私に一体どうしろっていうのよ!!
 つーか人間じゃないわよあれ!!

 呆然とするあたしのはるか遠くで、リムジンと男は走り去っていった。・・・・




 やってられねえ。
 心のそこから思った。やってられねえ。
 でも、この世界ではそんなことを言っていたら食べて行けない。
 あたしはとりあえず、あのわけのわからないボディ・ガードの正体を調べることにした。

 クライアントに連絡をとって、資料を回してもらった。
 送られてきた顔写真は・・・・お世辞にもハンサムとはいえないわね。いかにもって感じ?
 ・・・・ふーん。名前はアルデバランか。ブラジル出身の5月8日生まれの牡牛座B型。歳は、えっと・・・20歳。

「冗談じゃないわーーー!!!」

 思わず声に出た。

「このごっつい老け顔で私より年下!?サバ読んでんじゃないわよ!!」

 これで20歳だったら私なんか胎児どころか親父の中にもいないわよ!!
 一瞬資料を引き裂きそうになったけど、ギリギリで思いとどまって、続きを読んだ。

 彼、アルデバランは本業からボディ・ガードをしているわけではないらしい。
 本来の仕事は、「聖闘士」。

 ・・・・・せいんと、って何なのかしら。ボクサーのことを「拳闘士」とか言ったりするけど、あれと同じようなものかしら。
 「拳闘」はボクシングのことだけど、「聖闘」ってなんのスポーツかしら。
 資料にはこう書いてあった。

「なお、聖闘士とは世界の平和を守るための戦士のことである」

 ・・・・・。

 バカにされてんのかしら。

 なんなのよこれ!特撮のヒーロー解説じゃねえっての!!
 世界の平和を守る戦士って・・・・なに?国連の派遣軍かなにか?
 もっと詳しいことが知りたいのに、資料にはその先、奴のスリーサイズとかしか載っていない。
 知りたくないわよ野郎の腰まわりなんか!!
 あたしは独自に「聖闘士」について調べることにした。




 調べ始めてから3日目。ようやくほんの少しだけ情報が集まった。
 曰く、
「聖闘士とはアテナに使える少年達のことで、その拳は空を引き裂き、その蹴りは大地を割る」

 ・・・・・。

 えーと・・・・・何をどうコメントすればいいかよくわからないんだけど・・・・
 とりあえず、百歩譲って二十歳が少年だとしても、あの男は少年じゃないでしょう。
 ああ、無駄に疲労だけが溜まっていくわ;
 ていうかそもそもあたしの受けた依頼は「大統領を殺せ」であって、「ボディーガードを倒せ」じゃないんだってば。
 あの男に関係なく大統領撃ち殺せばそれでいいんじゃないの!何を迷ってるのよ!あんたはそれでも仕事人なの!?

 無理矢理自分を叱咤激励して、改めて決意する。これ以上手間取るわけにはいかない。
 必ずしとめて見せるわよ。
 




 選んだのは、ターゲットがオペラ鑑賞のために劇場を訪れるその瞬間だった。
 車から出てきたところを、殺る。
 
 アルデバランはまたも車と並走してやってきたけど、幸運にもドアが開いて大統領が下りてきたとき、奴は反対側に立っていた。
 チャンス!
 あたしはスコープを覗いてしっかり狙いをつけ・・・・・撃った。

 パシッ!

 その瞬間。
 奴・・・反対側にたっていたアルデバランの右手が、霞のようにぼやけた。
 そして、あたしが瞬きしなおしてスコープを覗くと大統領は無事で・・・・代わりに、あいつの右手の指の間に銃弾が挟まっていた。

 ・・・・・

 素手で受け止めやがった・・・(滝汗)

 ごめん、悪いけど普通に無理なんだけどこれ・・・・
 どう考えても人間じゃないから。
 クライアントに理由話して今回の仕事降りさせてもらおうかしら・・・でもなんて説明する?

「時速100kmで走って銃弾を素手で止める男がいるのでやめるわ」

 誰が信じるのよそんな理由。
 あたまがおかしくなったと思われんのがオチじゃないの。やめてよ。
 でもどうしよう・・・;;

 心の中で焦り、唇を噛んだあたしだったが、次にはハッとして目を凝らした。
 いつのまにかアルデバランの姿が消えていた。
 大統領の周りには、ありふれたチンケなSPが二三人いるだけ。
 どこへいったの・・・?いや、そんなこと考えてる場合じゃないわ!今しかない!
 あたしはもう一度スコープを覗きなおし・・・・

「いい加減にしろ。女」

 背後から声がかかったのはその時だった。





 振り向いた先に奴の顔があるのを認めたとき、あたしの気分はほとんど心霊現象だった。
 ありえない・・・劇場の入り口からここまで何百メートルあると思ってんのよ!!大体ここ、28階だしね!?

