神々の首脳会議


皆様、こんにちは。冬を目前に、聖衣の修復以来が殺到する今日このごろ、いかがお過ごしでしょうか。
ここ、ギリシア聖域アテナ神殿では、陸・海・冥の覇者達による歴史的なセレモニーが行われようとしております。
その名もずばり、「ゴッド・サミット」
参加する首脳は、地上の神アテナ、海の大神ポセイドン、冥界の支配者ハーデスの三巨頭で、こじれたら最期一夜にして世界が消滅するかもしれない一触即発の大会議です。
 第一回である今大会の議題は「人類の未来について」別方面に深い話になりそうですが、現在集まっていらっしゃる首脳の方々はそれなりに穏やかな再会を果たしたようでした。
 それでは、これからサミットの様子を生中継していきます。
 実況は、「あの三人に囲まれて平気で笑ってられる図太い奴はお前だけだ」と同僚から大抜擢された私、牡羊座のムウが担当させて頂きます。
 十二聖宮の皆さん、怨みますよ。
 というわけで、さっそく参りましょう(笑顔)。

沙織「本日は、本当に良く集まってくださいましたね、皆さん」
「ああ、たまにこうして目覚めてみるのも悪くない・・・・・って!これはどういう事なんですかお嬢さん!!
ソロ一度はプロポーズを断ったあなたから誘いを受けるなんて、何かおかしいとは思いましたが・・・・・と、失礼。どうも封印されているせいか、思ったよりも力がでんな。ハーデス、大丈夫か?」
瞬「ハーデスじゃありません!僕は・・・・ああ大事無い。アンドロメダは余の体ながら拒絶反応が強くてな。・・・だからあなたの体なんかじゃないって言ってるでしょう!?

 お三方とも、再会したばかりで多少の混乱があるようです。

瞬「早く出てって・・・いいから少しおとなしくしていろ!いっぺん死体にするぞ!・・・ああ、それでよし。ようやく落ち着いて話が出来る」
沙織「ポセイドン、あなたはどうです?落ち着きましたか?」
ソロ「うむ。アンドロメダと違って私の依り代は単なる商売人のボンボンだからな。操ることなど造作もない。イチコロだ
沙織「それは良かったですこと。もしも何か不都合が出て、体が言うことを聞かなくなったりしたら、針治療師のミロと光速肩叩き師のアイオリアを待機させていますので遠慮なく申し出なさい。ではさっそく。これ、給仕!!」

パンパン!

サガ・カノンはっ!
沙織「お客様は長旅でお疲れです。料理を運びなさい。粗相のない様にもてなすのですよ」
サガ「承知いたしました」
ソロ「おお、シードラゴンではないか。久しぶりだな。私を見捨ててアテナの元へ戻った後、元気にしていたか?」
カノン「・・・・・・・・・(滝汗)」
サガ「あ、あの、その節は不出来の弟が大変なご迷惑をおかけしまして・・・・・」
ソロ「いやいや、謝らずとも良い。壊れた海底神殿弁償しろなどとは言わんからな」
沙織「ポセイドン、あまりいじめないでやってください。この兄弟の裏切り癖は血統なのです。しかたありませんわ」
サガ「・・・・・・・・・」
カノン「・・・・・・・・・・」

 料理を運ぶため部屋を出ていく兄弟の後ろ姿が、なんとなくすすけています。
 皆さん、悪いことはしない方がいいですね。

 さて、ここで本日のフルコースを紹介いたしましょう。
 まずオードブルは青野菜のサラダと白身魚のカルパッチョ、スープはワタリガニでダシを取った海鮮風コンソメです。
 魚と蟹の提供者はそれぞれ言わずもがなですが、サラダの野菜は意外にも処女宮からの納品です。
 シャカが最近精進料理にこり始めて、自慢の庭園の片隅に菜園を作ったせいだと思われます。
 続いてのメインディッシュには極上サーロインをミディアム・レアに焼き上げたミラノ風ステーキを。もちろん金牛宮の提供で。
 締めくくりのデザートはシベリアじこみのアイスクリーム。その冷たさたるや限りなく絶対零度に近く、真夏の炎天下に放置しておいても決して溶けないという優れもの。もちろん普通のスプーンなど、すくう前に折れてしまいますので、特別にライブラ印の金食器をご用意いたしました。
 一度食べると舌から胃まで完全に凍り付く至極の甘味。出来れば避けて通ることをお勧めします。

 なお、本日のチーフコックはアイドル好きの小悪党、蟹座のデスマスク。・・・・・

 ・・・・・・おやおや?これを聞いて、ハーデスのイタコのアンドロメダが、絶対に食べるもんかと必死の抵抗をしている様子です。
 けれどご安心ください。確かにちょっとアレですが、デスマスクは料理の国イタリアに生まれ育っただけあって、他の者より腕は確かです。

