「星の子学園」。それは親をなくした幼い子供たちが集団で暮らす、とある孤児院の名前である。
そこに、ある日突如として10人以上の体格のいい男どもが雇われることとなった。

美穂「せ、星矢ちゃん、これ一体どういうことなの?」
星矢「俺にもよくわかんないんだけど、沙織お嬢さんの命令でさ」
美穂「沙織お嬢さん!?ってことは、今度はこの学園が戦場になるの!?」
星矢「いや、そうじゃないんだ。ただ、聖戦も終わったし、今は平和だろ?そうすると俺達聖闘士は職にあぶれるんだ。だから強制アルバイト命令が出て、日銭を稼いで来いって・・・・」
美穂「そう、そうなの。私だって、星矢ちゃんが一緒に働いてくれるのは嬉しいわ。瞬くんや氷河さんたちだって知らない人じゃないし・・・・でも、でもね。あそこにいる、キンキラキンな人たちは一体・・・・・?」
星矢「ああ、あいつらは黄金聖闘士さ。怪しい人たちじゃないよ」
美穂「星矢ちゃんがそういうなら信じるけど・・・・けどあの人たち、孤児院でバイトするのになんであんなフルアーマー姿なのかしら」
星矢「仕事着なのさ。気にしないでいいよ、美穂ちゃん」
美穂「え、ええ・・・・」

 混乱している孤児院の天使、美穂ちゃんに、星矢が事情を説明している間、門の外では黄金聖闘士達とその他の青銅三人がこれからについて話し合っていた。

瞬「ギリシアからバイトに来るとは聞いてたけど、なんで皆完全装備しているの!?こんな図体のでかい愛想のないのが二桁でこられちゃ、恐くて園児が泣いてしまうよ!
アルデバラン「図体がでかくて悪かったな。態度がでかいよりはマシだろう」
シャカ「ん?それは私に対するあてつけか?」
紫龍「こんな所で喧嘩をしなくてもいいだろう・・・・ともかく、その聖衣、今の内にはずしておこう」
シュラ「しかし、任務の時は完全武装がアテナの聖闘士としての義務なのだ」
アイオリア「というか、そもそも俺達が孤児院でバイトすること自体に無理があるような気がするんだが・・・」
紫龍「・・・それは確かに」
ムウ「だからこそ、応援に青銅を頼んだのです。私たちだけでは力加減がわかりませんから、今ごろこの一帯は血の海・・・」
瞬「何をしに来たんですか。あーもう、じゃあ、せめて頭のマスクぐらいははずしてください。特にサガ」
サガ「な、なぜ私が名指し!?」
紫龍「・・・・見た目かなり恐いからだろう・・・・悪いことは言わない。はずしたほうがいい」
瞬「あと、デスマスクのも尖って危ないからさっさとはずしてね!初対面なんだから顔は隠さないようにしないと、子供たちに警戒されちゃうよ!アフロディーテ、あなたのバラは園内持ち込み厳禁だから。集団中毒が発生してからじゃ遅いからね!じゃ、さっそく案内するから、ついてきてくださいね」

 瞬に言われてぞろぞろと列を作って園内に入る黄金聖闘士達。
 後方で、ミロがカミュに何やら言っている。

ミロ「カミュ。俺は子供の世話など任されても、お前と違って弟子を取った経験も無いしどうしていいかわからんのだが」
カミュ「うむ。実を言うと私もよくわからん。聖闘士を育てる修行のメニューなら寒中水泳氷山割り等いくらでも考え付くのだが、どうもここの子供等はそういう目的で育てられているわけではなさそうだからな」
氷河「我が師カミュ。心配をせずとも、あなたの指導で俺はここまでに育ちました。教育にかけて、あなたの右に出るものはいないと信じています」
カミュ「氷河・・・よい生徒に恵まれたという点で、立場は違えど私もお前と同じ気持ちだ」
氷河「カミュ・・・!」
カミュ「氷河・・・!」
ミロ「美しい場面なところで悪いが、お前ら二人、何かが間違っているぞ。カミュ、ここの子供に氷河と同じ教育を施したら、まず間違いなく三日で死ぬから覚えておけよ」

