星矢の暮らすヨットハウスに、一通の手紙が舞い込んだ。
淡い、花の透かし模様が入れてある綺麗な便箋に、濃紺のインクが鮮やかだ。
「星矢へ。お元気ですか?私は意外と元気です。最近は世の中も平和になって・・・・まあでもアメリカや中東でいろいろあったりしてますけれど、アテナの出番という事件はないので、私もすっかり隠居気分です。人間の問題は人間で解決するのが一番ですものね。解決しなさそうですけれど。
ディズニーシーがオープンしたのは知っていますね?酒解禁ですよ。でも私達は10代ですから関係ないんですけれどね。だからディズニーランドの方がいいですね。チケットを同封しておきますので、来週の日曜日にぜひ来てくださいね。 沙織より」
星矢「・・・・・・・っていう手紙を沙織お嬢さんからもらったんだけどさ」
瞬「・・・なんか、この展開の無理矢理加減からして、よっぽど友達に手紙書いたことないんだろうね。まあ、友達いなさそうな人ではあったけど・・・」
紫龍「だが、手紙のレイアウトに気をつかってくれているだけ招待状っぽい。俺の場合はシュラから、『来週の日曜、ディズニーランドで待つ』とでかでかと書かれた白い紙が一枚入っていただけだった・・・・場所が場所でなければ果たし状かと思っただろう」
氷河「ならば俺が一番良かったようだな。我が師カミュが便箋50枚に及ぶ招待状を書いてくれた。読んでいて涙が止まらなかった」
瞬「それは招待状っていうか、むしろ投稿小説の域に達してると思う・・・50枚も何書いたのカミュ・・・」
星矢「っていうか招待状で泣くなよ」
紫龍「瞬は?」
瞬「僕?僕は城戸邸から、印刷されただけのすごく業務用な招待状をもらったよ。別に十二宮で取り立てて親しくなった黄金聖闘士もいないしね。アフロディーテとは溝を深めただけで」
紫龍「・・・・そ、そうか」
星矢「みんな招待状もらってるってことは、一緒に遊びに来いってことだよな?行くか?」
瞬「僕としてはお嬢さんと黄金聖闘士達が結託してそうな時点で警戒警報鳴りまくりだけど・・・できるならやめときたいような・・・」
氷河「カミュが呼んでいるというのにそんなことが出来るか!今すぐ駆けつけたいぐらいだ!」
瞬「それは意味が無いから」
紫龍「まあ・・・行きたいかどうかは別にしても、断ったら断ったで何かが起こりそうではあるな。・・・一応呼ばれた以上は受けてたつほうがいいだろうな」
四人がそんな話をしていたときであった。
突然、攻撃的な小宇宙が降って沸いた。
一輝「瞬!瞬はいるか!」
瞬「兄さん!久しぶりだね、今までどこに・・・」
一輝「瞬、今日はお前に別れをつげに来た。お前はもう、この兄がいなくても立派に一人で生きて行けるな?」
瞬「・・・兄さん?なんで!?一体どうしたの?どこに行くの!?」
一輝「・・・これだ」
一輝がひらりと差し出したのは、一枚の白い紙。
一輝「『来週日曜鼠国必来』・・・どこの中国人がよこした手紙かと思ったが、よく考えるとこんなもの書いてよこす俺の知り合いは一人だけだ。来週の日曜に鼠の国へ必ず来い・・・鼠の国とやらがどこにあるのかはこれから調べる。しかし、あの男相手に二度目の闘いとなれば、今度は無事ではすまないだろう」
紫龍「・・・前回も別に無事ではなかっただろう・・・」
瞬「行かなけりゃいいでしょう!?そんな不吉な場所!」
一輝「行かなかったらシャカの方から来るだけだ!実際、この手紙を見つけたのは俺がエトロフ島でジンギスカンを食っていたときだぞ!?こっちの行動は全て把握されていると考えて間違いない!目が覚めたら奴がいた、などという事態に陥るくらいなら、俺が出向いた方がマシだ!」
氷河「エトロフ島って・・・・なぜ・・・・?」
瞬「兄さん!考え直してください!少し落ち着いて!」
星矢「お前もな。要するに、一輝もディズニーランドに来て欲しいだけじゃないか・・・」
一輝「ディ・・・?」
瞬「ディズニーランド。鼠の国の、英語訳だよ」
一輝「そうなのか・・・?」
明確に違うのだが、そこら辺はもうどうでも良かった。
どちらにしろ、彼らに逃れる術は無かったのだから。
日曜日の空はよく晴れた。
瞬「これで雨天中止も封じられたね。最悪」
星矢「せっかく晴れたんだから素直に喜ぼうぜ、瞬」
紫龍「いや、素直に表現した結果が『最悪』だろう・・・。まあ、大型台風程度ではつぶせる企画でもなさそうだが」
やってきた五人の服装は、いつもの通り擦り切れたズボンにシャツに、レッグウォーマー。
そして背中にパンドラボックス。
星矢「動きやすい服装って言うか、より戦いやすい服装だよな。別に何一つ示し合わせたわけでもないのに、全員が聖衣携帯で来るって一体・・・」
瞬「当然だよ。何が起こるかわからないんだもの、最低でも自分の身ぐらい守れる準備はしておかないと」
駅からランド入り口までの道のりはそこそこあるはずだったが、たどり着くまでに日の暮れる距離であっても構わない心境の5人には、むしろ短すぎるように思えた。
その入り口に、見知った顔が二人いた。
シャカ「フッ、ガキどもがよくぞ臆さずにノコノコ出て来たものだ。一応誉めてやってもいい」
ムウ「いらっしゃい。来てくれて嬉しいですよ。私だったら絶対来たくないイベントですが、相変わらず律儀ですね、あなたたち」
・・・・・・・・
一輝「・・・・・これは・・・・さっそくパンドラボックスを開けということだろうか・・・?」
瞬「待って!兄さんの出番にしては早すぎるよ!ここはとりあえず、まず僕が」
氷河「落ち着けお前ら・・・。あれはたぶん、ネズミの国での挨拶の言葉なんだ」
シャカ「君達!この私が声をかけてやったのに返事もなしかね!」
星矢「あ、いや、その、久しぶり、シャカ」
慌てて取り繕う星矢の横で、紫龍がムウにたずねる。
紫龍「久しぶりだ、ムウ。俺たちを出迎えるためにここに来てくれたのか?」
ムウ「それもあります。が、もう一つ。入場規制のためでもあるのです」
紫龍「入場規制?」
ムウ「ほうっておくとディズニーランドは際限なく混みますからね。あなたたちを招待する以上、乗り物一つに2時間待ちは気の毒だからと言うアテナの思し召しで、今日はグラード財団の一日貸切なのです。一般客は害のなさそうなのだけを選んで通すことにしているのですが」