 材料の切り分けはシュラが文字どおり自らの手をよごしてやってくれましたので、その切り口たるや鋭利そのもの。何十枚かのまな板が犠牲になっていますが、キッチンを切り裂かなかっただけマシでしょう。
 盛り付けは見た目にうるさいアフロディーテの監督です。
 サガとカノンが給仕役に下ったのは、提供できるものが何も無かったからで・・・・まあ容姿はまったく問題ありませんし、目上のものに対する躾も行き届いていますので、きちんと正装させればヘタに魔鈴やシャイナを使うより華があります。
 以上、「本日のフルコース」でした。

瞬「うむ。結構な腕前だったな。エリシオンでもこれだけの味のものは中々食えん」
沙織「褒めて頂いて光栄ですわ。デスマスクは巨蟹宮が紫龍によって大掃除されて、趣味の死に顔集めが出来なくなっていらい元気がなかったのですけれど、最近は新しく料理に熱中し始めたようです。あなたの言葉を聞いたら喜びますわ」
ソロ「それにこの食後のお茶も実にいい香りだ」
沙織「シャカの栽培していたインド産の紅茶を宝瓶宮の水で煎れました。私も気に入っています」
瞬「まあ、それはそうと、食事も済んだことだしそろそろ本題に移らぬか」
ソロ「そうだな。アテナよ。今日私たちをここへ招いたのは、一体何の目的で?」
沙織「あなたたちの人間に対する不満をお聞きして対策を立て、二度と『人間どもは皆殺し』作戦を立てられない様にしようと思ったのです」
ソロ「良い心構えだ。人間を守るだけ守って後は好き放題のさばらされても困るからな。では、私から愚痴らせてもらうぞ」
沙織「どうぞ」
ソロ「まず、最近の地球温暖化現象についてだが・・・」

 ・・・・意外にもこれ以上無いほどまともな局面から入っていきました。
 しかし、この問題をこの面子で話し合うこと自体に問題があるような気もするのですが・・・・
 どんな解決策が出るのか非常に興味深いですね。

ソロ「このまま温暖化が続けば両極の氷が溶けて海面が上昇すると聞く。こちらの支配域が広がるという点では嬉しい限りだが、それをまた私のせいにされて攻め込まれても困るし」
沙織「そうですか。ならば早急に対策を立てましょう。来週にでも北極へ、カミュと氷河を送ります
ソロ「・・・・・・・・・・・根本的な解決にはなっていないような・・・・」
沙織「大丈夫です。彼らによって強化された氷は、黄金聖闘士数人の威力を持ってしても溶けませんから」
ソロ「そ、そうか・・・・・・あと、産業廃棄物が海に垂れ流しで汚染が広まっている。タンカーの事故も増えたし何とかしてもらえないか」
沙織「難しい問題ですね。産業廃棄物の不法投棄業者は、廬山昇竜覇で排水溝を逆流させて痛い目を見せるとして・・・・・タンカー事故は、事故った船と原油ごと、アナザーディメンションで異次元へ葬ることにしましょう。どうです?」
ソロ「よろしい。頼んだぞ。私からは以上だ」
沙織「待ってください。ポセイドンには私からも解決して頂きたい問題があります。最近、沿岸諸国でサメの被害が続出している様子。アメリカではついに幼い少年がなくなりました。海水浴場近辺に、サメをよこさないでください」
ソロ「しかし、あれは人間どもがサメの餌付けツアーなどを企画実行したから・・・・!」
沙織「餌につられるような部下を育成しているあなたが悪いのです。末端とは言え、きちんと組織管理を出来ないようでは、海神の名が泣くでしょう」
ソロ「くっ、わかった。ソレントに何とかさせよう」
沙織「お願いしますよ」

  さすがアテナ。生来の押しの強さは未だ健在です。
 さて、ここで本日の会場のインテリアについて少しだけ御紹介いたしましょう。
 まずテーブル中央に飾られている豪奢なバラの花束ですが、こちらは言わずと知れたアフロディーテの提供です。赤・黒・白と三色そろい、絶妙なコーディネイト。えもいわれぬ香りを室内中に撒き散らしていますが、大丈夫でしょうか。私はまだ死にたくないので、先ほどからクリスタル・ウォールを張っています。
 続いて部屋の隅に飾られている氷像は、カミュとシュラの共同制作。氷の質は絶品ですが、彫った・・・というか斬った人間が生っ粋の武骨者なため、優美というよりはかなり前衛的な作品です。
 室内に流れているBGMは名奏者ソレントとオルフェによるフルート&ハープの二重奏。たとえ耳を塞いでも、あなたの心に響きます。
 それと同じように、壁に飾られているアルゴル作の絵画も瞼を通して脳裏に焼き付く傑作です。直視すると石になりますので気を付けましょう。
 以上、「本日のルームコーディネイト」でした。

