チャーンチャーラチャンチャンチャンチャンチャーラ〜チャ〜ララ〜ン♪
 ピッ!!

デス「もしもし!!誰だ!?あ?シュラか?お前ちょうど良かった、聞いてくれよふざけんなよぶっ殺す!!」
シュラ「・・・・どうした?」
デス「いつの間にか携帯の着メロが結婚行進曲になってやがった!!ぜってぇアフロディーテのせいだクソ!!こんなのが街中で鳴ったらどれだけ恥ずかしいと思ってんだよ、なあ!?」
シュラ「・・・・恥はともかく、俺とお前の間にそんな曲が流れたのかと思うと全身総毛立つのは確かだな。いや、それより、すまんが急ぎの用なのだ。聞いてくれ」
デス「なんだよ」
シュラ「実は今、警察に連行されて事情聴取されていてな」
デス「おう、ムショの中では病気だけはしない方がいいぞ。申請したってどうせ医者になんか診てもらえねえからよ。過ごし易い刑務所ライフを送るには看守と渡りつけとくのが一番だ。いい奴に当たるといいな」
シュラ「まだそのレベルには行っとらん!!放り込まれるか否かの瀬戸際だからお前に連絡しているんだ!!頼む、助けてくれ!」
デス「んー・・・めんどくせぇ・・・・何したんだよ?」
シュラ「俺は何もしとらんのだ!」
デス「何もしてねえのにしょっ引かれるわけないだろ。容疑は何だ?」
シュラ「婦女暴行未遂だそうだ」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

デス「お前さあ!!だから俺があれほど女を世話してやるって言って・・・・」
シュラ「違う!!!冤罪に決まっているだろうが!!なに死ぬほど呆れた声出してるんだ貴様!!!」
デス「あ、違うの?」
シュラ「違うわ!!俺はただ・・・・街でガラの悪そうな連中に絡まれている女を見かけたから助けに入って」
デス「入って?」
シュラ「丁度警察が駆けつけてきたから安心しかけたら」
デス「しかけたら?」
シュラ「いつの間にやら女を襲っていたのは俺の方だということになっていた!!しかも女の方もそう証言している!!わけがわからん、何なのだこれは!?」
デス「・・・・何もクソも普通にチンピラ詐欺に引っかかっただけじゃねえか」
シュラ「詐欺!!?」
デス「気づけ。女も絡んでた野郎どもも全員グルだ。俺が昔アフロディーテとよくやった手口。しかし、お前みたいな目つきの悪いの引っ掛けようとは普通思わねえけどな。お前、カモにされやすそうな雰囲気でも出してたか?」
シュラ「知るか!!とにかく、警察は身元保証人だかなんだかに連絡を取って来てもらえと言っているのだ!サガには迷惑をかけたくないし、そもそも聖域の仲間をこんなことに巻き込むのは悪くて気が引ける!お前とアフロディーテを除いて!お前に頼むと色々高くつきそうだが、アフロディーテに頼むと収集がつかなくなりそうだからやはりお前だ!来てくれデスマスク!」
デス「・・・・・仕方ねえな。てめえ、その説明で駆けつけてやる友人に死ぬまで感謝しやがれ。場所は?」

 ・・・デスマスクは場所を聞くと口をへの字に曲げたまま携帯を切った。
 そして、めんどくせーめんどくせーめんどくせーと呪文のようにぶつぶつ言いながら身支度をし、巨蟹宮を出て行った。




 警察の取調室で、シュラは自分の顔が未だかつて無かったほど険悪になっているのをちゃんとわかっていながらどうすることも出来ずにいた。

シュラ「・・・・だから、俺は何もしとらんと言っている」

 睨み付けると相手の警官もやや身を引き気味になるのだが、恐ろしい顔はびびらす事はできても心象を良くすることには何の効果も上げなかった。むしろまったくの逆効果だ。
 「皆さん最初はそう言うんですけどねえ」という言葉が繰り返される。