シャカ「そうとも。私がこの心眼によって客を見分け、用の無いやつはムウのスターライトエクスティンクションにより、どこへなりとも消えてもらうという寸法だ」
瞬「・・・どこへなりとも、って・・・・・どこ・・・・?」
一輝「ん?来たぞ。一般客が」
駅の方から歩いてきたのは、仲の良さそうな一組の男女。
女「もー、ゆうくんったらーvv」
男「なんだよー、コノーvvv」
ラブラブラブラブ・・・・・・・・・・
シャカ「消したまえ」
ムウ「はい。スターライトエクスティンクション!」
フォォォォォ。
・・・光の消えた後には何も残らなかった。
瞬「って、ちょっと待って!心眼で見分けるんじゃなかったの!?」
シャカ「これが心眼だ」
瞬「嘘ーーー!!」
氷河「・・・しかし、俺としてはあれはあれで可だったような気も・・・」
瞬「可じゃないよ!!大体動機が虚しいよ!!」
それは否定できない。
ムウ「まあいいではないですか。鬱陶しいものはいないほうがマシですよ。ねえ」
紫龍「俺に聞かれても;;」
シャカ「つまらんことに関わっていないでさっさと中へ入りたまえ。ぐずぐずしているなら君達も無用として消すぞ」
瞬「まずあなたが消えるのが一番いいんじゃないかな」
一輝「・・・なんだか俺よりすごいぞ瞬・・・;」
星矢「い、いこう!何はともあれ中に避難するのが一番だよ!なあ!」
星矢が促したので、一同は若干のしこりと火種を残しつつ、入場門をくぐったのだった。
園内は大変空いていた。
ほとんど人がいないといっていい。
というかまったくいない。
瞬「・・・ゴーストタウンじゃないんだからさ・・・入場規制しすぎだと思うな僕・・・」
氷河「規制どころか入れた客が今までにいたのかどうかも疑問だな」
星矢「もうやめようぜ、そういう欝な話は!ほら、あそこにプーさんがいる!」
星矢が指差す方向には、全世界におなじみの黄色いクマの姿があった。
つぶらな瞳と太ったお腹の愛すべきキャラクターが、今はがっしりと腕組みをして仁王立ちになっている。
瞬「プーさんじゃない・・・!あんな『さあ、かかって来い』みたいな態度はプーさんじゃない!」
紫龍「もうよせ、瞬。確かに俺たちの中であの中身がアルデバランだと気づいていない奴は一人もいないだろうが、つまらないツッコミを入れ続ける子供は、プレゼンターに嫌われるぞ」
星矢「そうだぜ。向こうサイドだって悪気があるわけじゃないんだ。あれはクマのプーさんだ!そう信じてやろう!」
一輝「それにしてもでかいクマだな、おい・・・」
近づいてみるとますますでかかった。
星矢「わ、わあ〜、プーさんだなあ!」(必死)
瞬「ほんと!か、可愛いね!ほら、兄さん、握手してみてよ!」
氷河「そうだな!せっかくだから、一輝、握手だ!」
紫龍「うむ!プーさんも乗り気だぞ!」
一輝「・・・お前ら・・・・危険な作業ばかり俺に押し付けやがって・・・・!」
口の中でぼやきつつも、一輝はプーさんと握手をした。
星矢「じゃ、さっそく乗り物に乗りに行くか!」
瞬「そうだね!さっさと行こう!じゃあね、プーさん!」
一輝「達者でな」
プー「プー」
・・・・プーさんと別れてから。
瞬「・・・・やっぱり、教えてあげた方が良かったんじゃないかな・・・・プーさんは別にプープー鳴くからプーっていう名前なわけじゃないって」
紫龍「だが、それだとやはり、プーさんと話をするというより、アルデバランと話をする感じになってしまうからな」
瞬「だから僕言ったでしょう?あれはどう考えてもプーさんじゃない」
氷河「教えるまでしなくてもいいだろう。この先必要になる知識でもないし。言ったら言ったでお互い気まずいだけだろう」
一輝「今この瞬間の俺たちもかなり気まずいがな」
五人はそれきり、プーさんの話はしないことにした。
星矢「で、何のアトラクションに乗るかだけど・・・・」
ひとけの無い園内を見回しつつ、星矢が言う。
星矢「待ち時間でつぶすことが出来ない以上、より時間のかかる乗り物に乗って被害を最小限に食い止めるしか無いぜ。どうする」
瞬「そうすると、ジェットコースター系統は避けたほうがいいね。途中のレールとか無くなってそうだし」
紫龍「ある程度、予測のつくところに入るのはどうだろう」
星矢「予測?」
紫龍「うむ。例えばあそこのホーンテッドマンション。あれは間違いなくデスマスクの管轄だ。蟹程度なら何とかなる」
氷河「なるほどな」
そこで五人はホーンテッドマンションに入った。
中に入ってまず驚いたのは、アトラクション内にちゃんと客がいたことであった。
ほとんどが子供達だが。
瞬「あれ。なんだ。ちゃんとお客さん入ってたんだね」
一輝「いくらシャカでも、門前まで来た子供を追い返すことはしなかったようだな」
星矢「確かに・・・それをやったら鬼だからな」
氷河「・・・・幼稚園ぐらいの子供ばかりか。何だか浮いてないか?俺たち」
紫龍「それより心配なのは、この子供達が出てくるまで無事でいられるのかどうかなんだが。・・・よりによって相手はデスマスク・・・。どうだろう、戦いの最中の巻き添えとかで葬られたりせんだろうか」
瞬「頑張ってガードしようね、皆・・・」
冷や汗をにじませているお兄さん達の様子には気がつかないで、子供達はにぎやかだ。
五人の背負っているパンドラボックスをパンパンはたく奴もいる。
子供「なんだこれー」
子供「変なのー」
バンバン
瞬「変なの、か・・・・本当のことだけにちょっと傷つくよね」
紫龍「押さえろ。子供というのはそういうものだ」
子供「あー、こっちのひとガイジンだー。ガイジンガイジンー!」
氷河「・・・・・・」
子供「この人顔に傷がある。こわーい」
子供「服がボロいー!変なのー!」
一輝「・・・・・・・・・・・・」
星矢「・・・我慢しろよ、二人とも。子供のすることなんだからさ」
一輝「・・・フ。当然だ。この程度で動じる俺ではない。ただ、戦いの最中の巻き添えとは中々いい作戦だと思っただけだ」
瞬「やめてね、兄さん・・・作戦じゃないし」
暗い通路を進み、肖像画の部屋を通って、いよいよメインの乗り場にやってきた。
ガタゴト動く椅子に乗って、屋敷の中を探検するのである。
乗り場にデスマスクの姿があった。
デス「おら、ガキども。ちゃんと並べ。順番無視する奴は乗せねえぞ。消すぞ」
紫龍「・・・・・・・デスマスク、久しぶりだな」
デス「お、来たかお前ら」
