だって、そんなことは知らなかったのだ。
 君は何も言わなかった。黙っていた。笑っていた。気づいてやれなかった。
 あの日、本当のことを見るまでは。




 もういやだ!もうやりたくない!
 そんな泣き言を彼の所に持ち込んだのはいつだったか。ずっと昔のことだ。自分はまだ全然幼くて、たった一つの歳の差をとても大きなものだと思っていた。

デス「なんだ?どうした」
アフロ「飯が食えないのだ!」

 怒鳴った瞬間吐き気がこみ上げてきた。腹の中はとうに空っぽのはずなのに胃の腑がでんぐり返りそうだ。
 体を折って口を押さえていると、デスマスクが真面目な顔できいてきた。

デス「・・・・・妊娠か?」
アフロ「大バカ!!するわけないだろうが!!それはもっと、大人の人がすることだ!」(注:アフロこのとき9歳)
デス「そうか。お前もバカだな。妊娠じゃなければなんだよ。拒食症か?ダイエットはよせ」
アフロ「してない!私は全然太ってない!アルデバランがしてないのにどうして私がするのだ!」
デス「じゃあなんだよ」
アフロ「気持ちが悪いのだ!」
デス「・・・・全然元気そうに見えるけどな。それだけ怒鳴っといて今さら・・・」
アフロ「だって臭いがするのだ!」
デス「におい?」
アフロ「血のにおいが昨日からずっとする!」

 ・・・デスマスクの軽口がやんだ。
 彼は近づいてきて、こちらの髪の匂いをすんすんとかいだ。

デス「・・・・バラの匂いしかしねえよ」
アフロ「嘘だ!血の臭いが・・・」
デス「風呂入ってねえの?」
アフロ「何回も入った!」
デス「じゃあするわけないだろ。気のせいだ」
アフロ「だって・・・」
デス「気のせい」
アフロ「・・・・・・」

 人は言葉の重複を信じるという。噛んで含めるように言われて、アフロディーテは少しずつ落ち着いていった。呼吸が穏やかになり、泡立っていた胃袋もようやくもとに戻って、それと比例するように目頭が熱くなった。
 デスマスクがきいた。優しく。

デス「昨日は何人殺した?」
アフロ「・・・・・・・3人」
デス「なんだ、それだけか。俺は100倍くらい殺したぞ」
アフロ「嘘つけ」
デス「うん、100はちょっと嘘だけどな。でも、数え切れないくらい殺した」
アフロ「嘘つけ」
デス「本当だって」
アフロ「君からは血の臭いがしないではないか」
デス「そりゃあな。俺は綺麗に殺すから」

 と、笑う。
 アフロディーテは綺麗な殺しって何だろうと考え、それから自分が彼の仕事現場を見たことが無いのに気づいた。

アフロ「・・・・どんな風に殺すのだ?」
デス「魂を黄泉の国に捨てる」
アフロ「そうするとどうなるのだ?」
デス「死ぬんだよ」
アフロ「それが綺麗なのか?」
デス「たぶんな。シュラよりはましだと思う。あいつの場合、一人殺すと『猟奇殺人』とか騒がれて二度と同じ地区で仕事できねえからな」
アフロ「・・・・私もこの間、『バラバラ連続殺人事件』とかくだらない名前をつけられて三流新聞にさらされた」
デス「俺のはミステリアスだぞ。昨日の仕事なんか特に。・・・・見に行くか?」

 デスマスクの目はからかうように踊っていた。少なくともそう見えた。だから自分は行くと答えたのだ。
 それが未だに悔やまれる。

デス「じゃあついてこい」
アフロ「うん」

 二人は揃って立ち上がった。
 いつのまにか、あの嫌なにおいは消えていた。




 千と一つもあるアラビアンナイトの昔話。その中に真鍮の都の話がある。
 ダマスカスのむこう、エジプトのはるか彼方、砂漠を越えた場所にあるという伝説の都。
 神の怒りに触れでもしたか、そこでは王は玉座に座ったまま。王女はハレムに眠ったまま。宝石商の主は水煙草を手にしたまま。
 皆ミイラになっている。