シュラ「他の奴はどうだか知らんが俺はやったらやったと潔く認める!!ていうかやらん!!」
警官「あーはいはい。次は『今度のが初めてだ』って言うんでしょ?」
シュラ「言わん!!」

 警察も、目の前の男が素手でコンクリを滅多切りにできる人間だと知っていればこんな余裕もかませなかろうが、知らないというのは平和なものである。自白するまでのらりくらりとかわして行こうという意図が見えて、シュラの顔はますますうんざりしたものになってきた。
 と、その時。

警官2「す、すみません。お仲間の方が到着しました・・・」

 ガチャっ!と勢い良く戸を開けた割には妙に縮こまった様子で、外の警官が報告に来た。

警官「通しなさい」

 と、取調べの警官。
 シュラはほっと息をついた。
 やっとデスマスクが来たか。無罪放免と決まったわけではないが、一応これでなんらかの進展があるだろう。
 そう思って、安堵と礼の入り混じった視線をドアの方に向けると・・・・

デス「失礼」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・そこにいたのはマフィアだった。

 やたら高そうな黒のスーツ。やたら高そうな黒の革靴。やたら悪そうな黒のサングラス。
 いつになく物腰が優雅で紳士的だわ、内ポケットの辺りが微妙に膨らんでるわ、その足音の一つ一つが「24時間犯罪してます」と歌ってでもいるかのようであった。
 警官もすさまじくひるんでいたし、もちろんシュラはもっとひるんだ。
 しかし当の本人はというと、堂々と椅子を要求して腰を落ち着け、人当たりの良さそうな得体の知れない笑みを浮かべて警官に話しかけた。

デス「さて、と。これはどういうことか伺いましょうか」

 警官はにじみ出てくるマフィアの圧力に、シュラは蟹の敬語の気色悪さに、それぞれ冷たい汗を流す。

デス「うちのボスが女に手を出したとか。本当に?」
警官「ぼ、ボス!?」
デス「ええ、ボスです」
警官「馬鹿な!身なりも中流以下だし、そんな風にはとても・・・・!」
デス「庶民臭さが売りのボスなんです。ご存じ無かったようですねぇ。道理で命知らずなことをしてる」
警官「・・・・・・・・・・・・;」
デス「うちのボスに限って通りの女を襲うことなんかないと思ってました。意外ですよ。そんなことをせずとも非常に美しい恋人を持っておられるんでね。ほら、この女性ですが」

 蟹がふところから取り出したのは案の定アフロディーテのピンナップであった。
 隣でマグニチュード8.0の目眩を覚えて危うくぶっ倒れそうになるボス。辛うじて踏みとどまる。
 彼は、もう強盗殺人犯でも死刑でもいいからムショに入りたい、と半ば以上本気で考えた。

デス「どう思いますかね?」
警官「・・・美人、です・・・」
デス「貴方ならこういう女性を恋人に持っていた場合、街の通りすがりの十人並みの女に襲い掛かったりしますかね?」
警官「・・・・さ、さあ・・・・」
デス「もちろん貴方はしないでしょう。3年ほど前に素敵な奥さんをもらったばかりだ。2歳になるお嬢さんも実に可愛らしい。家庭は大事にしなければなりませんな。都会は物騒な事件も多いですから」
警官「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
デス「まだ何か取調べがあるなら手早く願いますよ。ボスは非常に気が短くてね」
警官「・・・・・・・・・・お帰り下さい」

 ・・・・・こうして、永遠とも思われる自白への道を敷かれていたシュラは、デスマスクの到来からわずか5分で釈放された。

デス「さあボス、どうぞ。運転は俺がします」
シュラ「・・・・・・・・・・」

 警察の前に横付けされていた出所のわからない黒塗り高級車に有無も言わさず乗り込ませられる。
 一路聖域を目指して走り出す車内では、大分長い間沈黙が座席を占めていた。
 やがてデスマスクがサングラスをとっぱらい、いかにも喜ばしいという風に口を開いた。