紫龍「思ったより普通にスタッフをやっているのだな」
デス「思ったよりって何だよ」
男は頬をバリバリとかいて、
デス「あのクソ女神が、『今まで散々悪行三昧してきたんですからたまには償いなさい』とかいいやがってな・・・ガキの相手なんかやってられねえから、さっさと終わらせたいところだ」
瞬「お化け屋敷の割には子供に人気があるんだねここ。そんなところであなたが番張ってるのもどうかと思うんだけど・・・」
デス「俺の責任なんだよ。ほら、さっさと乗った乗った」
氷河「一応聞いておきたいのだが、中になにか特殊な仕掛けとかを仕組んだりはしていないだろうな?通ったとたんに爆発するとか・・・」
デス「そんな暇なことしねえよ。いつも通りだ」
デスマスクは五人を適当に椅子に詰め込んで送り出した。
一輝と瞬と氷河。その後ろから星矢と紫龍。
乗り込んですぐ、紫龍は星矢の様子がおかしいのに気づいた。
何度も、背後を振り返るのだ。
紫龍「・・・星矢。お化け屋敷でそのリアクションは、ちょっと恐いからやめてくれ」
星矢「あ、ごめん。・・・・なあ紫龍」
紫龍「ん?」
星矢「後ろの子供なんだけど・・・どっかで見たことないか?」
紫龍「なに?」
紫龍は伸び上がって、高い背もたれ越しに後ろを見た。
三人の子供が座って、恐そうに寄り添っている。
紫龍「・・・どの子だ?」
星矢「真ん中かな?何か、見覚えがあるような気がするんだけど・・・」
紫龍「星の子学園の子か?」
星矢「いや、違う」
思い出せないなあ、とつぶやいて、星矢は軽く頭を振った。
ホーンテッドマンション内は、デスマスクの言ったとおり、危険な仕掛けを施したような箇所はなかった。
瞬「不思議さを楽しめばいいのかな、僕たちは。今さらガイコツの一つや二つで恐がれる人間でもないしね」
氷河「俺の場合、どこかの誰かに最愛のマーマの腐乱死体を見せられた経験もあるからな」
一輝「・・・・・・・;」
瞬「ほ、ほら、亡霊たちのダンスパーティーだよ!きれいだね。どうやって作ってあるんだろう」
星矢「ああああくそー!思い出せない!気になって気になって、周りを見てる場合じゃないぜ!」
紫龍「俺は気になっているお前が気になって落ち着かん。何でもいいから早く思い出してくれ」
星矢「俺だって思い出したいんだって!」
そんなこんなで屋敷を一周した五人は、滞りなく元の場所に戻ってきた。
終了。
子供達が次々に椅子から下りて出口に向かう。
瞬「?何かあったの?星矢」
紫龍「見覚えのある子供がいたんだが、誰だったか思い出せないで悩んでいるそうだ」
一輝「くだらん・・・;」
星矢「でも、なんかすっごく嫌な感じなんだよ!」
氷河「まあ、一度外にでよう。暗いのには飽きた」
だが五人が子供達に続いて出口へ向かったときだった。
問題の、『どこかで見た子供』が、アトラクションが恐かったのか、泣きべそをかきながら駆け足で友人の後を追っていくのが見えた。
その瞬間。
星矢「・・・あ・・・・・」
紫龍「ん?」
星矢「思い出した」
紫龍「あの子供か?誰だ?」
立ち止まった星矢を、四人が振り返ると。
星矢「あの顔・・・・・巨蟹宮の壁で泣いてた子供の死に顔にそっくりなんだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
一同「!?;」
デス「・・・・どうした?」
乗り場の暗がりからデスマスクの声。
デス「言っただろ。俺の責任だって」
辺りからはいつの間にか、子供達の姿が一つ残らず消えていた。・・・・・・
一輝「いきなり怪奇体験とはやってくれるぜ鼠の国・・・・!」
瞬「思い出しても鳥肌立つ・・・やっぱりデスマスクって何かがずれてると思うな・・・主に悪い方向に」
星矢「デスマスクもずれてるけど、やらせた沙織お嬢さんはもっとずれてると思う」
明るい外の空気を吸いながら、未だ呆然と次のアトラクションに挑む勇気の出ない星矢たちである。
氷河「・・・どうするんだ?これから」
瞬「まだ何かに乗らなきゃいけないのかな」
星矢「入り口で買い物だけして帰るっていうのもありだと思うぜ。金は無いけど、代わりに血で払えるような気がするしさ」
一輝「甘いな。今帰ろうとすれば、入り口のシャカに間違いなく退場規制される。奴の守備範囲から逃げられないのは俺が一番良く知っているが、死にたくなければ居残ることだ」
紫龍「居残ったところで生きて出られるかは疑問だがな・・・」
星矢「!あれ、沙織お嬢さんじゃないか?」
瞬「え?」
星矢の指差す方を見ると、確かに見知った女神が一人、にこにこしながらこちらへやってくるところだった。
頭にはチロリアンハットをかぶり、半ズボンで生足。
うしろからはフロックコート姿の男が必死の形相でついてきている。
シュラ「お願いです!アテナ、どうかお願いですから、せめて膝丈にしてください!!」
沙織「駄目ですよ。ピノキオコスプレなんですから、腿を出すのは当然です」
シュラ「いけません!年頃の女性が脚などお出しになっては・・・!」
沙織「13歳は年頃でしょうか。シュラ、あなたはジミニー・クリケット(コオロギ)役なんですから、もう少し陽気に鼻歌でも歌ってもらわないと」
シュラ「出来る範囲のご命令をお願いします・・・どう考えても俺のキャラではないでしょう」
それより脚を何とかしてくれと訴え続けるシュラを聞き流し、沙織は星矢達に挨拶をする。
沙織「お久しぶりです、皆さん。来てくださって嬉しいですよ」
星矢「俺たちもお嬢さんのそんな格好が見れて、なんだか得した気分だよ。な、皆」
瞬「うん。すごく可愛いよ!」
沙織「ふふ。ありがとう。シュラはちっとも誉めてくれないので、悲しくなっていたところです」
シュラ「う・・・・・・・・」
沙織「そんなに私にこの服は似合いませんか?シュラ?」
シュラ「・・・・・・似合わないとは、申しておりません。ただ・・・」
沙織「似合ってます?」
シュラ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お似合いです」
黄金聖闘士、敗北す。
沙織「いつもいつも、裾で床掃除するようなドレスばかり着ていたのですもの、たまにはこういう装いでもいいではありませんか。ね?許してください」
シュラ「はあ・・・・」
沙織「それに、デスマスクは誉めてくれましたよ。『もっと脱げ』と」
