・・・・シュラがロドリオ村に飛んで行って。
 戻ってきたとき・・・・肩に担がれていたのは間違いなく「俺」。デスマスクの体だった。

サガ「デスマスク!!」

 床に下ろされたままぐったりと両手足を投げ出している「俺」に、全員が駆け寄った。
 俺も・・・カニになったおれも、台所からほんのすこし出てきてそれを見ていた。

アフロ「デスマスク!デスマスクっ!!」
シュラ「・・・・・・・・・」
シャカ「シュラ、どういうことなのだ。何か聞いてきたか?」
シュラ「いや、よくわからん。ただ、村の人間が言うには・・・・・」
ムウ「言うには?」
シュラ「・・・・・・・・・・魚屋のショーケースの中で死んでいたと」









ショーケースの蟹と魚屋のオヤジ。

*右のオヤジはフリー素材です。背景を差し替えてご自由に御使用下さい。使用説明






 ・・・・・・・・・重い沈黙があたりにたちこめた。

 ・・・・・そうか。俺、自分の体がカニになったと思ってたけど、入れ替わっただけだったのか。
 でも、なにも売り物と入れ替わらなくたって良かったのによ・・・

アフロ「こんな・・・・こんなっ」

 気がつくと、アフロディーテが泣いていた。

アフロ「せっかく誕生日に蟹鍋つくってやってたとこだったのに!」

 え?そうだったの?

サガ「アフロディーテ・・・」
アフロ「嘘だ!デスマスクが死ぬなんて!魚屋のショーケースで死ぬなんて!!」
バラン「・・・どこに重点置いて否定したいのかはわからんが、広い理由で嘘だと思いたい気持ちはわかるぞアフロディーテ・・・」
ムウ「何が・・・あったのでしょうね」

 ムウも沈んだ声を出す。

シャカ「・・・何があったかは知らん。知りたくも無い。どうせまたこの愚か者が自滅コースに突き進んだだけの話だろう」
リア「シャカ!」

 冷たいシャカの言葉に、アイオリアがきつい視線を返した。

リア「そういう言い方は無いだろう!?たとえデスマスクが正真正銘のバカで救いようが無いほどの三流悪役だったとしてもだ!そんな言い方はあんまりではないか!!」

 ・・・お前もな。

シャカ「何をどう言おうと私の勝手だ」
リア「いくらデスマスクでも魚屋のショーケースで自滅したりするものか!!」
シャカ「デスマスクだからこそ有り得る」
リア「もしも誰かがあいつを殺したのだとしたら!?」
シャカ「そんなことはあるまい」
リア「どうしてそういいきれる!」
シャカ「そんなことがあったら、私は終生そいつを恨み続けるからだ。無い方がいい」
リア「!・・・」

 アイオリアが肩透かしを食った顔で言葉を飲んだ。
 
 ・・・シャカ・・・・お前・・・・・

ミロ「おのれっ・・・!デスマスク!起きろ!!起きんとスカーレットニードルだぞ!おい、起きろっ!!」
カミュ「・・・ミロ」
ミロ「デスマスク!!」
カミュ「ミロ。無駄だ」
ミロ「無駄なものか!呼んだら・・・呼んだらまだ戻ってくるかもしれん!!」
カミュ「ミロ・・・」
ミロ「デスマスク!おーいっ!おいデスマスク!やっほー!!」
カミュ「・・・それは本当に無駄だろう」

 必死に「俺」を揺さぶるミロの向こうでは、シュラがこちらに背を向けて立ちすくんでいる。
 その両の手が、ぐっと強く握られていた。

 ・・・・・・・。

 サガがじっと下を向いている。アフロディーテは両手で顔を覆っていて・・・・カノンは所構わず壁という壁に拳を突き立てている。

 ・・・・・・・。

ムウ「・・・・・・聖域が、寂しくなりますね」
バラン「・・・・ああ」
ムウ「・・・・・・・・・・・・・・・どうしてこんなことに。デスマスク・・・・・・・いい感じの人だったのに」

 ・・・・微妙に嫌なニュアンスだなそれ・・・・;

 ・・・・・・・でも。
 皆が「俺」の周りでうなだれているのを見ていると、なんだか俺自身もしんみりしてきた。

 ・・・・・・・こいつら、全然俺の事なんか気にかけてなかったくせに。
 カニになっても気づきもしなかったくせに。
 全然、俺の事なんか・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・

 ・・・ふと振り返ると、コンロの上でかけられっぱなしの鍋がぶくぶくと沸騰していた。

デス「(どうせ戻れねんだしな)」

 俺は死んだんだ。
 もう、カニでしかいられないのなら・・・それならいっそ・・・・・

 あいつら、鍋食いたがってたしさ。

 俺はもう一度台所の調理台の上によじ登った。
 そして、ぐっと深呼吸をすると・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








いや、駄目だっつーの俺!!

ここまで来て死ぬなよ!!鍋になんかなるなよ!!
俺の本体が魚屋のショーケースで、モバイル体(違)鍋に死すなんかやってられるかよ!!
いくら感動したからって、俺が鍋になってもしょうがねえっつーの!!
大体この鍋、俺の誕生日祝いっつってたじゃねえか!!
自分のために自己犠牲してどうすんだよ!!

 そう思った。

 そう思ったんだ。

 だから



















 だから次の瞬間足を滑らせて鍋の中に転げ落ちたのはわざとじゃあねえ。

 結果は同じだけどよ。

デス「!!!!」

 熱く沸き立つ鍋の中に転落した俺は、あっというまに意識を失ったのだった。


×        ×         ×        ×



気がつくと、俺は花畑のどまんなかに倒れていた。
ちゃんと、自分の体で。

デス「・・・・?