アフロ「・・・・・・・きれい。とても素敵だ」
デス「気に入ったか」
アフロ「うん」

 デスマスクの仕事も、あの話と同じぐらい不思議で美しかった。
 村の中には動くもの一つ無く、人々が皆やりかけた仕事そのままの格好で眠るように死んでいる。
 神の怒りに触れた都。教皇の怒りに触れた村。
 家々の間を吹き抜ける風には血のにおいなんかしない。苦痛の呻きも無い。
 なんて心地よい静けさ。

アフロ「きっと、真鍮の都もこんな感じだった」
デス「シンチュウの都?」
アフロ「昔話だ。皆ミイラになってしまった都の話」
デス「ミイラか・・・・そうできればな。ここの死体は3日で腐る。明日にはひどい臭いがしてるだろ」
アフロ「でも、今はきれいだな」

 きっとデスマスクは過ぎ越しの夜の神の様に人々を眠らせたのだ、とアフロディーテは勝手に想像した。
 村の道を風みたいに通り抜けて、またたくまに命をとっていったのだ。

アフロ「君はすごいな」
デス「そう思うか」
アフロ「私も君みたいにできたらいいのに。そしたらあんなに血をみなくて済むのに」
デス「三流新聞にも叩かれなくて済むし?」
アフロ「そう」
デス「なら代わってやろうか」

 ・・・・唐突に言われた言葉の意味をはかりかねて、おもわず顔を見返してしまった。
 
アフロ「・・・代わる?」
デス「お前が仕事をもらったら、俺が代わりにやってやろうか」
アフロ「そんなことしていいのか?」
デス「いいだろ。証拠が残らない方がサガにも好都合だろうし・・・この間、スコットランドヤードが出ばってきたときにはさすがに揉み消しがたいへんそうだったからな。本当は全部俺にやらせたいぐらいじゃねえか?」
アフロ「ならそうすればいいのに」

 何も考えずに言ってしまった言葉。いまからでも、捕まえて取り戻して粉々にしてやれたら。
 だがデスマスクはこう言っただけだった。

デス「仕事、俺に任せろよ。な?」

 笑ってた。
 だから気がつかなかった。 
 あんなことになると知ってたら、絶対に頷きはしなかった。絶対に、絶対にだ。
 だけどこの時は知らなかったから。

アフロ「うん!」

 元気よく言って、自分も笑ってしまった。
 夕焼けの丘の上。死んだ都を見下ろしながら。





 それからはいつも、ほとんどの仕事をデスマスクがやってくれた。
 その方が殺される奴も幸せだろう、と彼は言う。自分もそう思う。バラをぶっさされて失血死したり、バラ毒を嗅がされて悶絶死したりするよりは、安らかにあの世へ旅立つ方が全然マシというものだ。
 
アフロ「デスマスク、また仕事をもらった」
デス「またか。おい、少しは遠慮しろよ。俺のノルマものすごく不公平じゃねえか。疲れるし」
アフロ「だって、任せろと言ったではないか」
デス「そりゃそうだけどな・・・」
アフロ「代わりに私もなにかしてやる。洗濯とか」
デス「いらん」
アフロ「掃除は?」
デス「やめろ!!」
アフロ「!」
デス「俺のいない間は俺の宮に入るな!いいな、絶対入るなよ」
アフロ「・・・どうしてだ?」
デス「うるせえ。入るなっつったら入るな!」

 彼があまりに殺気だっていたものだから、アフロディーテも思わずこくんと頷いた。

アフロ「わかった。はいらない」
デス「絶対だぞ、約束しろ」
アフロ「・・・する」
デス「じゃあもう行け。シュラのところでも行って遊んでろ。昼飯、ちゃんと食えよ」
アフロ「うん・・・」

 どうしてこんなに怒られたのだろうと、腑に落ちないままアフロディーテは巨蟹宮を後にした。
 仕事に行くはずのデスマスクはこちらが見えなくなるまで動かず、それもまた見張られているようで不本意だ。
 宮の中に、一体何がある?
 いつか聞き出そうと思いながら、時間ばかりがたっていった。