シュラ「あの野郎!!」
紫龍「シ、シュラっ!待て!落ち着け!アテナの前だぞ!!;」
シュラ「ええい放せ紫龍!!あのバカを野放しにしておけるか!!どけっ!!」
とめる紫龍を突き飛ばし、シュラは光速で駆け去っていった。
紫龍「・・・招待状の礼を言えなかった・・・」
沙織「・・・・蟹を殺しに行ったのか、私の側にいたたまれなかったのか、顔が赤かったのは怒りのせいか照れのせいか、どっちだと思います?」
氷河「全部だろう。あなたもあまり苦労をかけるようなパフォーマンスは慎んだ方がいいのでは」
沙織「そうですね・・・考えておきます。それはそうと、皆さんはこれからどこに行くのです?」
聞かれて5人はうっとつまる。
一輝「どこに・・・といわれても、丁度どこにも行きたくない気分だったのでな」
沙織「決めていないのですね。ならばあそこのキャッスルカルーセルがお勧めですよ。ダンボでもいいですけれど、どちらもミロの管轄です」
瞬「・・・・ミロか・・・整備不良とかありそうだね」
氷河「お嬢さん、つかぬ事を聞きますが、わが師カミュは・・・?」
沙織「カミュはジャングルクルーズ担当です」
*ジャングルクルーズ・・・密林の川を船に乗って探検するアトラクション。添乗員さんの調子の良い愉快なおしゃべりが売り。
青銅「無理だろう」
沙織「そんなことはありません。私はアテナの聖闘士を信じています」
瞬「信じすぎだよ。さっきのシュラといい、カミュといい、信頼と言うよりむしろイジメだよ」
沙織「まあ、何と言うことを・・・・・」
反論しかけた彼女の声をさえぎって、背後から爆音が聞こえた。
沙織「ホーンテッドマンションですか。始まったようです。あらあら」
星矢「あらあらじゃないぜお嬢さん・・・原因はあんただろ」
沙織「不本意です。が・・・・見過ごせませんね。ちょっと止めに行ってきましょう。隣がスプラッシュマウンテンですし、人気アトラクションがつぶされてしまっては困ります」
一輝「・・・アトラクションよりも、せめて少しでいいからデスマスクの心配をしてやったらどうだ・・・?」
沙織「蟹は死んでもタダですけれど、設備は壊れたら大損ですよ。それでは皆さん、またあとで!」
アテナは生足をさらしたまま駆けて行った。
瞬「・・・あの格好で参入したら、かえって逆効果のような気もするけどね・・・」
星矢「いいよ、早いところこの場を離れよう」
とどろき続ける爆音を背中に、五人はそそくさと移動したのだった。
・・・できるだけ遠くに離れるつもりが、すぐ目の前のメリーゴーラウンドでミロに捕まった。
ミロ「お前達、このキャッスルカルーセルまで来て一体どこへ行くつもりだ!!乗らずに済むと思うなよ!これかダンボかどちらかを選べ!」
氷河「ミロ・・・そんなに焦ってリストリクションかけなくても逃げはせんぞ」
瞬「いや、逃げたいよ氷河」
ミロ「早く選べ。メリーゴーラウンドか?空飛ぶダンボか?それともアンタレスか?」
紫龍「どういう選択肢だ・・・;」
星矢「ここは落ち着いて考えよう。メリーゴーラウンドもダンボも似たようなもんだけど・・・どっちも回転モノのアトラクションだし・・・」
一輝「だが、ダンボは宙に浮く分、危険度が高そうだ。避けたほうがいいだろう」
というわけで、五人は半強制的にキャッスルカルーセルに乗せられた。
金の装飾と天使の絵が飾られ、さながら宮殿舞踏会へいざなう馬車のごとく優美なメリーゴーラウンド。
開始のブザーが鳴って、木馬が動き出す。
最初はゆっくりと。段々速く。
もっと速くとてつもなく速く。
瞬「ミミミミロっ!?これ、なんだか速すぎないー!?」
ミロ「当然だ。一秒一周、三秒十周、その調子で限りなくスピードアップし、最後には秒間10万周を越える。遠心分離されないように気をつけろ」
青銅「つけるかあああっっ!!!」
怒鳴りながらも、五人が一斉に木馬から飛び降りたのは言うまでも無い。
氷河「・・・・皆、そろそろ追い詰められた気分なところ申し訳ないのだが、カミュに会いに行ってもいいか?」
瞬「それは本気で悪いよ氷河」
紫龍「ま、まあ、気持ちはわからんではないから、会いに行くぐらいならいいではないか」
氷河「すまん。どうしても招待状の礼が言いたくてな。・・・というか、カミュは言わなければ落ち込むから・・・」
一輝「ほっといたらどうだ、そんな欝な恩師は」
五人はミロから逃げてジャングルクルーズへ向かった。
その途中で、屋台を3つ縦に積み重ねて引いているアイオリアに遭遇した。
星矢「アイオリア!何やってんだあんた!?」
リア「おお、星矢か。何とは愚問だな。見ての通り、売り子をやっている」
瞬「いや、見たまんまだとあんまり売り子じゃないんだけど・・・」
星矢「すごいいいにおいしてるけど、何の屋台なんだ?」
リア「ポップコーンだ。食うか?上から順に塩、ハチミツ、キャラメルだ。どれがいい」
星矢「・・・下のでいいよ下ので・・・」
リア「キャラメルか。まあ一番人気だからな」
星矢「いや人気って言うか・・・大体、俺たちのほかに客いないし」
リア「大盛りにしてやるぞ。ちょっと待っていろ」
と言って、屋台の中から無造作に双子座聖衣の頭部を取り出すアイオリア。
紫龍「待て。まさかとは思うがそれに詰めるつもりではあるまいな」
リア「そうだが、何か?」
瞬「やめてよ!いくらバケツの形してるからって、そんな汗の染み込んでいそうなもの使わないで!」
リア「これが一番大きいぞ?」
瞬「そうじゃなくて、デリカシーの問題でしょう!?」
リア「デリカシー?他人の聖衣は嫌だというわけか?ならば、お前達の背負っているパンドラボックスに詰めるのはどうだ?」
星矢「絶対嫌だ。普通のカップに詰めてくれよ」
釘を刺されて、アイオリアはしぶしぶ紙のカップを取り出した。
ざくざくとポップコーンを流し込んでもらっていると、シンデレラ城のほうからまたも見知った顔が歩いてくるのに五人は気づいた。
金の髪を風に流し、白地に金モールの王子様衣装を着込んだアフロディーテである。
瞬「・・・けど、王子様って言うよりか、むしろベルバラだよね」
星矢「ああ、どこまでもヅカだよな」
アフロ「フン、青銅のヒヨコどもか。誘いに乗ってノコノコ出てきたようだな。暇なことだ」
瞬「あなたたちほどじゃないよ。何、その格好」