「あなたは・・・」
「あの男のボディーガードをしているものだ」

 彼が扁平な顎をしゃくったそのはるか先で、大統領が劇場に消えたところだった。
 しかしそんなことはどうでも良い。ってか、もう知ってる。

「それは知ってるけど!どうしてここに居るのよ!?あんたさっきまであそこに居たでしょう!?」
黄金聖闘士は光の速さを身につけているのでな」
「は?」
「・・・一々説明する義務はない。ともかく、大統領を狙うのはやめろ。さもなくばお前を捕らえて当局に突き出さねばならん」
「・・・・勝手にすれば?」

 あたしは銃口を彼に向けた。

「こっちも勝手にするから」

 ガガガガンッ!!
 
 ・・・音を出したのはあたしではなかった。サイレンサーつきの銃でこんなに派手な音がするわけもない。
 何が起こったのかは知らないが、銃が突然折れてひしゃげてボロボロになったのだ。

「やめておけ。俺に飛び道具は通用しない」
「何でよ!!ていうか、これやったのあんたなの!?うそ!!腕組んで立ってただけじゃない!!」
「これが俺の基本姿勢だ。そんなことも見極められんようでは勝負の結果は目に見えているな」

 見極めるも何も、しらねえよそんなこと・・・
 
「見ればまだシックスセンスにも到達していない様子だし、悪いことは言わん。あきらめろ」
「・・・シックスセンスって・・・・あんた、自分エスパーかなにかだってんじゃないでしょうね?」
「超能力者は友人にいるが、俺は違う」
「・・・・」

 やばい・・・絶対やばいわこの男・・・頭大丈夫かしら・・・

「・・・・あなた、一体何者なの?」
「聖闘士だ」

 だからそれは一体何なんだよと聞きたかったけれど、聞いたところでまともな答えは期待できない様な気がした。
 目の前にそびえたつ巨体の威圧感に圧倒されながらも、なんとか口元に笑みを浮かべるあたし。

「フ、フン。そう。だけど、その聖闘士とやらが何で大統領閣下のボディーガードなんかやってるわけ?」
「我らが教皇のご命令なのでな」

 やべえ、宗教関係かよ。

 ほんと、受けなきゃよかったわこの依頼・・・
 だが、密かに背中に冷や汗かいてるあたしの前で、男はごつい顔に憂鬱な影を覗かせた。

「まあ・・・俺とて、この仕事に気乗りはせん。お前の気持ちもわからんではない」
「・・・え?」
「軍事政権を一手に握って粛清・弾圧やりたい放題。民衆が路上で寝たまま食料も無いというのに官邸でキャビアを貪り食う、そんな大統領だ。殺したくもなるだろう」
「・・・そうね。今初めて聞いた話だけど、純粋に殺したくなるわよね」
「気持ちはわかる。しかし・・・教皇の御意向としては、やはり個人の殺し屋に任されるべきではないだろうと」

 知らないから。そんな電波な話されても。

「大統領に不満があるとしても、お前は依頼され金をもらっているプロの殺し屋だろう。命一つを渡すことはできん」
「へえ?ならお金をもらっていないなら殺しに行っても止めないっての?」
「うむ。教皇からも言われた。『一般民衆が武器を持って攻めてきたら、見捨てて構わん』と」
「・・・それは要するに詐欺なんじゃ・・・」
「とにかくそういう事なのだ。ここは引け、女」

 ・・・・・・あたしにどうすることができただろう。
 引けといわれても、銃はメキメキに破壊されているし、引くしかないのが現状だ。
 あたしは黙ったまま、下を向いてうなずいた。

「わかったわ。もう・・・やめる。約束するわ」

 初めて味わった屈辱だった。





 約束と若者の夢は破れるためにある。
 この人生訓示に基づいて、あたしは翌日から職場復帰した。
 甘いっつーのアルデバラン。諭されたぐらいで仕事やめてちゃ殺し屋なんかやってらんないわよ。ケッ。
 めっちゃくっちゃにされた銃は処分するとして、あのぬりかべ野郎攻略のために、新たな武器を選ばなくてはならない。
 バズーカ砲・・・もいいけど、でも女のカンだとあいつ戦車で踏み潰すぐらいじゃびくともしないような・・・・
 そんなバカなことあるわけないのはわかってる。でも、ありえないとも言い切れない。
 つーか、たぶんある。今までの流れから行くと。
 化け物相手に有効な手段を求めて、あたしが最後に行き着いたもの。
 
 それは毒ガスだった。




 ごめんなさい、官邸付近に在住の風下の皆さん。ご迷惑おかけします。
 心の中で未来のホトケに手を合わせつつ、風の強いその夜、あたしは作戦を決行した。
 官邸風上に毒ガスボンベをセット。肌に一滴ついたら即死なので、自分の防毒には細心の注意を払った。
 後は栓を抜いて風に漂わすだけ。
 せーの・・・・

「約束を破る気か」
『むぶおっ!?』(←*ガスマスクのため声がくぐもります)

 目の前にやおら現れた巨体にびびり、あわててボンベから手を離して10mほどもバックするあたし。

『なななな、なによあんた!?』
「何とはなんだ。二度とやらんと約束したお前こそ、ここで何をしている」
『何って・・・見ればわかるでしょ!?暗殺よ!!』
「開き直るな。これはガスか?暗殺というよりは化学テロではないか」