 ミロに釘をさされてやや不満そうな様子のカミュと氷河。
 他の聖闘士達も困惑を隠し切れずにいる。
 考えるだに上手く行かなそうなアルバイトの日々は、かくして不吉に騒がしい幕開けとなったのだった・・・


〜育児室前の廊下にて〜

職員用宿舎の一晩が過ぎ、明けて翌日からいよいよバイト開始である。
ちょうど日曜日ということもあり、学園内には子供がいっぱい。遊び盛りのわんぱくから、中にはおしめの取れてない赤ん坊もいる。
もとからいた保母さんたちも大奮闘だが、それでもまだまだ足りないようだ。
というわけで、黄金聖闘士達は朝っぱらから苦境に立たされることになった。

ミロ「カミュ!カミュ!どこだ!?助けてくれ!」
シュラ「カミュならさっき氷河に呼ばれて出ていったが・・・なんだ騒々しい」
ミロ「シュラ!この際お前でもいい!これを何とかしてくれ!」
シュラ「これ・・・って、この赤子をか?泣いているが、これを止めればいいのか?待て、俺にはムリだ!」
ミロ「大丈夫だ。美穂とか言うあの娘から、一応泣いている原因は聞いて来た。対処の仕方も教えてもらったぞ」
シュラ「どうするのだ?」
ミロ「おしめを替えてやれ、ということだ。これがその道具。頼んだぞ」
シュラ「待て!!押し付けていくな!お前がやれ!!」
ミロ「出来るか!!これは女の子なのだぞ!?俺がやっていいことではない!!」
シュラ「女!?ふざけるな、俺にだってできん!!

 頭上で言い争う男達の声に驚いて、赤ん坊はますます泣き声を張り上げる。が、ミロもシュラも困惑の極みにあるらしく、一向さっぱり気づかない。
 もし、ここにちょうどムウが通りかからなければ、哀れな赤ん坊はひきつけを起こしていただろう。

ムウ「御二人とも、朝から何を騒いでいるんですか」
シュラ・ミロ『ムウ!!』
ムウ「そんな必死の顔で見ないでください。・・・・おやおや、赤ん坊をそんなに泣かせては駄目です。貸しなさい」

 優しく赤ん坊を抱き取り、あやすムウ。

ムウ「おむつを替えなければならないようですね」
ミロ「替えはここにある!やってくれ!」

 ミロの差し出したパンパースを受け取り、彼はためらい無くさっさと作業を始めた。

ムウ「よしよし、すぐに取り替えてあげますからいい子にしていてくださいね。・・・・・・・・・なにそっぽ向いてるんですかあなたたち」
シュラ「聞くな。察せ」
ムウ「・・・・・・・・まあ、察するのは簡単ですけど・・・・・・・こんな年端も行かない人間未満相手に耳まで赤くなっててこの先どうやって家庭を持つ気なんです。・・・・さあ済みました」
ミロ「恩に着る。・・・しかし、お前なんでそんなに手際よく・・・・」

 おしめを替えてもらった赤ん坊はすっかり機嫌をなおして、「だぁだぁv」とムウの顔に手を伸ばしたり、胸を叩いたりしている。
 その様子はなるほど、可愛いに違いはなかったが、既に一度パニックに陥ってしまったミロとシュラとはなんとなく引き気味の体勢で見ていた。
 左手に赤ちゃん
右手に哺乳びんを携えたサガがやってきたのはそんな時である。