アフロ「似合うだろう?」
ぬけぬけといって、彼は手に持っていた魚座のヘッドギアをアイオリアに差し出す。
アフロ「キャラメル。いっぱい入れてくれ」
瞬「・・・・普通なんだね、ここではそれ・・・・」
リア「今星矢たちのを入れてやっているところだ。少し待て。どうだ?シンデレラ城の住み心地は」
アフロ「・・・最悪だ」
ため息一つ。
アフロ「外観が美しいから中もさぞかし豪華だろうと思っていたのにな・・・照明は暗いわ、そこら中に鏡があるわ、地下に竜が寝てるわで落ち着かない事この上ない。あんなところに住む奴の気が知れんな」
紫龍「知るも何も、住む奴は普通いない。アトラクションなのだから」
アフロ「アトラクションなのは別に構わん。が、鏡にわけのわからん顔が映って勝手にしゃべるのは何とかして欲しい。夜中の巨蟹宮と同じぐらい悪趣味だ。・・・まあ、野次を飛ばさない分、巨蟹宮の死に顔よりはマシか。それでも鬱陶しいに変わりはないので、地下の竜ともどもピラニアンローズで再起不能にしてやった」
氷河「・・・ディズニーランド的には大損害だろうな・・・」
アフロ「私的にまるく納まればいい」
瞬「っていうか、夜中に巨蟹宮でなにやってるの、あなた」
アフロ「・・・それは18歳過ぎてから聞きたまえ」
さりげなく眼をそらしたアフロディーテだった。
リア「ほら、お前のだ」
アフロ「ありがとう。・・・・ところでアイオリア。サガはどこにいるか知っているか?」
リア「カリブの海賊にカノンの様子を見に行くといっていたが。どうした」
アフロ「パレードの事でちょっとな・・・」
瞬「パレード?・・・・・って、まさか、エレクトリカルパレードのこと言ってんじゃないよね」
アフロ「他に何があるというのだ?パレードといったらエレクトルしかあるまい」
氷河「間違っているぞ略し方・・・」
星矢「パレードにもあんたたちが出るのか?」
アフロ「そうだ。出たいのか?」
星矢「全然」
アフロ「皆がな・・・わたしに眠れる森の美女だのシンデレラだのベルだのをやらせようとするのだ。まったく!人を何だと思っているのだ!」
リア「多少は仕方の無い部分もあるような気がするが・・・」
アフロ「冗談ではないぞ!だったら君、白雪姫をやるがいい!」
リア「勘弁してくれ。満場一致で否決だろう」
アフロ「私だって眠れる森の美女なんか嫌だ!ドレスを着て王子と踊るだと!?やってられんわ!これからサガに抗議して、何としても不思議の国のアリスにしてもらう!!」
一輝「・・・その二つにどれだけの差があるのか聞いていいか・・・?」
アフロ「アリスになったら、先頭のキノコの上に座れるのだ」
瞬「要するにプライドの問題じゃないんだね。健闘を祈ります」
キャラメルポップコーンを片手にアフロディーテが去った後、五人もまたアイオリアに別れを告げて再び歩き出した。
目指すはジャングルクルーズで添乗員をやっているはずの水瓶座の黄金聖闘士カミュ。
紫龍「・・・・一つ聞きたいのだが氷河。お前本当にそういう師匠に会いたいか?」
氷河「・・・聞くな」
できるだけ考えないようにする氷河であった。
ところが。
ジャングルクルーズについてみると、カミュは添乗員ではなく、入り口の番人になっていた。
弟子は思わず安堵の声を上げた。
氷河「カミュ!添乗員をなさっていたのではないのですか!?」
カミュ「おお氷河!来てくれたのか!ひょっとして都会の絵の具に染まったあげく、私のことなど忘れ去っているのではないかと思っていたが・・・よかった。覚えていてくれたのだな」
星矢「・・・忘れられないと思うけどな・・・いろんな意味で・・・」
氷河「わが師カミュ・・・お久しぶりです。この氷河、一日たりとも貴方を思わなかった日はありません」
瞬「なんだかプロポーズくさいんだけど・・・;」
カミュ「フ、しばらく見ないうちにお前もまた成長したようだ。その眼を見ればわかる。より広がりを持った小宇宙を感じるぞ」
氷河「あなたに再び会う日には、キグナスの・・・そして師である貴方の名に恥じない聖闘士であろうと常に努力をしてまいりました。もちろん、かつてあなたから授かった教えを胸に呼び起こしながら」
カミュ「氷河、それでこそ私の弟子だ。お前はもう立派な一人前の聖闘士になったのだな・・・」
その後、再会の挨拶は延々と2時間弱も続いた。
瞬「何一つ成長なんかしてないように思えるのは僕だけなのかな」
星矢「それは言っちゃあ駄目だぜ瞬・・・」
紫龍「・・・ああ、ここでやっと『招待状の礼』に入ったか。ふう・・・長い前菜だった・・・」
一輝「いや待て。一枚目の感想から始めているぞ。50枚終わるまでに何時間かかるんだ;」
星矢「時間で済むかな・・・単位・・・」
紫龍「カ、カミュ。まだまだ膨大に続きそうなところをさえぎって悪いのだが、ちょっといいか?」
カミュ「しばらく待ってくれ。さあ氷河、続きを・・・・」
紫龍「いや待たせないでくれ。俺たちは船に乗りに来たのだ。やってないのか?ここは」
カミュ「ん?ああ、船か・・・・もちろんやっている。乗せてやろう。来い」
カミュは先に立って乗り場の方へ歩き出す。
氷河の声が再び不安そうになった。
氷河「そうすると、カミュ、添乗員はやはり貴方が?」
カミュ「ガイドのことか?いや・・・」
首を振り、憂鬱そうな声で、
カミュ「最初はそのはずだったのだが・・・どう考えても私に愉快なツアーガイドの役などできるわけもなかった。聖域にいる間にミロを客に見立てて練習してみたところ、終了後の感想が『お前といると死にたくなる』でな・・・」
五人「・・・・・・・」
カミュ「仕方が無いので、聖域の周りをうろついている口達者そうな奴をつれてきて代わらせることにした。それが彼だ」
ヒドラ市「いや〜、いきなり凍らされたと思ったら大変な役目を任されちゃったざんす」
五人「ヒドラ市ーーーー!!?!;」
市「なにをそんなに驚くざんす?」
星矢「い、いや、ここでさらっと来るとは思わなかったから・・」
氷河「お前、こんなところでなにをやってるんだ!?」
市「カミュさんが説明したざんしょ。あたしは彼に代わってジャングルクルーズのガイドをしているざんすよ。さあ、乗ってもらいましょ」
瞬「う・・・。不本意だけど、何だか微妙にワクワクしてきた;」
紫龍「すまん。俺もだ」
市「さあさ、ずっと奥へつめるざんすよ。そっちのカミュさんも早く早く」