 仕事の肩代わりがサガにばれた日、二人は揃って教皇の間に呼び出しをくらった。

サガ「アフロディーテ。お前は勅命のほとんどをデスマスクにやらせてるのだな?」
アフロ「はい」
サガ「はいではない!!何のために私が均等分割して仕事を割り振ってると思うのだ!?それでなくてもデスマスクの負担は大きいのだぞ!お前はこいつの何だ!情婦か!?」
アフロ「いろ?」
デス「別に頼まれたんじゃねえよ。俺がそうしたいから仕事よこせって言ったんだ」
サガ「デスマスク、お前・・・」
デス「最近はよく寝れるから全然大丈夫だ」

 最近は?

アフロ「前までは寝れなかったのか?」
デス「・・・・別に。お前は今でも人殺すと飯が食えなくなるんだよな?」
アフロ「うん」
デス「サガ、俺全然平気だよ」

 ・・・・サガは、ただ「好きにしろ」とだけ言った。
 教皇の間を出てから、アフロディーテはデスマスクに訊ねた。

アフロ「なあ、いろってなんだ?」
デス「赤とか青とか緑のことだろ」
アフロ「じゃあ、私は君の赤なのか」
デス「赤って感じじゃねえなあ」
アフロ「赤がいい。バラは赤いのが一番好きだから」
デス「そうか。ならそうしとけ」

 ・・・今から思えば実に微笑ましい会話だった。
 
アフロ「デスマスク。前まで君が寝られなかったのは、巨蟹宮になにかあるせいか?」
デス「・・・何もねえよ。大体、寝られなかったなんて一言も言ってないしな」
アフロ「寝てたのか?」
デス「あたりまえだろ」
アフロ「でも、巨蟹宮に何かあるのだろう?」
デス「何もねえって。どうしてそんなこと聞くんだよ」
アフロ「だって前、君が留守のときは入っては駄目だと言ったから、何か見られたくないものがあるのかと思って」
デス「留守中に家に入るなっていうのは当たり前のことじゃねえか?勝手に入ったら空き巣だろ」
アフロ「私は何も盗ったりしない!」
デス「とにかく嫌なんだよ。やめろ」
アフロ「じゃあ、君がいるときはいいのだな?これから行っていいか?」
デス「ん?・・・・・うん」

 妙に歯切れが悪かったが、聞き流した。
 巨蟹宮に着くと、彼はちょっと待ってろと言って先に中に入って行った。それからすぐに出てきて、どうぞと言う。
 前はこんなことしなかったのに。アフロディーテは首をかしげた。

アフロ「やっぱり、君は何か変だ」
デス「どこが」
アフロ「私に入って欲しくなさそうだ」
デス「ああ?俺ももうすぐ11だからな。思春期突入なんだよ。プライバシーはあんまり覗かれたくないっつーか」
アフロ「ふうん?」

 当時はわからなかった・・・・これがどんなに嘘臭い言い訳であるか。いや、嘘臭いとかそれ以前にガキがナマ言ってんじゃねえよというレベルの問題だ。
 しかし、あの頃は自分もまだ9歳だったから、一つ年上ってやっぱりすごいなとしか思わなかった。今さらながら悔やまれてならない。
 中に入るとデスマスクはを出してくれて、二人で色んな話をした。デスマスクが2話すのに対し自分が8ぐらい喋っていた記憶があるが、とにかく一応会話をしていた。
 それが途切れたのは、宮の奥から妙な音が聞こえてきたせいだ。

 お・・・・おおぉおおぉお・・・・・・・・

アフロ「?デスマスク、何だ、今の」
デス「・・・・・・・・なにが?」
アフロ「聞こえただろう?人の声みたいな・・・」
デス「風だろ」

 返事は早かった。アフロディーテは眉をひそめた。こんな風の音を巨蟹宮できいたことは無い。

アフロ「・・・・・ちがう。風じゃない。何か別の・・・」
デス「うるせえな。俺には何にも聞こえなかった!・・・・おい、そろそろ仕事の時間だ」

 帰れよ。デスマスクはこちらを見ないで言った。有無を言わさぬ口調で。
 彼の眉間が険しかったから、それ以上何かを追及することができなかった。
 でもはっきりとわかった。
 やっぱり、彼は何かを隠しているのだ。