サガ「ああムウ。おまえも赤子の世話か」

 なんだか機嫌よさげに話かけ、哺乳びんを頬に押し当ててミルクの温度を見る。

サガ「人肌人肌・・・・うむ、そろそろだな」
ムウ「サガ。なんだか妙に幸せそうですね」
サガ「ああ。生まれて始めて生きる喜びを知ったような気がする。純真な幼子を見ていると、罪に染まった私の心まで洗われるようだ。子供はいいな、ムウよ」
ムウ「・・・・・・そんな事言って、年端も行かぬアテナを殺しかけたのはあなたなんですけどね。まあいいでしょう。サガ、あなたそんなに子供好きなら、そろそろ結婚して身を固めたらどうなんです。もういい歳なんですから」
サガ「うむ・・・それも考えたことはあるのだがな。しかし私はアテナの聖闘士。自分一人の体ではない。それに何より不出来な弟の今後を思うと、とにもかくにもあいつを婿にやるまでは自分を省みている場合ではないのだ」
ムウ「似たような言葉をカノンからも聞けそうですが、それより、そのミルクどこでもらいました?うちの子にもあげたいのですけど」
サガ「ああこれか。これなら台所にデスマスクがいるからあいつに言えば作ってくれる。ただ、油断すると粉をケチるから目を離さないようにしろ。子供は栄養が大事だ
ムウ「あなた女性だったら絶対母乳で育てるタイプですね。ありがとう、行ってみますよ」
サガ「待てムウ。この紙おむつ、少しもらって行っていいか?」
ムウ「ご自由に。こういうのはすぐに取り替えてあげないと肌荒れの原因になりますからね。いくらでも持っていきなさい」
サガ「感謝する」
ムウ「それでは」

 なんとなく心の通じ合った肯きを返して、二人はそれぞれ別の方向へ去っていった。手に手に赤子を抱えながら・・・
 そして後には、額にうっすら汗をにじませたミロとシュラとが取り残されたのだった。

シュラ「・・・・・・・ミロ、俺は何か、見てはいけないものを見てしまったような気がするんだが・・・・」
ミロ「・・・ああ、俺も何か、知ってはいけないことを知ってしまった気がする・・・・」
シュラ「育児に専念する黄金聖闘士・・・考えたことも無かったが、改めて考えると微笑ましいというよりなんだか異様だな。サガなどすでにアルバイトを通り越して永久就職しそうな勢いだったが・・・・」
ミロ「まさか他の奴等も皆この調子なのではあるまいな。冗談ではないぞ!ギリシャ聖域の十二宮が総保育園化したら、俺はミロス島に帰るからな!・・・なんだか不安になってきた。はっ!そうだ、カミュ!あいつはどうした!危険だ!!」
シュラ「カミュなら、さっきも言ったが氷河と一緒に庭の方へ・・・」
ミロ「ちょっと行ってくる!!」
 
 ミロはマントをばさばさ翻し、光の速さで飛んでいった。
 とうとう一人になってしまったシュラは、しばらく所在なげに辺りをうろうろしていたが、やがて「デスマスクがいる」とのサガの言葉を思い出し、藁にもすがるような気持ちで台所の方へと向かっていったのだった。


〜園庭にて〜

 ミロが駆けつけた園庭では、何やらただならぬ雰囲気が漂っていた。

子供「あ、あああああ(真っ青)」
氷河「これで残りは貴様一人だ。くらえ、カリツお・・・・
ミロ「リストリクション!!」
氷河「ぐわっ!?」

  ピキィィィンッ!

カミュ「ミロ!何をする!」
ミロ「お前こそ何をしている!なんだこの凍り付いた子供の群れは!?リングの数はどんどん増えていってるし、既にリングだらけで中が見えなくなってるのもいるではないか!殺す気か!?ああくそっ!!」

 ミロはマントをはずすと、小火でも叩き消すかのようにバッサバッサと子供たちにかかった氷結リングを消していく。
 一通り散らし終わって振り返ると、ちょうど氷河も復活したところだった。