 うっ・・・・・言われてみればそうかも・・・・;

『そ、それより、どうしてあたしが来たってわかったの!?』
「お前の小宇宙を感じたからな」
『こすも?』
「ああ。心の中に眠っている宇宙開びゃく以来の力・・・・」

 ・・・・どうやら野郎の属する宗教の専門用語らしい。

「つまり小宇宙とは己自身の秘めたる可能性なのだ。そしてそれを最大限に燃やすことで奇跡を起こすことが・・・」
『ごめん、もういいわ。ようするにバレちゃったってことが今一番重要なのよね』
「だったら聞くな」
『二度と聞かないわよ。で、どうするの?あたしをひっとらえる?』

 ちょっと笑って見せた。
 一歩ずつゆっくり、彼に近づく。

『今さら二度とやらないなんて言っても、もう信じてくれないんでしょ?』
「当たり前だ」
『そうね』

 あたしは彼の目の前に立った。

『なら、捕まえなさい』

 そして・・・・指をガスボンベの栓にかけた。

『もっとも、つかまる前にあたしの仕事はやっていくけど。あなたも死ぬことになりそうね』
「それはどうだろうな」
『毒ガス吸っても死なない自信が?試してみる?』
「俺のことはどうでもいい。だが、お前がボンベを担いで来たのは庭から見えたからな。大統領には予防措置をしておいた」

 なっ・・・!!

『うそ!!』
「俺が嘘をついているように見えるか?」

 あたしは彼とにらみ合った。
 アルデバランはただじっとあたしを見つめ返す。その瞳に・・・・偽りの色は無かった。

「無駄に人を殺すな」

 がっくりと、全身から力が抜けて。
 自然に指は栓から離れていた。

「・・・・お前、名は?」
『・・・・・・
「本名か?」
『そんなわけ無いでしょ?アルデバラン』

 あたしが名前を言ったので、彼は驚いた顔をした。

「どうして知っている」
『調べてあるわ。あたしだってこの道のプロなんだから』
「・・・・そうか。なら、。一つだけ言っておくが」
『なに?』
「そんなものは取ってしまうのだな。似合わん」

 え?
 言葉の意味をはかりかねて硬直したあたしの顔から、ガスマスクがはがされた。
 あ・・・・・

「持ち帰って壁にでも飾っておけ」
「・・・いやよ、そんな悪趣味なレリーフは。あげるわ」
「俺こそいらんぞこんなもの・・・」
「受け取りなさい。5月8日だと思って」
「5月・・・・?」

 アルデバランは不思議そうな顔をした。あたしはもっと自分が不思議だった。
 どうして覚えていたのかしら。・・・・こんな男の誕生日なんて。
 相手は結局、最後まで気づかなかったようだ。しばしためらった挙句、あいまいに微笑んで、

「二度と会わんことを祈ってるぞ」

 の言葉を残したまま、片手にガスマスク、片手にガスボンベを担いで闇の中に消えていった。
 夜の強い風に、金の髪がさらさらとなびいていた。

 へえ・・・髪だけは綺麗だったのね。
 呆然とした頭で、そんなことを考えていた。





 あれから半年が経過した。
 あたしは結局大統領を殺すことができずに、仕事人を廃業した。あの男に出会って以来、まるっきり毒気をそがれてしまって、人を殺そうと思わなくなった。
 たとえどんなにお金をもらったとしても。
 今は小さなレストランでウェイトレスのバイトをしながら、日々をすごしている。

 大統領は、あたしが毒ガスを持ち出したあの晩に、死んだ。
 毒のせいではない。何者かが、寝ている彼の顔にガムテープでガーゼを巻きつけまくったのだ。
 大統領は窒息死した。

 ・・・・そうね、そりゃあ空気を吸わなきゃガスにはやられないものね・・・・
 ・・・見事な措置だったわ・・・・でもね?

 色々言いたいことと、真犯人の名前を胸に秘めたまま、あたしは時折手元に残った資料をあらためる。

 アルデバラン。5月8日生まれの牡牛座B型、年は二十歳。

 ・・・・変ね。何回も見直しているうちに、この顔もハンサムに見えてきたわ。コンタクト入れようかしら。
 それとも、本当にハンサムかどうか、もう一度実物を見て確かめるのもいいわね。
 彼は「二度と会わないことを祈る」と言ったけど、あたしが言うことを聞く女じゃないぐらいはわかっただろうし。
 本当の誕生日がめぐってくるまでに、探し出してみようかしら。
 できないはずはないわ。

 だってあたしは、その道のプロなんだもの。




初ドリー武小説です。
・・・一体どこのどのあたりがどうドリーム小説なのか、そして誕生日祝の創作なのか、その辺はあまり考慮しない方向で・・・;

牛誕企画出展作。

参加させてくださった羽賀ミヤビ様、炬 藍人様どうもありがとうございましたm^^m