カミュ「あ、いや、私は」
市「何言ってるざんすか。ちゃんと修行をつまないといつまでたってもガイドをできないざんすよ。あたしがしっかり教えてあげますから、一緒に来ないと駄目ざんす」
カミュ「う・・・・・わかった」
五人の客と一人の見習い、それにモヒカンガイドを乗せて、船はゆらゆらと出発する。
市「は〜い、今日は皆様、未知なる探検ジャングルクルーズに御挑戦いただき、どうもありがとうございます。旅の始めに、船着場に向かってお別れの挨拶をしましょう。せーの、バイバ〜イ!・・・ま、誰もいないざんすけど。実はですね〜この探検、巷の噂では行ったら最後二度と帰って来れない、な〜んて言われている曰くつきの旅でございまして、しかもボート番号が4。不吉ざんすねえ〜。よく人づてのウワサはあてにはならないなんて言われるざんすが、このウワサは確かなものでございますよ。何と言ってもあたしが言ってあたしが聞いたのを皆様に話してるわけでございますからね。仲介人はゼロ。おやおやそうこうしているうちに、前方に滝が見えてきましたざんす。立派な滝でございましょ?見とれてるうちにちょ〜っと舵を取るのが遅れたりなんかしまして・・・あら、あらら、お客さん、伏せてください、危ない危ない危な〜い!!・・・なんて言って慌てているのは私一人、と。最近のお客さんは皆さんドライざんすねえ。・・・」
氷河「・・・はまりすぎてるぞ市・・・;」
とてもカタギとは思えないガイドのおかげで、船旅は楽しいものとなった。
だが中盤。
市「・・・まあ、こんな風にアナウンスすればいいざんすよ。カミュさん、ちょっとやってみるざんす」
カミュ「わ、私が?無理だ。私にはとてもではないが、ガイドなど・・・」
市「そんなこと言ってたらちっとも上達しないざんす。マニュアルあるんですから、その通りにしゃべればいいざんしょ。さ、さ」
カミュ「う・・・」
無理矢理マイクを握らされ、カミュはしばし途方にくれて立つ。
そのうち覚悟を決めたかアナウンスを始めた。
カミュ「・・・・右に見えるのがこの近隣の人のいい商人のムルアカさん・・・・手に持っているのは干し首・・・・まとめて買うとまけてくれるそうだ。この辺りは先住民の縄張りなので気をつけたほうがいい。ほら、木立の影からお前をねらっているぞ氷河。伏せろ。・・・・・などと私が言っても誰も聞く耳もたないだろうがな。昨今の客はドライなものだ・・・・」
一輝「・・・すまん。そろそろやめてもらえるか?かなり暗い気持ち・・・というか湿った気分になってきた」
星矢「面白いところが無いとは言わないけど・・・・暗いよな。名指しで指名しているあたりが嫌がらせっぽいしな」
カミュ「・・・だそうだ。やはり私には無理だ」
市「そんなことないざんすよ!もうちょっとざんす!あとは・・・・そう、イントネーションの問題ざんすね」
紫龍「いや、性格の問題だろう」
ガイドが再び市に戻ったので、一行はこれ以上暗い気分にならずに済んだ。
像の水浴び場だの、カバの鼻しぶきだのを見ながら、ぐるりとコースを一周して。
市「そろそろお別れの時間ざんす。皆さん、無事に帰って来れましたか?いない人は手を挙げて〜!・・・まあ、古典的なギャグざんすけどね。お忘れ物にはご注意ざんす。最近多い忘れ物は、時計、カメラ、携帯電話、彼氏。思えばあたしも3年前、ここの忘れ物でございました。・・・・・は〜い、着きました〜!それでは皆さま、ごきげんようざんす!」
カミュ「あ、氷河。最初の話の続きだが・・・・」
市「カミュさん、おしゃべりしている場合じゃないざんすよ。これからあなたはこの市の個人指導で徹底的に話術を磨いてもらうざんす」
カミュ「な、何!?」
市「それでないとクビにされちゃうざんすよ。さ、行きましょ」
カミュ「待て!私は・・・・!」
ボートのエンジン音と共に、慌てる声は船着場から遠ざかっていく。
瞬「市に弟子入りか・・・・大変だろうね、カミュ」
氷河「わが師が弟子入り・・・・そうすると市は俺にとって、『師の師といえばわが師も同然』になるわけか・・・?」
紫龍「何の師だろうな。漫才か」
五人はジャングルクルーズを後にした。
キャラメルポップコーンは船の中であらかた食べつくしてしまっていた。
けっこう食べ応えがあった。
星矢「そりゃそうだよな。アイオリア、ものすごい詰め込み方してたし」
瞬「うん、圧迫されてお煎餅みたいになってたよね。お腹いっぱいだよ」
氷河「昼食をとらずに済むのはありがたいかもしれん。この調子でいくと、何を出されるかわからん」
星矢「次はどこ行く?」
五人が額をよせて相談にかかったときだった。
シュラ「紫龍ーっ!!」
紫龍「シュラ。・・・・どうしたまたそんなに血相を変えて・・・デスマスクは退治できたのか?」
シュラ「いや、あの後アテナが来られて直々にやめるよう言われたのでな・・・惜しいところで殺り逃した」
紫龍「そうか・・・。それで、お前の服が変わっているのだが、今度はなにをさせられているのだ?」
シュラ「アラジンだ。紫龍!そのことでお前に頼みがある!アテナを止めてくれ!」
紫龍「アテナを?」
聞き返したところに、本人がやってきた。
沙織「またお会いしましたね、皆さん」
瞬「・・・お嬢さん、その格好は・・・・」
沙織「ジャスミンです。だってシュラが足を隠せと頑張るので」
星矢「今度はヘソがでてるんだけど、それはいいのかな?」
シュラ「いいものか!!足のほうがまだマシだ!アテナ、どうか普通のドレスをお召しになってください!!」
叫ぶシュラの視線は沙織から60度もそれている。
沙織「でも可愛いでしょう?どうです?星矢」
星矢「うん、すごく可愛いけど・・・・」
沙織「けど?」
星矢「俺は普段のお嬢さんの服の方が似合うと思うな」
沙織「・・・・・・」
少女はちょっと下を向いた。
が、すぐに顔を上げてにっこり微笑むと、
沙織「そうですか。ならば、もっと普通の服にします。着替えます」
瞬「でもお嬢さん、ジャスミンの格好もすごく似合うよ。可愛いよ」
沙織「ありがとう。けれど、やっぱり・・・今度はもっと普通の服のキャラクターにしますね。アリスとか」
青銅「あ」
沙織「?どうしました?皆さん」
紫龍「い、いや、なんでも」
沙織「アリスは駄目ですか?そんなことありませんよね?」
