やや離れたところから俺に注目しまくっている黄金聖闘士達。
台所内には張り詰めた沈黙が漂っていた。
が、それはほんの少しの間だけだった。
シュラ「・・・・納得いかんな」
頬に冷や汗一筋たらしつつ、シュラがそう呟いたのだ。
シュラ「この山羊座の黄金聖闘士シュラが、カニの一匹ごときにおくれをとったとあっては末代までの沽券に関わる。何より、女神より賜ったエクスカリバーの名に傷がつくではないか」
カノン「そうだな。カニに真剣白羽取りされたっていうのはちょっとな。お前に末代が出来るかどうかは別として」
ミロ「真剣白羽取りならばまだしも、見ようによってはジャンケンで負けたみたいにも見えるしな」
シュラ「黙れ」
うなるシュラの目がカミソリ並みに細くなっている。
やべえ;まじ怒ってやがる・・・・;
俺に向かって。
何で俺が怒られなきゃならないんだよ!カニか!?カニだからなのか!?
俺はもう一度、自分が誰かをアピールしようと必死で考えた。
ブロックサインは通じねえし・・・・ええと・・・・・!
!
そうだ!筆談!!
・・・しかしここは台所。紙もペンも無かった。
いや、あきらめるわけにはいかねえ。ペンが無いなら、代わりに何か・・・紙に書くんじゃなくても、何かに傷をつけるとかで文字を書くことはできるはずだ!
何か無いか?!何か!!
・・・・お!!よ、よしっ!これだ!!
シュラ「とにかく!今度こそ覚悟してもらうぞカニ!!食らえ!エクスカリ・・・・!!」
リア「気をつけろ!このカニ、受けて立つつもりだ!!」
ちげえ!!ちげえんだ落ち着け!!;;
シュラ「くっ!カニの分際で生意気な!俺は実力もないくせにでかいことをやろうとする奴が嫌いなのだ!」
知るかよ!
って、突っ込んでる場合じゃねえ。
俺は別にこの包丁でエクスカリバーと刺し違えるつもりなんざまったく無いんだ!そんなことしたら即死だろうが!!
そうじゃなくて、ただ伝えたいだけなんだよ!
早く、紙の代わりに何かに文字をかかねえと・・・・!
何か・・・何か・・・・!
シュラ「ジタバタするな!今すぐ息の根を止めてくれる・・・!」
サガ「待て!シュラ、カニはお前とやりあうつもりなのではない!」
シュラ「・・・なに?」
サガ「落ち着いてよく見てみろ。こいつは・・・・」
サガ「料理をするつもりだ!」
しねえよ。
思わず素でツッこんだ俺だった。
・・・・つーか、もういい・・・・どうあがいてもこいつらにはわかってもらえない。それがよくわかった。もういい。
カミュ「料理をするとは、なかなか健気なカニではないか」
だからしねえって!
シャカ「料理をするからどうだというのだ。カニはカニだ。さっさと食われたまえ、往生際の悪い」
ムウ「そうですよ。料理ぐらい貴鬼だってします。どうも見ている限り、このカニも包丁の扱いには不慣れのよう。調理を手伝ってもらっても足手まといになるだけですし、さっさと鍋にいれましょう」
・・・・シャカとムウか・・・・
さすがっつーか・・・・・なんつーか・・・・・
アフロ「あの、ちょっと・・・その。待て、皆」
ふいにアフロディーテが口をはさんだ。
なんだか神妙な顔をしているのが、俺のところからもわかった。
サガ「どうした?」
アフロ「あの、あのな?そのカニ・・・・食べるのよさないか?」
おっ!!(喜)
サガ「なに?なぜだ。一番最初に食う方向に話をもってきたのはお前だぞ」
アフロ「それはそうだが・・・・なんだか、可愛そうだ」
おおっ!!(大喜)
えらい!えらいぞアフロディーテ!そうだよな!可愛そうだよな、カニを食うのは!!
バラン「今さら何を言っている」
アフロ「だって!さっきっからすごく食べられたくなさそうな顔をしてるし!!」
ムウ「あたりまえでしょう。食べられたがる生き物なんかいませんよ、普通」
アフロ「それに!このカニ、なんだかデスマスクに似てるではないか!きっと食ったらまずい!!」
「デスマスクに似てる・・・」
ちげえだろうがよ!(怒)
なんなんだよこの絵は!!台詞の微妙な部分だけリフレインするのもやめろ!
どうしてこいつが絡むと周りに浮遊物体が出現するんだよ!!
つーか後ろのアンドレ顔の男は誰だ!?俺か!?俺なのか!?
アフロ「だからよそう!腹を壊す!!」
リア「そんなわけのわからん理屈をこねられても; 大体、どの辺がデスマスクに似ているのだこのカニの?」
アフロ「顔!」
比較検証・デスマスクとカニ
似てねえよ!!いやいろんな意味で!
左と右が似てるかどうかっつー以前に、そもそも俺のもとの顔がどっちでもねえじゃねえか!!
サガ「・・・・」
アフロ「な!?似てるだろう!?」
サガ「・・・・・・うむ。言われて見れば確かに」
うそ!?;
サガ「しかし、カニはカニに過ぎん!知人に似ているからといって食うのをやめてどうする!」
アフロ「でも!」
サガ「アフロディーテ、お前は『アルデバランに似ているから』という理由でコーラを飲むのをやめるのか!?やめないだろう!?」
アフロ「やめる!!別の意味で!」
バラン「・・・・無いから安心しろそんなもん・・・」
シャカ「どうでもいいが、食うのかね、食わないのかね。鍋の準備は万端だぞ」
ムウ「もうなんだか疲れました。カニを放り込んでおしまいにしましょう」
いや、待て待て待て。
サガ「とにかく!カニは鍋にする!それで決まりだ」
アフロ「っ!」
アフロディーテが唇を噛み締めた、そのときだった。
雑兵「たっ、大変です!!大変ですーっ!!」
やたら要領の悪い大声と共に、一人の雑兵が駆け込んできた。
シャカ「何だね、騒々しい」
雑兵「はっ、その・・・・!で、デスマスク様が!!」
え?俺?
シュラ「どうしたのだ?」
雑兵「村で・・・ロドリオ村で・・・・変死体となって発見されましたっ!!」
・・・・・・
・・・・・・・・・・・は?
雑兵の放ったあまりの衝撃的な言葉に、誰もがカニ鍋のことを忘れ去ったのだった。
もちろん・・・・この俺も。