ハーデス編・第一夜。聖域にシオン達がやってきた時。
アテナ「はっ・・・・・星矢・・・?今・・・星矢の声が聞こえたような気がしたけれど・・・。星矢がここに・・・?」
カノン「アテナ・・・。お目覚めになられましたか・・・」
アテナ「は・・・あ、あなたは・・・!どうしてここに・・・?」
カノン「お久しぶりでございます」
アテナ「何の用です!?冥界の犬どもがよってたかって私の首を取りに来ているというこのクソ忙しい時に!・・・まさか前回の復讐!?ポセイドン編のことなんて、今じゃ誰も覚えていませんよ!」
カノン「い、いえ、違うのですアテナ!私は、貴方の身に危機が迫っていることをお伝えしようと飛んできたまで。熟睡なさっているのでてっきり何も知らずにいらっしゃるのかと思い・・・ならばあえて叩き起こすのも失礼と、お目覚めになるのを待っていたのです。こう申し上げてはなんですが、下でムウが苦戦しているのにいびきまでかいてお眠りなのはどうかと」
アテナ「疲れているんですよ・・・貴方との戦いのせいで」
カノン「しっかり覚えておられるじゃないですか・・・」
アテナ「とにかく、冥界の手が私に迫りつつあることはもう知っています。わざわざ夜這いに来ていただく必要はありませんよ。大体貴方、どこからこの聖域に侵入してきたんですか」
カノン「スニオン岬経由で・・・・。アテナ、私がここへ参ったのは知らせのためだけではありません。貴方をお守りすることを許していただくためでございます」
アテナ「え?」
カノン「海底でのことを赦していただこうとは思いません。あれはあまりに重い私の罪・・・。しかし、私は眼が覚めました。今は貴方の僕として、13年前に貴方に救って頂いたこの命を賭したいのです」
アテナ「カノン・・・」
カノン「察するところ、冥闘士の中にはハーデスの走狗に成り下がった我が兄サガもいるようです。奴の悪は死んでも直らなかった・・・。私は何としても、あの鬼畜から貴方をお守りして見せます!」
アテナ「・・・・・。・・・・・それだけですか?」
カノン「え?」
アテナ「本当に私のためだけだというのですか?ようやくサガに復讐できるチャンスとか思っているのではありませんか?」
カノン「・・・・・。すみません、正直言うとそれも3割。やはりスニオン岬はあんまりだろうという気がどうしても拭いがたく・・・」
アテナ「それが人間というものでしょう。私は気にしませんから、存分にやってください」
カノン「!では・・・」
アテナ「ええ。カノン、どうぞ私と共に戦ってください。お願いします」
カノン「ありがとうございます!」
アテナ「それで、何か対サガ用の作戦は考えてきているのですか?」
カノン「お任せ下さい。まず、双児宮に迷宮をつくりあげ、サガと共にきているシュラとカミュに次元の狭間を走り続けてもらいます」
アテナ「・・・・・」
カノン「そしてサガとは遠隔操作した双子聖衣で対決!とどめ!・・・つまり、奴が12宮編でやったのと大体同じ事ですね」
アテナ「あ、ちゃんとわかっていましたか二番煎じだって。言っていいのかどうか迷いましたが・・・・結局オリジナルには敵わないのではないでしょうか。あいかわらずの駄目参謀っぷりですね」
カノン「・・・・・・」
アテナ「まあ、気を落とさないで下さい。やるだけやってみても損はありませんよ。双児宮なら失敗しても取り返しのつく距離ですし、時間稼ぎぐらいにはなりますとも」
カノン「・・・・・ありがとうございます」
アテナ「ここから遠隔操作をするのですね?下の教皇の間が開いていますから、そこをお使いなさい。一人で静かに精神集中できるでしょう」
カノン「承知いたしました。では」
十数分後。
ミロ「アテナ・・・。何もかわったことはございませんか」
アテナ「ミロ・・・」
ミロ「先ほどこの御寝所へ何物かが入り込んだような小宇宙を感じたのですが・・・。何しろ今はハーデスの先鋒が押し寄せている最中。お気をつけになりませんと・・・」
アテナ「ありがとうミロ。でも心配はいりません。先ほどここを訪れた者は敵ではないのですよ。むしろ心強い味方となってこの聖域に加勢にきてくれたのです。その者はあの、カノ・・・」
ミロ「な・・・何ですと!?あの男が生きていたというのですか!?し、しかもすでに双児宮を守っていると!?」
アテナ「まだそこまで言ってません。その通りですけれども」
ミロ「カノンですよね!?」
アテナ「確認するならもう少し人の話を聞いてからリアクションしたらどうです。・・・そう、カノンがここへ来てくれたのですよ」
ミロ「し、しかしアテナ!カノンといえばこの間の諸悪の根源!聖闘士内の鼻つまみ者ではありませんか!そんな者をお側に置くなど、危険すぎます!」
アテナ「ミロ、落ち着いて・・・」
ミロ「アテナ、お考え直し下さい。裏切り者の側に貴方を置くわけにはまいりません!あのような輩の手を借りずとも、このスコーピオンのミロがお守りいたします!貴方の御身に何かあってからでは遅いのですよ?大体、こんな夜中に女性の寝室へ忍び込んでくる男など信用できる人間のはずがないではありませんか!変態もはなはだしい!」
ドーーーン!!