氷河「ミロ・・・お前がなぜここにいる」
ミロ「ちょっと気になることがあってな・・・・カミュが教師本能全開になってたらどうしようかと思ったのだが、なんだか考えていたのとは逆の意味でかなり危険になっているな。どちらにしろ、駆けつけて良かった」
氷河「余計な世話だ。こいつらの始末は俺がつける」
ミロ始末をするなあああっ!!ガキ相手に何をおとなげない事言っている!っていうか何があった一体!?」
氷河「まあ聞いてくれ。このガキどもが外で遊びたいと言うから付き合ってやったんだ。なんでも『ガオレンジャーごっこ』をするとか言うが、人数が足りないというので我が師カミュを呼んだ。そうしたら、やつらめ、『金ぴかオルグ』等という妙な名前をつけて、カミュを敵に見立てて殴ったり蹴ったりやりたい放題し始めたのだ」
ミロ「・・・・まあ、一人だけ浮いた格好しているものな・・・・って俺もだが・・・・それでお前が切れたのか?」
氷河「ああ。『お前らが何度も足蹴にしていたカミュは俺の師だ』と教えてやり、軽く固めてやった
ミロ「・・・・・・・・・(汗)そ、それで、そういう事態を見て、お前は止めようとか思わなかったのか?カミュ」
カミュ「うむ、私としては子供のすることだし蹴られようが殴られようが毛虫ほどにも感じぬから別に良かったのだが、氷河が好意でやってくれているわけだし、水を差すのもなんだか・・・・」
ミロ「そういう問題か!!見てみろ、子供が凍死寸前だ!おい、さっさと暖かい場所へ連れていってやれ。ここら一帯、寒くてかなわん!氷河、お前はその辺のを担いでいけ!」
氷河「何で俺が・・・」
ミロ「それは俺の台詞だ!!つべこべ言わずにさっさとやらんと真紅の衝撃だぞ!おい、ぼうず、しっかりしろ!」

 こうして、迷惑な友人のせいで最大の貧乏クジを引いたミロは、めでたく保育士の仲間入りを果たしたのだった。


〜厨房にて〜

一方、デスマスクの様子を見に台所へやってきたシュラは、ここでもなんだか見たくない場面を見てしまっていた。

デス「あっ、くそ、このガキ!つまみ食いはするなといっているのが聞こえんか!!昼飯が食えなくなるだろう!?」
子供「わー!デっちゃんが怒ったーー!!」
デス「タケシ!!そのプリンは本気で怒るぞ、皆の分に足りなくなる!!こらそこ!冷蔵庫をあけっぱなしにしてんのは誰だ!?ヒロシか!?・・・・おい、マイコ!おまえ女のクセに盗み食いとはどういうことだ!!」
マイコ「あー、ダンジョサベツはんたいだもーん!」
デス「ガキがきいたふうな口をきいてんじゃねえ!!嫁の貰い手が無くなるだろうが!あー、もう、てめえらこれやるからさっさと出て行けーっ!!」

 とうとう折れたデスマスクがチョコレートの袋を投げてよこすと、子供たちは歓声をあげて一気に台所から出ていってしまった。
 最後の一人がいなくなるのを見送ってから、おそるおそる入っていく、シュラ。
 
シュラ「デ、デスマスク、なんだか大変そうだな・・・」
デス「よお、シュラか。なんだ、お前もミルクがいるのか?」
シュラ「違う。ただお前がどうしてるかと思ってちょっと・・・」
デス「そうか。サガとムウがもらいに来たからてっきり・・・。どうしてるかといわれてもな。見た通りだ」
シュラ「忙しそうだな」
デス「昼飯作るだけならそんなにたいしたことではないのだがな。隙を見てガキどもが奇襲をかけてくる。特に悪いのがタケシだな。あいつが先頭きって仲間を引き連れてくるのだ」
シュラ「もう名前を覚えたのか。・・・・いやいい。邪魔をしたな。では」
デス「待て。せっかく来たんだ、ゆっくりしていけ。ちょうど手が足りなくて困っていたところだ。何と言ってもガキども全員分の食事作りだからな。おいシュラ、そこら辺の具材切ってくれないか?
シュラ「これか?・・・・・・・・・・・・」
デス「そうそう。・・・・あ、バカ!そんなふうに切る奴があるか!!」
シュラ「な、何!?」
デス「ウィンナーは両側からこうやってこう!カニさんにしろ!面倒だったら半分はタコさんでも構わん。リンゴはウサギさんだぞ。お前のエクスカリバーはなんでも切れるのだろう?なんだったらカメさんでも鳥さんでも好きなの切っていいぞ」
シュラ「何でも切れるというのはそういう意味ではないんだが・・・・」
デス「リンゴは切った後変色するから塩水につけといてくれ。人参は嫌いな奴が多いからできるだけ細かく刻んでな。ジャガイモの皮は薄くむけよ、皮の下が一番栄養があるのだ」
シュラ「む、むずかしいな・・・・」

