待ち合わせ場所は巨蟹宮にしろ、それなら比較的他に迷惑がかからずに済む、いっそもう聖域の外で待ち合わせてくれ・・・と仲間から言い渡されていたのだが、デスマスクは口でわかったわかったと言いながらもそれを守らなかった。
反発しているわけではない。ただ、デートのたびにアフロディーテが大遅刻をかますので、どうしても双魚宮まで迎えに行かなければならないのである。
デス「こら金魚!!てめえ今何時だと思ってやがる!!」
最近ではデスマスクも大体先が読めるようになってきたので、5分待たされたら怒鳴り込みをかけることにしていた。
宮の奥から大いに慌てたアフロディーテが駆け出してきた。
アフロ「すまない。支度に手間取っているのだ。現在進行形だ」
デス「・・・・何だその格好」
アフロ「何って、ナースキャップと猫耳とセーラー服とフリルエプロンと編みタイツと手錠だ。君の好みに合うように考えていたら自然にこうなってしまった。君はどの辺に萌えを感じる?」
・・・デスマスクはアフロディーテの頭を叩き倒した。
猫耳とナースキャップが外れて落ちた。
アフロ「痛い!」
デス「てめえの格好がな。俺をどんなイメクラマニアだと思ってやがる。まともな服を着ろ!」
アフロ「まともな服って・・・」
アフロディーテはデスマスクの格好を見た。
頬がぽっと薄桃色に染まり、それから唇がきゅっときつく結ばれ、さらには眉根が寄って目が釣りあがったところで叫び出した。
アフロ「失格!!全然まともじゃない!!」
デス「あぁ?」
アフロ「卑怯者!君は自分が背が高くて似合うからってロングコートなんか着て!」
デス「・・・お前と1cmしか違わねえぞ」
アフロ「そんなのは大全の表記だろう!?公式プロフィールなんて嘘八百並べ立てているのが常識だ!現実を見てみろ!映画の私は一輝より背が低かった!!」
デス「・・・・。公式が嘘ならお前よりむしろ一輝の方が身長も年齢も誤魔化してるんじゃねえの・・・?」
アフロ「それから君はわざと遊び人風にならない様に、黒ではなくてダークグレーのコートにした!ここで真面目ポイントを上げるつもりなのだ!しかも前を開けてコートの中になるようにマフラーを首から垂らして格好つけている!ハイネックのセーターなんかさりげなさを装ってるくせにブランド品と見た!・・・・・・うう、ずるい、格好いい・・・・・これでまた買い物の最中に変な女とかが色目使ってきて喧嘩の火種になってバッドエンドを迎えてしまうのだ・・・・もうデート行きたくない・・・」
デス「待て。こんな所から後ろ向きな妄想されても困る。俺が格好いいのはいつものことだろ。今さら凹むなよ」
アフロ「だって・・・」
デス「何でもいいから服着替えろ。時間が無くなる」
そう言いながらデスマスクはさっさと双魚宮の奥へと入り込み、アフロディーテのプライベートルームに押し入ってクローゼットを漁り出した。
アフロ「何をするのだ!」
デス「俺が服選んでやろうっつってんだ。お前にやらせとくと夜中までかかるだろ」
アフロ「ちょっ・・・!やめろ!人の物を勝手にいじるな!」
デス「なんだか無駄な服ばっかりあるな。これなんか究極にお前に似合わなそうだしな。つーかもう、純金ラメ入りスーツって似合う似合わないの問題じゃねえだろ。どこのステージで着る気だお前」
アフロ「それは襟の形が気に入ったから買ったのだ!色は関係ない!」
デス「ド阿呆。色と形と着心地が総合されて初めて一つの服だろうが。全体を見ないからこんなファンシーウサギ柄スパッツなんつーアサッテな物買い込むんだよ!パジャマだけに留めておけこういう柄は!」
アフロ「うう・・・ひどい。とても外には着て出歩けないがウサギ模様は可愛くて気に入っていたのに・・・」
デス「おい、こっちのは・・・・・・って大馬鹿野郎!!!」
アフロディーテは頭をぶっ叩かれた。
アフロ「い、痛っ!!いきなり何なのだ!!」
デス「うるせえ!!てめえこそ何だこの服は!!」
アフロ「あ。それはレースが綺麗で買ったのだ」
デス「レースが綺麗だからってマタニティドレス買う野郎がいるか!!あらゆる点で間違ってんだよ!!この買い物音痴!!」
アフロ「買い物おん・・・!っ、もういい!もう君には頼まない!!出て行け!私の服に触るな!!」
デス「俺は別に頼まれてやってるわけじゃねえ!そんなセーラー服に編みタイツ履いた格好で怒鳴られても恐くねえぞ!!俺を退散させたきゃまず常識のあるナリをしろ!おい、ここからここまでの服、全部捨てるぞ!」
アフロ「なっ・・・!!駄目駄目駄目!!」
騒ぐ魚を無視して、デスマスクはクローゼットの半分以上の服を引き摺り下ろすなり床にぶちまけてしまった。
紅白歌合戦の舞台裏かと思うほどの眼にも鮮やかな色彩が溢れ、一部からがっちゃんという音もした。
アフロ「ああっ!ツノが壊れた!」
デス「・・・どんな服持ってんだてめえは」
もはや服ですらなさそうである。
デス「お。これなんかいいんじゃねえの?まともなのもあるじゃねえか」