 起き上がって辺りを見回す。一面の花と、向こうに流れている綺麗な川。
 そしてその川の向こうに人影が。 
 俺は気づいた。

デス「!アイオロス!!」

 アイオロスだ!俺を迎えに来てくれたんだ!
 飛び起きて、俺は川の方へ駆け出した。

デス「アイオロス!」
ロス「・・・・・・ーっ!!」








 向こうが何かを叫んでいるのはわかった。
 何だよ?よく聞こえねえよ。

ロス「・・・・なっ!」
デス「?」
ロス「こっちに来るな!」

 ・・・何だよそれ。
 俺はあんたに話したいことがたくさんあるんだよ。
 この13年間に起こったこととか。俺のやってきたこととか。あと、カニとか。
 アイオロス、あんたに話したいことがたくさんあるんだ。

ロス「来るな!デスマスク!」
デス「なんでだよ!」
ロス「来たらもう戻れなくなる!」
デス「かまわねえよ!!」

 戻ったってどうせカニだからな。

ロス「デスマスク!川を渡るな!!」
デス「知るか!!」

 だがそのとき。
 俺は俺に呼びかけてくるもう一つの声を聞いた。

??「さあ、来い。来るがいい。ここは良いところだぞ」
デス「?」

 なんだ?この妙な声。聞いたことねえな。
 アイオロスと同じ方から聞こえるが・・・・

??「川を渡って来い。来い。」

 俺は目を凝らした。
 そして、見た。











 ・・・渡るのをやめた。

こいつが誰だかは知らねえけどよ。やめるだろ。普通は。
左耳千切れてるし・・・・腹に穴開いてるし・・・・・

デス「アイオロス!また今度な!」

 とりあえずそれだけ言っておいて、俺は180度向きを変えて走り去ったのだった。

 川から離れるほどに俺の意識はまた遠のいて行く・・・・




×      ×       ×        ×



 
 眼を開けた。

アフロ「デスマスク!」
サガ「デスマスク!?」

 ・・・・なんだこいつら。眼、赤い。
 起き上がった。

ミロ「デスマスク!生き返ったのか!?」
デス「え・・・・」

 ミロが話しかけている。俺に。
 そう、俺に。

デス「!俺・・・!」

 急いで自分の手を見ると、それは紛れも無く人間のそれだった。
 はさみじゃねえ。

デス「元に戻れた・・・!」

 呟いた俺を、周りの奴らは一瞬不思議そうな顔をして見たが、すぐにそれどころではないという雰囲気になる。

シュラ「おい!なんなのだお前は!死んだのではなかったのか!?」
デス「いや、死んだは死んだらしいな。アイオロスに会ってきたぞ。今度はお前も一緒に行くか?」
シュラ「阿呆!」

 頭をこづかれたが、腹も立たなかった。

シャカ「デスマスク。さっそくゾンビ返りとは生きがいいな。迷わず成仏したまえ」
デス「ゾンビじゃねえ。やめろ。読経するな」
ムウ「やっぱりあなたはいい感じのキャラですよね」
デス「・・・・キャラかよ今度は」
ムウ「なんです?」
デス「なんでもねえ」

 後ろから誰かが抱き付いてきた。

アフロ「デスマスクっ・・・!」
デス「やめろ。触るな。寄るな。それでなくてもお前とは妙な雰囲気だったんだ」
アフロ「!なんだその言い方!!君、私がどれだけ心配したと思っているのだ!?どうしてそんなひどい台詞が言えるのだ!!耳噛むぞ!!」
デス「いていていて!!!・・・・って、なんだこのにおい?」

 アフロディーテを振り切って噛まれた耳を押さえる俺の鼻がとらえた臭い。
 妙に焦げ臭い・・・・・台所から漂ってくる・・・・・これは・・・・・・

全員「鍋!!」
アフロ「?デスマスク、どうして君が鍋のこと知ってるのだ?」
デス「黙れ!とにかく火を止めろ!火事になる!俺の家だぞここ!!」

 真っ先に飛んでいった俺は、もうもうと湯気を上げている鍋を見つけて光速で火を止めた。
 蒸気の向こうにちらりと赤い色が見えた。
 
 カニ。

デス「・・・・・・・・・」
サガ「ああ、なんとか食べられそうだな。どうした?デスマスク」
デス「いや。・・・・カニだなあと思ってな」
サガ「お前の誕生日祝いにな。アフロディーテが見つけてきた」
デス「・・・・・」
サガ「?おい、デスマスク」

 俺はそのカニをつかんで持ち上げた。(かなり熱かった)

デス「このカニ・・・」
サガ「?」
デス「・・・・・・・・・・なんでもない」

 なんだか、妙な気分だな。
 さっきまで、俺がこれだったんだから。それがいま・・・・煮られて目の前に。
 
 カニ・・・・・食われたく、なかったよな・・・・・

バラン「どうかしたのか?何をじっと見ている?」
デス「・・・俺、このカニに見覚えがあるような気がしてよ」













というわけでその日の夜はカニ鍋パーティーだった。

誕生日っつーよりは復活祭だったけどな。

 今回の一件を通して、わかったことが一つある。

 人間が一番だ。

 これっきゃねえ。
 結局人間だよ、人間。

 カニミソを舐めながら、しみじみと悟る俺、××才の夜だった。




終わり



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