アフロ「と、いうわけなのだ。どう思う?」
シュラ「・・・知らん」

 シュラの態度は愛想もそっけもなかった。
 せっかく相談にのってもらおうと巨蟹宮から駆け上ってきて、今までのことを全部説明したのにだ。

シュラ「デスマスクが教えたくないことをどうして俺が知っているのだ」
アフロ「知らなくてもいいから考えだけ教えてくれ」
シュラ「考えなんて無い」
アフロ「いろいろあるだろう?子犬を拾ってきて隠してるとか、浮浪者が住み着いてて脅されてるとか」
シュラ「・・・そんな3秒で消去できる考えを言ったところでどうなるんだ・・・・?俺は忙しい。無駄話の相手なら他を探せ」
アフロ「シュラ・・・」
シュラ「出て行け」
アフロ「・・・・・・・・」

 アフロディーテはふてくされた。ぷい、と横を向く。
 シュラは意地悪だ。態度も気に入らないし、それに・・・

アフロ「・・・君は血の臭いがする」
シュラ「なに?」
アフロ「君に殺された人間はきっとすごく苦しかったろうな。血だらけだ」
シュラ「そんなの、お前も同じだろう」
アフロ「そうだ。だからデスマスクにやってもらってるのだ。あいつはきれいに殺すから、死んだ奴も幸せだ」

 ・・・そう言ってやったのは、別に深い意図があってのことではなかった。
 ただデスマスクを自慢してシュラにあてつけてみたいという、子供の虚栄心が出ただけだ。
 それだけだったのだけれど。

シュラ「・・・・・本当にそう思ってるのか?お前」
アフロ「え?」
シュラ「本当にそう思ってるのかと聞いているんだ!」

 次の瞬間叩きつけられたのは思いも寄らぬほど怒気をはらんだ声と、肩をわしづかむ物凄い力だった。
 目を上げれば刃のような視線に切り裂かれた。逃れようともがけば壁に背を押さえつけられた。
 何がそんなに彼を怒らせたのかわからず、ひたすらに恐かった。

アフロ「シュラ、痛い・・・・!」
シュラ「いい気なもんだなお前は」
アフロ「痛い!」
シュラ「何もしないで知った口叩いていればデスマスクが全部やってくれるわけか。それであいつがどうなるか考えてみもしないのか」
アフロ「!・・・・・・・・・」
シュラ「覚えておけ!殺しにあるのは恨みと怒りだけだ。誰がそれを被っているのか、サガがどうしてデスマスクに全部任せなかったのか、少しは自分の頭で考えてみろ馬鹿!」

 思い切りゆさぶられて、壁に押さえつけられて。
 それからシュラが離れてもまだ、アフロディーテは棒の様に立ち竦んでいた。
 眉の間がゆっくりと白くなってゆく。何かはわからない途方も無い恐怖が小さな体を押し包む。
 ・・・そんなはずはない。

アフロ「・・・・・・・・・デスマスク・・・・・」

 そんなはずはない!
 身を翻し、アフロディーテは磨羯宮を飛び出した。



 だって、そんなことは知らなかったのだ。
 あいつは何も言わなかった。黙っていた。笑っていた。幸せに殺すのだと言っていたのに!

 嘘だ!


アフロ「デスマスク!!」

 ・・・・夜更けて帰って来た友人を、ほとんど半狂乱で迎えたことは覚えている。

アフロ「あれはなんだ!?あの部屋はなんだ!!きれいに殺すと言ったではないか!!」
デス「お前・・・・・・」
アフロ「嘘つき!!もう君なんか信じない!!」
 
 自分でも何を叫んでいるのかわからなくなっていた。
 恐ろしい予感に背中を押されて駆けつけた巨蟹宮で、アフロディーテは見てしまったのだ。
 デスマスクが隠していたもの。彼を眠れなくさせた殺しの報い。一番奥の扉のむこうにあった、それ。
 部屋中に巣食った、死者の恨みを。