星矢「う、うん・・・」
沙織「日が落ちればパレードがあるのですよ。それまで是非いてください。私、キノコに乗りますから」
一輝「・・・だが、キノコにはアフロディーテが乗ると言っていたぞ」
瞬「兄さん・・・!」
沙織「アフロディーテ?」
一輝「うむ。アリスの役をやりたいと」
沙織の目がきらりと光った。
沙織「・・・・そう。女の私がやるより男のアフロディーテの方が適任だと、あなたは言うのですね一輝」
一輝「う・・・・(滝汗)。・・・・・。」
沙織「返事無し。ということは、肯定と受け取らせていただきまして、そうですか。ならばなおさらこの勝負、ひくわけには行きません。受けてたちます見てらっしゃい」
氷河「・・・何だか逆に見るのが辛い展開になってきた気がするが・・・;」
沙織「シュラ、さっそく作戦会議です。なんとしてもアリスは私が。行きましょう」
シュラ「はい。・・・でもなぜ俺まで・・・」
残りの言葉は口の中で飲み込んで、シュラは女神に従い、二人揃って行ってしまった。
瞬「・・・忠誠心厚いのも大変だね」
残された少年達は深々と頷いた。
カリブの海賊に行くべきか否か。
それは真剣に悩んだ。
一輝「サガとカノンか。あいつらに会いに行くということは、ボスを倒しに行くというのと同じレベルの行動だと思うんだが」
瞬「どうしてディズニーランドにボスキャラがいるんだろうね・・・」
星矢「でも、もう会ってないのあの二人だけだろ?のけたら後で絶対怒ると思う」
紫龍「・・・俺たちはここで遊ぶために招待されたのではないのか?どうしてこんなに気を使わねばならんのだ・・・?」
瞬「気を使うっていうか、気をつけなきゃ」
氷河「とりあえず聖衣着用は必須だろう」
と言うわけで、持ってきたパンドラボックスを開け、完全装備を整える五人。
死ぬときは一緒だぜ兄弟。
合言葉を胸に、カリブの海賊へと向かう。
暗闇の中を、船はゆっくりと進んだ。
ホーンテッドマンションと基本は同じのボートライドアトラクションだが、マンションがお化けレイアウトだったのに対し、こちらは古きよき時代の海賊達の生活を見られる・・・という触れ込み。
とりあえず、周りに展開される光景は片っ端からガイコツだらけでむしろホーンテッドマンションより死相が強いような気もした。
瞬「ディズニーランドって、結構グロテスク度高いよね・・・骸骨とか干し首とか・・・」
氷河「うむ。子供向け遊園地の割には刺激が強い」
星矢「単に俺たちのラインナップが間違ってるだけかもしれないけどな」
一輝「それにしても、このアトラクションはガイコツばかり出てくるな。『16世紀の海賊の生活=骨』ということだろうか」
紫龍「どんな生活だそれは」
しばらく狭いトンネルを行くうち、急に辺りが開けた。
港のセットだろうか、海賊船が泊まり、船窓からは大砲がこちらに向けて砲撃を・・・・
一輝「!伏せろ!!」
ガガガガーンっ!!!
全員が一斉に背を丸めたそのすれすれの上空を、衝撃波が通り過ぎて大音響を立てた。
瓦礫の崩れる音に混じって怒号が飛ぶ。
サガ「カノン!!いい加減にしろ!!公共のアトラクションを私物化していいと思っているのか!?」
カノン「黙れ!俺は前々から貴様が気に食わなかったのだ!!自分ばかり日向の人生歩きおって!!死ね!!」
瞬「あの・・・」
ガガガガンッ!!
サガ「おのれ・・・!おおっぴらに生きたければその腐った性根を叩きなおしてから出てくるがいい!お前こそ死んで第二の人生やり直せ!!オラァッ!!」
星矢「ちょっ・・・・」
ゴガバキごっ!!!
カノン「ぬうっ、船に穴が・・・!サガ!アテナに何と言い訳する気だ!!」
サガ「お前がやったと言ってやるわ!!」
カノン「ふざけるな!!いつもいつもそうやって俺に責任押し付けて・・・!!」
サガ「こっちの台詞だ!!誰が毎晩夕飯作ってやってると思ってる!!」
カノン「だったら二度と食わんわ、あんなまっずい飯!!」
サガ「なんだと・・・・!」
船上のカノンと陸の上のサガ。双子の兄弟は、間に客のボートを挟んでにらみ合う。
紫龍「・・・・二人とも。気づいてくれてるか?俺たちに」
サガ「気づいてる。とっとと去れ。邪魔だ」
一輝「今のお前らのやりとりでボートが止まってしまったんだが・・・」
カノン「一本道だ。出口まで歩け」
瞬「(会いになんか来るんじゃなかった)・・・あの、さしつかえなければ、喧嘩の原因聞いてもいい・・・?」
サガ「・・・つまらんことだ。夜のエレクトリカルパレードでどっちがフック船長をやるかでもめたのだ」
青銅「(本気でつまらねえ)」
カノン「一輝、お前ならわかるだろう!?フックをやるのは俺しかいないと!!」
一輝「いや、わからん;」
サガ「カノン、貴様などカボチャの馬車の御者役でもやっておればいいのだ」
カノン「うるさい!」
星矢「ええと・・・ピーターパンが誰かによって、どっちがフック船長かも決まるんじゃ・・・」
サガ「ピーターパンは下半身タイツなので皆なるのを嫌がった。よって今回はいない」
氷河「だったらフックもいらないだろう」
至極もっともな氷河の意見は無視された。
サガ「・・・・とにかく。パレードの時間は迫る一方。ここは本気でカタをつけさせてもらうぞ、カノン!」
カノン「望むところだ!」
そして再びとどろく轟音ともうもうたる埃。
青銅五人は黙ってボートを降り、流れ弾に気をつけつつ出口まで歩いて帰ったという。
カリブの海賊を出ると、ばったりシャカと出くわした。
シャカ「ん?なんだ君たち、まだこんなところにいたのかね。あと一時間ほどでエレクトリカルパレードがあるのだぞ。今から場所取りをしておきたまえ」
瞬「取らなくたって他にお客さんいないよ・・・あなたのせいで」
紫龍「ムウはもう一緒ではないのか」
シャカ「さっきまで共にいた。だが、所用があって出かけた。もうすぐ戻ってくるだろう」
一輝「お前もパレードに参加するのか?」
シャカ「無論だ」
一輝「・・・・何をやるんだ?」
シャカ「決闘だ。最初は白雪姫をやれという話だったが、それは実力で断った。ところが、アイオリアの単細胞が、わがままを言うな等と小うるさいことを言うので少々もめてな。決着はパレードでつけようということになった。楽しみにしているがいい」
瞬「そんな危険な出し物見たくないよ!巻き添え食うのが眼に見えてるじゃない!」