やや絶望的な雰囲気をかもし出していたクローゼットからデスマスクが引き出したのは、明るめの青いコートであった。妙な柄も付属品も無い、シンプルだが上品な一着である。
アフロディーテはにこっとした。
アフロ「そうなのだ。それは素敵なのだ。大事にしている。去年の冬にシュラが買ってくれて・・・・」
デスマスクはブツを床に投げ捨てた。
アフロ「何をする!!」
デス「捨てろ。てめえにゃ似合わねえ」
アフロ「ひどい・・・買ってもらうためにどれだけ私がねだり倒したと思っているのだ。磨羯宮に忍び込んでシュラの日記とか盗み見して弱みを握って・・・大変な努力だったのに、君はひどい!」
デス「いやお前もひどい。・・・・まあ脅迫ならまだいいけどな。色仕掛けだったら殺すけどな」
アフロ「?何をぶつぶつ言っているのだ?」
デス「何でもねえ。・・・・・・ん?おい、これ」
アフロ「うん?・・・あ」
アフロディーテの頬が再び桃色に染まった。
出されたのは深いモスグリーンのコートだった。前の合わせが中央から少しずらしてあり、両側のラインも綺麗に出るよう工夫されている。凝った仕立ての上物である。
アフロ「それは君が買ってくれた物だ。随分前に」
デス「だよな。お前、なんでこれ着ないんだよ。試着以外に着てるところ見たことねえぞ」
アフロ「だって・・・・そのコートは私の中で特別待遇なのだ。VIP。あんまり大事で大事で大事すぎて普段は着られないから、今生最後の時に着て棺桶に入ろうと思う」
デス「死に装束買ってやったつもりはねえぞ。生きてるお前に似合うと思ったから買ってやったんだ。ほら、着てみろ」
アフロ「・・・うむ」
デスマスクに促され、アフロディーテはいそいそと袖に腕を通した。中にはセーラー服を着たままだったが。
触り心地の良い生地が体を包む。肩にかかる重みは見た目よりも少ない。深い色は彼の白い首筋をくっきりと生えさせ、ことに豊かなブロンドを本物の金の様に引き立たせた。
姿見を見るまでもなく、向かい合ってボタンをかけてくれるデスマスクの表情で、これが自分に良く似合っている事がアフロディーテにはわかった。
デス「・・・・見てみな」
背中を軽く押されて鏡の前に立った。向こう側からびっくりしたような表情で、素晴らしく綺麗な青年がこちらを見つめていた。
デスマスクが後ろから襟の形を直してくれた。
デス「似合うだろ」
アフロ「・・・・うむ」
デス「これで少しは俺に釣り合う様になったろ」
アフロ「・・・・ばか」
デス「お前を世界中で一番良くわかってるのが誰かっつーことを覚えとけよ。あの青いのは捨てろ」
アフロディーテはくすくすと笑った。鏡越しに見えるデスマスクがわざとしかめ面をしているのが面白くて笑い続けていると、そのしかめ面は段々に微笑に変わって、ダークグレーの腕が肩を抱きしめた。
頬に軽いキスが触れる。後れ毛をかきあげて、もう一度。
鏡の中の魚は幸せそうに後ろの胸にもたれかかり、眼を閉じていた。
デス「・・・・じゃ、残りの服も選んでやるか」
アフロ「頼む」
すっかり甘えたな気分で顔を横に向けると、すぐそこにからかいを含んで笑いかけた唇があったので、ありがとうというかわりにアフロディーテは自分からキスを返した。
・・・・その後。
デス「・・・・・で、下着はこれ、と。よし!揃ったから着替えて来い!」
アフロ「!!ま、待て!これは何か下着だけ明らかにコンセプトが違う!!」
デス「違わねえよ。俺のトータルコーディネートをなめるな。一見モダンかつクールに決めていると見せかけて脱いだら凄いっつーギャップにそそられるんだよ。な?」
アフロ「な、ではない!」
デス「怒るなよ。持ち主はお前だろうが」
アフロ「君が前に無理矢理買って無理矢理寄越した品だ!持ちたくて持ってるわけでは・・・」
デス「まだ試着したところすら見たことねえぞ。何だ?これも死に装束用にとってあるのか?」
アフロ「違う!」
デス「遠慮しないで着ろって。生きてるお前に似合うと思ったから買ってやったんだ。ほら」
アフロ「嫌だ!変態!」
デス「早く着換えねえとデート時間なくなるなあ。せっかく久しぶりに二人で出かけられると思ったのになあ」
アフロ「う・・・・・・」
デス「俺の楽しみをフイにする気か?おい」
アフロ「私だって楽しみにしてたのだ!・・・で、でも、こんなの着させられるのならデートはもういい!行かない!」
デス「ほお。そうかよ。だったらやめだ。行かなくていいから下着をつけろ。他の服は着なくていいぜ」
アフロ「どうしてそうなるのだ!!」
デス「どうしてって、そりゃそうだろ?デートに行くなら服が必要だろうが、俺と二人で部屋にこもるなら下着だけでいいじゃねえか」
アフロ「そんな・・・・だったらデートに行く!」
デス「よし。じゃあ下着つけろ。せっかく俺がコーディネートしてやったんだから」
アフロ「卑怯者ーっ!!」
アフロディーテは真っ赤な顔でわめいてデスマスクの胸をぱかぱかと叩いた。
・・・二人がデートに出発するのはまだまだ先のことになりそうであった。