アフロ「どうして隠していた!?どうして言わなかった!?あのうちのどれだけが私の分だ!?すぐに引っ越させろ!!お前の住処は上だといえ!!」
デス「・・・落ち着けよ・・・。だから入るなって言ったのに・・・」
アフロ「君はその方が幸せだと言ったではないか!あんな死に顔が出てくるなんて言わなかったではないか!君はいつも笑っていたではないか・・・・っ!」

 宮の一番奥の部屋は寝室だった。床に壁に天上に、一面に死人の顔が浮き出して苦悶の表情をうかべていた。そして今この瞬間もデスマスクに対する呪いの言葉をつぶやいている。
 こんな部屋で毎晩。
 ずっと一人で眠って。
 苦しまなかったはずがないのに。
 それでこちらばかりがのうのうとしているのをどうして黙って見ていられたのか。
 何が真鍮の都だ。何が過ぎ越しの神だ。
 死の都で真珠をとろうとした旅人が首をはねられたように、自分もまた討たれて消えてしまえばいい。

アフロ「なんでっ・・・・・!」
デス「おい」
アフロ「君はっ・・・・その方が幸せだって・・・・きれいだって・・・・・・・嘘つき・・・・・・・!」
デス「おい、泣くなよ」

 仕方ねえなあと、この期に及んでまだ笑うデスマスクがたまらなく悲しかった。
 そんな優しい言葉は欲しくないのだ。欲しいのは本当のことだけなのだ。

デス「俺は平気なんだから」

 本当に?

デス「あそこで毎日寝てたら慣れたし・・・」

 本当に?

デス「最初のが出てきたときはちょっと驚いたけど・・・」

 本当にそれだけか?

デス「今は全然平気だ」

 嘘つき嘘つき嘘つき

アフロ「君の言うことなんか信じない・・・・!」

 そうだ、絶対に信じるものか。
 もう決して仕事を渡したりなんかしない。自分はもっと強くなる。
 誓いを立てたのは焼け付くような後悔の底だった。
 友人の首にかじりつき、アフロディーテは声がかれるまで泣いた。
 





 その後。

アフロ「なぜだ!?どうして君のところにばっかり顔が増えるのだ!!私だってじゃんじゃん殺してるのに!!」
デス「あんまりでかい声で言わない方がいいぞそれ・・・・。まあ要するにあれだな。俺の宮は風水的に最悪ってことなんだろ。霊の通り道だきっと」
アフロ「そんなこと言って煙に巻こうとしても無駄だ!本当はどうしてだ!?秘訣を教えろ!」
デス「そんなに欲しいか死に顔・・・・?」
アフロ「教えろ!」
デス「・・・・そういわれてもなあ」

 散々渋るデスマスクをゆすったり叩いたりして、アフロディーテはようやく吐かした。

デス「これは俺の考えだけどな?俺のやり方はお前らみたいに外にでねえだろ。自然死に見えるから誰も殺されたなんて思わん。だからその分、恨みが深くなるんじゃねえのかな」
アフロ「・・・・・・・・・」

 真実を誰にも知ってもらえない死者。己で化けて出るほどの恨みはどれだけ激しく深いものだろう。
 デスマスクはずっとそれを背負ってきたのだ。今までも、これからも、ずっと。
 そんなことも知らず、自分はあの丘の上できれいだのすごいだのと言いたい放題言って・・・・・・

アフロ「っ!」
デス「あ、ほらまた泣く!だから嫌なんだよ言うのがよ!」
アフロ「泣いてない!ないてないっ・・・!」
デス「泣いてんじゃねえか」
アフロ「・・・・・・・・・」
デス「馬鹿だなあ。ほんと」
アフロ「っ・・・・」

 アフロディーテは友人の腕に顔を押し付けた。
 そして何度も呟いた。ごめん。

デス「だからもういいって」
アフロ「君の言うことなんか信じない・・・」
デス「信じないって、お前なあ」
アフロ「・・・・・・・」
デス「・・・じゃあ信じるなよ。『絶対ゆるさねえ』!」

 デスマスクは、また笑っているようだった。




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