 30分後、そこにはなんだか楽しそうに鼻歌なんぞ歌いながら鍋をかき回しているデスマスクと、真剣な顔をしてせっせとウサギリンゴを作りつづけるシュラの姿があったという。


〜中庭にて〜

 中庭ではある種壮絶なゲームが行われていた。

瞬「・・・〜ち、きゅ〜う、十!さあ皆、探し始めるからね!」

 目をつぶって十数え終わった瞬はそう宣言して、ひっそりとした、それでもそこはかとなく気配の漂う中庭を見渡した。
 足元にはコーラの空缶。
 かくれんぼと違ってカンケリの難しいところは、自分から積極的に探しにいけないところである。うっかり持ち場を離れてその隙に缶を蹴られたらもともこもない。
 瞬はしばらく息を止めて辺りに神経を張り巡らせた。が、警戒しているらしく、誰一人出てこようとはしない。
 動く気配も無い。

瞬「・・・だけど無駄だよ、皆。僕の右手のスクエアチェーンはどこに隠れていようと必ず見つけ出す。
 ゆけ!
サンダーウェーブ!!


 カシーンッ!!

瞬「星矢見ーっけ!」
星矢「おいおいおいおい待てよ瞬!!今のは反則だろう!?」
瞬「いいわけは星矢らしくないよ。ほら、いつまでも隠れてないで早く出てき・・・・」
紫龍「見切った!!廬山昇龍覇ーーーっ!!

 一瞬の隙をついて木陰から飛び出した紫龍の放った必殺技が、コーラの缶に迫る!
 しかし・・・・

「守れ、チェーンよ!!」

 最高の防御本能を誇るアンドロメダ・チェーンの前になすすべも無く弾き返されてしまった。
 すぐにグレート・キャプチュアーで捕まえられてしまった紫龍は、やや憮然とした顔で抗議をする。

紫龍「瞬、こういう事は言いたくないんだが、これではいつまでたっても缶が蹴れないのではないか?」
瞬「だって蹴られちゃ困るもの。それに、紫龍だって足を使わないでで仕掛けてきたじゃない?」
紫龍「それはそうだが・・・・しかし、こうも完璧に缶の周りにネビュラをしかれては、蹴ろうにも近づくことすらできん」
星矢「そうだぜ瞬。これはちょっといくらなんでもやりすぎだ」
瞬「だめだよ。最初に決めたじゃない。『男のゲームにルールはいらない』って言ったのは星矢なんだからね」
星矢「それは初心者のアイオリアがいたからさあ・・・」
紫龍「む、そう言えばアイオリアはどこに・・・?」
瞬「え?」

 紫龍に言われて気づいた瞬が振りったが、時、既に遅し。

アイオリア
「ライトニングプラズマーーーーーッ!!!」

 がごぉんっ!!!

 飛び出してきた獅子の光速技で、ネビュラはなすすべも無く崩され、辺りのいくつかの植木と一緒に缶は遥か遠くへ吹っ飛んでしまった。

アイオリア「ふ、油断したな、アンドロメダ!」
星矢「いいぞアイオリア!これなら瞬も当分缶を拾ってこられないだろ!」
紫龍「うむ!」
瞬「くっ!そうはいかないよ」

 痛恨のうめきをもらしつつ、瞬は体勢を立て直し、その手から再びチェーンを繰り出す。

「行け、チェーンよ!!あの缶を探せ!!」
星矢「あ、おまえまたそういう手を使うか!?」
アイオリア「いかん、早く隠れろ二人とも!」
紫龍「あ、ああ!」

 星矢達は慌ただしく中庭のあちこちへ散らばっていく。
 ライトニングプラズマだし、既に缶なんか跡形も無いような気もするが、とにかくゲームは続行された。
 ちなみに、参加していたその他の普通の子供たちは、あまりの恐ろしさに試合が終わるまで一歩もその場から動くことすら出来なかったという・・・・


〜再び園庭〜

 庭の真ん中の日当たりの良い場所。そこに、先ほどから盛んに火の手が上がっている。

一輝
「鳳翼天翔ーーーーーッ!!!」

んぼぼぼっ!