シャカ「獅子座の愚男はどうだか知らんが、私はまわりに害を及ぼすような無粋な戦い方はせん。安心したまえ」
氷河「無理だろう・・・」
シャカ「それはそうと」
と、シャカはキョロキョロと辺りを見回した。
シャカ「私はトゥーンタウンに行きたいのだが、ここはどこだね?」
瞬「トゥーンタウンは180度反対方向だよ。なおってないね、方向音痴」
シャカ「失敬な!少しばかり道を間違えただけだ!180度、ということは・・・・あっちか。それではな」
瞬「だからそっちじゃなくて向こうだって!反対向けばいいだけなのになんで間違うの!?」
シャカ「黙れ!間違ってても行き着ければいいだろう!」
星矢「間違ってたら行き着けないと思うよ、シャカ・・・」
シャカ「こんなところで言い合っている場合ではないのだ。早くパレードの準備に行かねばならん。方向は向こうだな?真っ直ぐ行けばいいのか?」」
瞬「待って。僕のサークルチェーン貸してあげる。コンパス代わりに使ってください」
シャカ「このシャカに青銅の聖衣を使えと言うのか?フッ、笑止な。・・・・・・・だが頼まれたのなら仕方ない。よこしたまえ」
チェーンを下げて、シャカは歩いていった。
瞬「・・・ほんと素直じゃない人だよね・・・」
一輝「わかりやすいがな」
星矢「パレードはどこでやるんだろ」
瞬「どこでも、大きな通りなら一周すると思うけど・・・シンデレラ城の前が一番見やすいんじゃないかな」
紫龍「見ること決定しているのか。大丈夫か?瞬。防御用のチェーンを渡してしまって・・・」
瞬「大丈夫。今回は最初から兄さんがいるし」
一輝「あんまりたよるなよ・・・」
五人はその後、新しいアトラクションに挑む勇気も無く、夕焼けを眺めて時間をつぶした。
そしてついにやってきたパレードの刻。
遠くから徐々に近づいてくるにぎやかな音楽とまばゆいばかりの光の渦。
ムウ「皆さん、もうちょっと下がってくださいね」
紫龍「ムウ・・・警備員なのか?参加しなくていいのか」
ムウ「いえ、私はテレキネシスを使えるので、キャラクターものの着ぐるみ全部をここから動かすんです」
氷河「・・・いきなり夢の無い話だな・・・」
最初にやってきたのは巨大なキノコと花のイルミネーション。アフロディーテと沙織が乗りたがっていたやつである。
果たして本懐を遂げたのはどっちか。
五人がやや緊張しつつ、キノコを見上げたその先に座っていたのは。
青銅「老師・・・;」
瞬「なんで!?どうして老師があそこに座ってるの!?」
ムウ「アテナとアフロディーテが取り合いになったのですけど、結局は年功序列で行くことに決定したんです。ですから、急遽私が五老峰まで行ってお連れ申しました」
氷河「年功序列の使い方を間違ってるぞ、お前ら・・・;」
紫龍「いや、それ以上に老師の使い方を間違っている・・・」
続いてミッキーマウスやグーフィーの乗る汽車が通り過ぎ、白雪姫の小人達が通り過ぎた。
暖かい光に満たされたダンスフロアが三つつながって現れた。
瞬「最初のやつに乗ってるのは・・・あれは、アフロディーテ?」
ムウ「そうです。似合ってますね、ドレス」
星矢「男には見えないよな。相手の王子やってるのはミロか」
とおりすがりに聞こえてくるのは、「痛い!まただ!何度踏めば気が済むのだ!?」「仕方が無いだろう!?そのドレスが邪魔でお前の足がみえんのだから!」・・・・
氷河「・・・まあ、ミロにダンスをやらせようということ自体がどだい無理な話なんだろうな・・・」
一輝「無理といえば次のも無理そうだが・・・アテナと、あれはアルデバランか?」
美女ベル役に扮する沙織と、野獣の着ぐるみを被った巨大な男。
紫龍「なんだか今にもお嬢さんがとって食われそうな感じではあるが・・・・だが野獣の方が萎縮してるといわれればそうも見えるな」
星矢「踊るとか、そういう問題じゃないよな、あれは」
氷河「待て。もっと違うのがいる」
三つ目のダンスフロアには、シャカとアイオリアが互いに両の拳を掴んだまま一ミリも動かず硬直していた。
瞬「千日戦争か・・・何もこんなところでやらなくても良さそうなもんだけど・・・」
氷河「形だけならダンスという気はするがな」
星矢「あ、サガだ」
星矢が見やった方向には、大きな船のイルミネーション上でものすごい剣げきを繰り広げている二人のフックがいた。
氷河「結局決まらなかったんだな」
瞬「剣先が見えないんだけど・・・パレード終わるころにはどっちか死んでるんじゃないのかな」
ムウ「いいじゃないですか。微笑ましい兄弟げんかですよ」
紫龍「そ、そうか?俺的にはあんまり笑えないんだが」
あんまり笑えないイベントはその後も続いた。
シンデレラのカボチャの馬車にカミュが乗って、うつろな目をして通り過ぎて行った。
ムウ「・・・駄目ですね、カミュ。シンデレラは窓から笑って手を振らなければいけないとあれほど言ったのに」
氷河「そんな、育ててもらった俺でさえ未だかつて見たことのないシチュエーションを・・・」
ムウ「御者のほうが目立ってるじゃないですか」
瞬「仕方ないよ。御者がヒドラ市なんだから」
そして最後の大きなイルミネーション上では、またしても二人の男が死闘を繰り広げていた。
シュラ「うろちょろするな!!貴様程度の男、さっさと観念して斬られるがいい!!」
デス「できるかよ!なんなんだお前!!」
・・・・・・・・パレードは通り過ぎて行く。
ムウ「どうでした?夢と魔法の演出は」
瞬「・・・きれいだったよ。若干悪夢っぽかったけど」
ムウ「もうすぐ花火も始まりますよ」
紫龍「花火?」
ムウ「ええ。サガとカノンが夜空に向かってギャラクシアンエクスプロージョンを。私もスターダストレボリューションで参加しますが、星々の砕ける様が爽快ですよ」
星矢「・・・・帰っちゃ駄目かな・・・」
星矢が一同を代表してつぶやいた時、最初の轟音が夜空に響き渡った。
ギャラクシアンエクスプロージョン。
一輝「・・・これなら十二宮で散々見たが」
瞬「いいよもう・・・ここまできたらとことん付き合おうよ」
花火(?)はその後も延々と続き、最後はシンデレラ城の崩壊を持って幕を閉じた。
五人は思った。
たぶん、自分達はこの光景を二度と忘れはしないだろう、と。
ちなみに、破壊されたアトラクションと城は、翌朝までにはムウが綺麗に直しておいたという。