アテナ「はっ!」
ミロ「うっ!何だ今のは!!」
教皇の間へのカーテンを開け放つミロ。
ミロ「下の双児宮からこの教皇の間へまるで落雷が落ちたような小宇宙を感じたが!!・・・・むっ!!」
床にあいた大穴を見つける。
ミロ「ま・・・間違いない。やはり双児宮からの攻撃的小宇宙がここを襲ったのだ・・・。し、しかしはるか離れた場所からここまでの威力を送り出すとはやはりあの男以外考えられない・・・。サガ・・・。信じたくは無かったがずっと感じていた敵の小宇宙はやはりお前たちなのか・・・。・・・ん?」
カノン「う・・・うう・・・・」
ミロ「そして聖闘士として戦いたいとアテナにお許しを得にきた男というのはおまえだな・・・サガの弟、双子座のカノン!!」
カノン「さ・・・さすがに神の化身と呼ばれたサガだ・・・。双子座の幻影などに惑わされる男ではなかった・・・。兄を・・・サガを止めるにはやはり全身全霊でぶつかってゆく以外に無い・・・」
ミロ「(うっ、相手にされて無い!)・・・。幸いダメージは少なかったようだな。ならばここから立ち去れ。いくらアテナがお許しになろうとオレたちまでがおまえを信用すると思うか。早急に消えろ。これ以上居るとこのミロが成敗してくれるぞカノン!」
カノン「・・・・残念だが立ち去ることはできん」
ミロ「ならば力ずくで叩き出すまでだ。どうあってもここから立ち去らぬかカノン」
カノン「去らぬ!わたしはアテナを守るためにここへきたのだから」
ミロ「笑わせるなーッ!ポセイドンを利用してアテナはおろか地上の罪も無い人々をさんざん苦しめたお前など誰が認めるかーッ!」
カノン「・・・(こいつ、あの時別に何にもしなかったくせにどうしてこんな知った風な口を・・・)」
ミロ「もう一度だけ言う。死にたくなければ去れ!」
カノン「くどい!今攻めてきている冥闘士たちがひとり残らず片付くまで去ることはできん」
ミロ「ならばくらえ真紅の衝撃!!スカーレットニードル!!」
カノン「!うわああーーッ!!」
十分後。
アテナ「ミロ!!」
ミロ「アテナ!お出になってはいけません。危のうございます」
アテナ「ミロ、あなたはいったい何をしているのです。カノンは前非を悔いてわたしたちの加勢に来てくれたといったではありませんか。あなたも今のこのカノンをみて善か悪かわからないはずがないでしょう。こんなことはもうやめてください」
ミロ「お言葉ですがアテナ、やめるわけにはいきません」
アテナ「ミロ・・・」
ミロ「たとえアテナがカノンをお許しになったといっても、わたしやアイオリア、シャカやムウたちは・・・いいえ、この聖域に生き残った全ての聖闘士たちはけっしてカノンを認めないでしょう。それほどこのカノンのために多くの血が流されたのです。ここで改心したからといって、おいそれと皆は信用しません」
アテナ「・・・(それはつまり、わたしの言う事も信用されてないってことなのかしら)」
ミロ「このカノンが本当に前非を悔いているのなら、みずから命を投げ出す必要があるのです」
アテナ「ミ・・・ミロ・・・(今そんなことをしても他の人は知ったこっちゃ無いのでは・・・)」
ミロ「さあ立てカノン!そして残り3発最後までうけ通してみせろ!!」
カノン「う・・・うう・・・。こ・・・来いミロ・・・」
アテナ「・・・・;(カノンまでノってしまっているわ・・・;)」
スカーレットニードル!スカーレットニードル!大出血!
さあゆくぞ最大の致命点アンタレス!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ミロ「・・・・・・。アテナ!冥闘士の小宇宙がひしひしと近づいてきているのを感じます。わたしは自分の天蠍宮へ戻ります。失礼!」
カノン「ま・・・待てミロ・・・。敵であるこのわたしの前にアテナをおひとりにして心配では無いのか」
ミロ「・・・。ここにはもはや敵はおらん。ここにいるのはわが同志・・・その名も黄金聖闘士の双子座のカノンだけよ・・・」
カノン「ミ・・・ミロ・・・!!」
・・・・パタン。
アテナ「カノン!」
カノン「ア、アテナ・・・ミロは・・・最後の一発はアンタレスではなく真央点をついてこのカノンの血止めをしてくれたのです。ミ・・・ミロはこのわたしを真の聖闘士として認めるための・・・いわば免罪符としてスカーレットニードルをうちこんでくれたのです・・・」
アテナ「ええ・・・。ふたりを見てわかりました。ミロの気持ちも・・・カノン、あなたの気持ちも・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
カノン「・・・・本当にわかりましたか?」
アテナ「・・・・。すみません、本当いうとちょっと釈然としない物が。わたしが許しても同意しない他の聖闘士たちが、ミロが許したぐらいであっさり貴方を許すものかどうか・・・」
カノン「同感です・・・。わたしはこの先、聖域中の人間からこんな目にあわされるのでしょうか・・・。ちなみにこの涙は痛みのせいなんですが。傷の」
アテナ「・・・まあでも、わたしが許しても同意しないのはミロだけという気もしますから、たぶん大丈夫でしょう。それに、他の聖闘士が貴方に危害を加えようとすれば、彼はきっと本気になって止めに入りますよ。とても真っ直ぐないい人なのです」
カノン「それはわたしにもわかりました。なんと言っても、教皇の間で精神統一しているわたしの目の前を素通りして貴方の寝室に駆け込んでいきましたからね・・・。気づかないにもほどがあるだろうという感じで、ああこいついい奴なんだなあと心から思いました」
アテナ「大丈夫?動けますか?」
カノン「ご心配なく。少しずつ痛みもひいてきました」
アテナ「よかった・・・。ところでカノン。ひとつ聞いておきたいことがあるのですけれど」
カノン「なんです?」
アテナ「あなた、結局サガには負けたんですね?」
カノン「・・・・・そこは触れないで下さいアテナ・・・・」
二人の夜は更けて行くのだった。