デス「良かったなシュラ。誤解が解けて」
シュラ「解けて無い!あれは絶対解けてない!!というか一生消えない新たな誤解を背負い込んだ気がする!!俺は何だ!?国際指名手配犯か!!?」
デス「いや、大丈夫だって。捕まったりしねえって。むしろこれからはちょっとやそっとの犯罪したって顔パスで無罪
シュラ「そんなVIPにはなりたくないわ!!」
デス「文句多いぞてめえ。俺はチンピラ詐欺の犯人どもにもきっちり自白させて謝らせたぜ」
シュラ「・・・なに?そんなことをしてくれていたのか?」
デス「おうよ。真顔で『面ぁ覚えたぞ被害者ども』って言ってやったら一発よ」
シュラ「・・・・・・・・・・・・・;」
デス「少しは礼を言え!」
シュラ「う・・・・・・そ、そういえばお前、あの警察の家族のことなどどうして知っていたのだ?」
デス「んなもん、部屋はいる前にもう一人の警官に吐かせたに決まってるだろ」
シュラ「この車は?」
デス「ん?まあ色々」
シュラ「・・・・・・・・・・・・・・・・;」
デス「ほら、礼言えって」

 腑に落ちない物はある。そりゃもう落ちるどころか逆流して吐きそうなぐらいあったが、助かったのは事実である。
 シュラはしぶしぶ言った。

シュラ「・・・・・・・・ありがとう」
デス「よし」

 デスマスクは満足そうにニヤリと笑った。

デス「さてと。聖域帰ったらお前が女襲ってしょっぴかれたって軽くご近所の噂話に盛り込んどいてやるからな」
シュラ「・・・・・やるだろうと思ったらやっぱりやるか貴様」
デス「当然。こんな面白いネタを俺一人で独占するわけにいかねえだろ。なあボス
シュラ「ぐ・・・・っ・・・・」
デス「観念しとけ」

 へっへっへっ、とすっかり優越感にひたってるらしい友人を、シュラはバックミラーを通して悔しげに睨みつけるが、どうしようもない。
 しかしせめて一矢報いなければ気がすまなかったので、苦し紛れにこう言ってやった。

シュラ「なら俺はお前が後生大事にピンナップ写真を持ち歩いていることをアフロディーテに教えてやる」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

デス「汚ねえぞてめえ!!!!」
シュラ「ん?どうした、随分な剣幕だな」
デス「うるせえ!!てめえそれが助けてもらった恩人に対する態度かコラ!!」
シュラ「赤いぞ顔が。・・・・なるほど。お前にはこういう攻撃が有効だったか。俺が今日一日で失った物は大きいが、何だかこの収穫で全てを帳消しにできそうな気がしてきた」
デス「黙れ!!」
シュラ「うむ、黙ってやっていてもいいぞ。もともと俺は無口な方だ。聖域に人聞きの悪い噂が立たなければの話だが」
デス「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
シュラ「お前がサービス精神発揮して皆を楽しませてやるというならそれでもいい。俺も見習ってアフロディーテを喜ばしてやる
デス「・・・・・・タチ悪ぃぞてめえ・・・・」
シュラ「どうする?」
デス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
シュラ「決まりだな」
デス「・・・・・・・・・・・・覚えてろ」

 デスマスクが力任せにアクセルを踏んだ。
 後ろの座席でのけぞりながら、シュラは口元が緩むのを押さえられなかった。いい気分だ。多少は申し訳ない気がしないでもないけれど、この悪友の泣き所のど真ん中を射ることができたのは何ともいえず快感である。

シュラ「どこか店に寄ろう。晩飯ぐらいは奢るぞ」

 運転席で荒々しくハンドルを切っている背中に言ってやると、答えはわざとらしいほど丁寧に返って来た。

デス「光栄です、ボス」

 サングラスをかけなおしたようであった。




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