ミロ「よし、その調子だ!少しずつ顔色が良くなってきているぞ!頑張ってくれ一輝!」
一輝「ぜえ・・・なんで俺がこんなことを・・・おい、そこの二人!子供が凍死しかけたのも、もとはといえば貴様らが原因だろう!?少しは協力したらどうだ!」
カミュ「協力といわれてもな・・・私に出来るのはせめて苦しまぬように
棺を作ってやることぐらいだが、それでよければいくらでも・・・」
ミロ
「やったら殺す!!ようやくここまで温めて蘇生させたんだぞ!一輝、そんな奴等はほっといてさっさと火をたけ!」
一輝「うう・・・・ほうよくてんしょ・・・」
ミロ「
火力が弱い!!貴様の力はその程度かフェニックス!?」
一輝「な、何だと?面白い、ならば見せてやろう鳳凰のはばたきを・・・・!
   
鳳翼天翔ーーーーーッ!!!

氷河「
あ、あつい・・・・
カミュ「・・・まあいろんな意味でな。ここにいても仕方ない。いくぞ氷河」
氷河「はい」

 薄情なまでにクールな二人が姿を消した後も、ミロと一輝はせっせと蘇生作業を続けた。
 ふたりとも、
「情熱的で世話係」なあたり、結構気が合っているのかもしれない。
 ともあれ、彼らはもって生まれた一点集中の性格により、それはそれは一生懸命に頑張った。
 少々頑張りすぎるほどに・・・・・


〜昼食〜

カラーン カラーン

昼飯時を告げる鐘の音が鳴ると、そこら中に散らばっていた子供たちもどこからとも無く集まって、ものの数分で食堂の椅子が一杯になった。
もちろん、テーブルに並んだ面々の中には聖闘士達も揃っている。

デス「たけし、お前らちゃんと手ぇ洗ってきたか?よし。残すんじゃないぞ。全部食べないと承知しないからな。じゃあはい、
いただきます!」
子供たち「いただきまーす!
シュラ「
完全に同化している・・・なぜ・・・・(汗)」
シャカ「なんだこの料理は?スパゲティーにポテトサラダにコーンポタージュだと?
くだらん。こんな浮かれた料理、私に食べろというのかね?」
瞬「そういう事言わないで・・・せっかくデスマスクが作ってくれたんだよ。結構おいしいし」
シャカ「フッ、子供の口には似合いの品だな。だが生活の基本は
粗食だ」
デス「・・・食いたくないのなら残していいぞ。冷蔵庫に冷や飯があるから、貴様はタクアンでもかじってろ」
シャカ「なんだその口の利き方は。相変わらず礼儀を知らん男だな」
デス「貴様に言われたくないわ!」
ムウ「止めてください二人とも。食事中に
千日戦争始めるつもりなら、スターヒルへ強制退去させますよ」
サガ「なんなら私のアナザーディメンションでもいいが・・・」
デス「お前らの世話になるぐらいなら、自分で
積尸気に引きこもるわ!ったく・・・」
瞬「まあまあデスマスク、この料理本当においしいよ。ところでシャカ、あなたは今日、どこにいたの?見かけなかったけど・・・」
シャカ「子供の世話をするのは面倒なのでアフロディーテと共に花壇の手入れをしていた。ここの花壇はまったくひどい。美的センスの欠片も無いぞ。あまりにも不憫に感じたので手持ちの
沙羅双樹の種を植えておいてやった」
瞬「そうやって、着着と
自分の死に場所を確保してるんですね・・・」
シャカ「フン、こんな騒々しいばかりの場所は願い下げだ。植えている間にもサッカーボールが花壇に飛び込んで来たしな。とりあえず、
地面に膝まづいて詫びを入れさせたが、二度と邪魔をされぬようそれからはアルデバランにになってもらっていた」
瞬「ほんと唯我独尊な人なんだから・・・ひょっとして、アフロディーテのバラも植えたりしてませんよね?僕、持ち込み禁止って言いましたよね?」
アフロ「安心したまえ。
毒性の低い奴を選んでおいた」
瞬「
やっぱり毒じゃないですか!!ダメだよ!後で全部引っこ抜いてください!いいですか!?」
アフロ「私の手をこれ以上汚せというのか?植えるだけならまだしも、土を掘り返すなど、私の美意識に反する!」
瞬「捨ててくださいそんな美意識!とにかく何とかしないとアテナに報告しますからね!」
アフロ「むう・・・卑怯な・・・!・・・そうだ、アルデバラン!」
アルデバラン「お?どうした?」
アフロ「バラの始末は君に任せたぞ。やっといてくれ」
アルデバラン「なっ!なんで俺が!?」
シャカ「
畑を耕すのが牛の天職だろう。つべこべ言わずに黙って働くのだな」
アルデバラン「なんだかお前ら
すごく嫌な奴だなオイ・・・嫌だぞオレは。ニオベ以来、匂いにはトラウマがあるのだ」
ムウ「アルデバラン、何でしたら私が代わりに引き受けましょうか?テレキネシスを使えばバラの百や二百、あっという間に引っこ抜けますから」
アルデバラン「おお、ムウ!恩に着るぞ!」
ムウ「ニオベ戦では借りがありますのでね。というわけで、アフロディーテ、
あなたの相手は私ですから
アフロ「う・・・・・・・(汗)」

 育まれる友情と冷戦。
 その一方、反対側のテーブルでも何やら問題が持ちあがっていた。

美穂「星矢ちゃん、大変なの。さっき医務室に子供たちが6人くらい運び込まれて・・・!」
星矢「何だって!?一体どうして!」
美穂「先生の話だと、なんでも
熱射病らしいわ」
ミロ「ぐっ!げほげほげほっ!」
星矢「ん?どうした?ミロ。・・・・もしかして何か心当たりでもあんのかよ」
ミロ「いや、その・・・・なんというか・・・・話せば長くなるんだが・・・・その・・・」
星矢「?あんたらしくないな。はっきり言えよ」
ミロ「うむ・・・・実は・・・・」

 ミロは「生徒凍結→解凍」の一部始終を話した。

星矢「・・・それで勢いあまって温め過ぎた、と」
ミロ「・・・・・・・すまん・・・・・」
美穂「ま、まあ、でも悪気があったわけじゃないみたいですし・・・そんなに落ち込まなくていいですよ、ミロさん」
ミロ「・・・・・・・そう言ってもらえるとありがたい。礼を言う」
美穂「いえ、そんな・・・」
星矢「あれ?そう言えば、一輝は?」
ミロ「飯の前に
『俺は群れるのが嫌いだ』とか言って、どこかへ消えてしまった」
星矢「
逃げたんだな・・・あのヤロ・・・・それで、氷河。諸悪の根源のお前らはここで呑気に飯なんか食ってていいのか?」

 星矢に矛先を向けられた氷河は、一瞬スープをすくう動きを止めた。
 そして、

氷河
「別に・・・」
星矢「何が別にだ!!こういう時だけクールになるな!!おいカミュ、お前一体どういう育てかたしたんだ!」
カミュ「どうといわれても・・・」
氷河「カミュに非はない!俺の世界一の師だ!」
カミュ「氷河・・・・(じーん)」
ミロ「・・・・お前らいい加減にしろよ。毎度毎度そのはた迷惑な師弟愛のおかげで、どれだけ被害が出てると思っているのだ。老師だってお怒りになっておられたぞ。『
融けない氷を留守中にばらまかれて迷惑極まりない!』とな。・・・・隣のよしみで片付けさせられたのはだが・・・・」
カミュ「そうだったのか・・・・いつもすまない、ミロ。お前にばかり迷惑をかけて・・・いっそ私などと友人でなければこんな事にはならずにすむ・・・・」
ミロ「!何を言っている!詫びなど言うな!
親友だろう!?当然のことをしたまでだ!」
星矢「・・・ミロ・・・そこがお前のいいところなんだけど、自分自身のためにももうちょっと考えて行動した方がいいと思うぞ・・・」

 さっきまでシャカと口論していたデスマスクは、紫龍やシュラと今度はやや落ち着いて会食していた。

デス「紫龍、おまえフォークは使えんのか?」
紫龍「うむ、使えないことはないのだが、やはり箸の方が慣れているのでな」
デス「なんだか
ものすごいおじいちゃん子みたいだな。五老峰では何食ってるんだ?」
紫龍「春麗の手料理だ。うまいぞ」
シュラ「彼女と
結婚はせんのか?」
紫龍「!な、何をいきなり・・・!」
シュラ「あ、いや、なんとなく、聖戦も終わったことだし」
デス「そうだな。いつまでも
家政婦扱いでは可哀相だ。そろそろ男としての責任を取るべきじゃないのか?」
紫龍「待て。今のはなんだか
不穏ないい方に聞こえるんだが・・・」
デス「
?子供が出来たのだろう?
紫龍「
ぶっ!!

 口に含んだスープを一気に噴き出した紫龍である。

サガ「おい、こっちにまで飛んできたぞ。何の話をしている?」
シュラ「ああ、
紫龍の子供が・・・」
紫龍「待て待て待てっ!!なんだ!?一体どこからそんな話が出てきている!!」
デス「違うのか?」
紫龍「根も葉もないっ!!」
シュラ「そうか・・・いや、この間聖域にきた老師が
初孫の名前を考えて喜んでいたのでつい・・・」
デス「なあ」
紫龍「二人とも、俺をいくつだと思っているのだ・・・不可能とは言わないまでも、道徳的に無理がある!」
シュラ「だが
老師は本気だったぞ。今の内に覚悟はしておけ」
デス「十代半ばで
完全に進路を決定されたな紫龍・・・不憫な奴・・・」
紫龍「う・・・し、しかし、俺は曲がりなりにもアテナの聖闘士。結婚などしてもいいのか?」
デス「だめなのか?」
シュラ「駄目なら駄目で、紫龍、話は変わるが、お前
山羊座の聖衣を継ぐ気はないか?」
紫龍「な、何?」
シュラ「エクスカリバーを見事継承できたお前しか、俺の後を引き継げるものはおらん。半端な奴にこの聖衣を着せたくはないしな。老師の顔もあるだろうが、一つ真剣に考えてみてくれんか?何と言っても、ライブラの聖衣は
お前には似合わないし・・・
デス「おい、シュラ。抜け駆けは卑怯だぞ。それで言ったら俺だって、蟹座の聖衣を・・・」
紫龍「
いや蟹はちょっと。というか、待ってくれ。そんな先の話を今言われても」
シュラ「先かどうか、そんなことはわからん。ひょっとしたら明日にも俺は涅槃へ旅立つことになるかも・・・」
紫龍「五体満足な
23才が何を言う!老師にいわれたのならば線香葬儀屋の準備までするだろうが、シュラ、お前はまだまだこれからではないか!共にアテナを守ろうと思えばこそ、こうして並んでスパゲッティーをすすりもするのだ!」
デス「・・・
ずいぶん安いアテナだなお前・・・・」
紫龍「とにかく、シュラ。申し訳ないが、死後を継ぐという話なら、
先に逝く順からいっても老師の方が99%確定だ。・・・・あの老師だから残り1%が侮れん、という気もするが・・・あきらめてくれ。すまない」
シュラ「むう・・・残念だ。山羊座の聖衣、
似合っていたのに・・・」
デス「蟹マスクをつけたところも見たかったのだが・・・・」
紫龍「俺という人間を見込んでくれた、お前達の気持ちは嬉しかった。それは本当だ」
サガ「・・・・・・」

 端から見ていたサガにとっては、人間を見込んだ云々よりも
「仮装大賞」の色が強いように思えたが、それは言わないで置くことにした。

 かくして、昼食は各々平和の内に過ぎていったのだった・・・


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