瞬「では次に余の愚痴を聞いてもらおう。ここ数年で、人間どもの医学が発達してきたせいか、冥界に来る死者の数が激減している。今のところ、ポセイドンの起こした大津波で死んだ奴等のストックがあるからまだ何とかなっているが、近い内に冥界は鍋底景気に見舞われるだろう。ラダマンティスが首をつることにもなりかねん。何とかならぬか、アテナよ」
沙織「何とかといわれても・・・意図的に死者を増やすわけには行きませんし。冥界側が新しい政策を打ち出した方がいいでしょう。『暗黒の冥界へ、臨死三日間の旅』などというツアーを企画していただけたら、こちらもコンダクターとしてデスマスクに協力させますが」
瞬「なるほど。ならば通り道となる黄泉比良坂の道路整備も踏まえて本格的に検討してみるか・・・・。
 それともう一つ。今度は私事になってしまうのだが・・・実はちょっとこの場に呼んで欲しい人間がいるのだ」
沙織「まあ。誰です?」
瞬「いや実はな。この間の聖戦ではパンドラに大層苦労をかけた。幼い頃より余のために奔走してくれていたせいで、あの女は人並みの幸せをしらん。ここらで一つ、年頃の女性としての幸福をつかんでもらいたいと切に思うのだ。というわけでフェニックスと見合いを・・・・
 待ってください!!今まで黙って聞いてたけど、こればっかりは見過ごせませんよ!!大体、この三人に勧められた見合いなんて断れるわけが無いじゃないですか!!あんな辛気臭い女が姉になるなんて、僕は絶対嫌ですからね!!」
沙織「瞬、しかしこういうことは本人の意志によるもの。一輝に話を通さず蹴るわけにも行きません。さあ彼を召喚するのです。私が呼ぶより、あなたが呼んだ方が早いでしょう」
瞬「いくら沙織お嬢さんの命令でも、絶対に・・・・・!くっ!ハーデス!止めろ!卑怯な・・・・に、兄さーん!!・・・・はっ、しまった!ついクセで!!」

 ガタバタンっ!!

一輝「呼んだか!?瞬!!」
ソロ「ほんとに早い・・・・・;」
瞬「う・・・兄さん、逃げてっ・・・!!・・・おお、フェニックスよ。久しぶりだな」
一輝「な!?き、貴様ハーデス!!また瞬の体に・・・・!!」
瞬「おちつけ。一時的に借りているだけだ。話が終われば元どおりにして返す」
一輝「当たり前だ馬鹿者!!さっさと話してあの世に帰れ!!」
瞬「なら単刀直入に言うが、お前、パンドラを嫁にする気はないか?
一輝「ぶっ・・・・!!な、なんだそれはーーーーっっ!!?」
瞬「言葉通りだが」
一輝「タチの悪い冗談はよせ!!」
瞬「冗談などではない。私は本気だ」
一輝「なお悪いわ!!一体どこからそういう話が・・・」
瞬「冥界での一件いらい、あやつがお前のことを可哀相なぐらい思いつめていてな。いや、いくらなんでも今日明日に挙式というつもりではないから、とりあえず結婚前提で交際を考えてみてはと・・・」
沙織「ふふ、一輝も隅に置けませんね」
一輝「ちょ・・・!!冷静に考えろ!俺はまだ15だぞ!?
瞬「兄さん・・・ハーデスに味方するわけじゃないけど、いまさら年の話はいくらなんでも説得力が・・・
一輝「説得力もくそもあるか!!断る!!」
瞬「一度ぐらい会ってからでもかまわんだろう!?」
一輝「冥界で嫌というほど会ったわああああっ!!瞬、お前ならわかるだろう!?パンドラは俺の女の好みとは正反対だ!!」
瞬「まあ、エスメラルダ基準だったらそうかもしれないけど・・・・一輝、お前はそういうが、パンドラはあれで中々一途な良い娘なのだぞ?多少うっかりしたところはあるが・・・」
一輝「『うっかり』冥王復活させる女など、妻に出来るか!!話というのはこれだけか!?帰るぞ!!」

 フェニックス、照れてしまったようですね。初々しいものです。
 ・・・おや?部屋の窓から、風に乗って花びらが入ってきました

沙織「これは・・・・!一輝、待ちなさい。シャカから速達です

 どうやら、沙羅双樹の花だったようです。
 アテナが血文字を並べていますね。ちょっと横から見てみましょう。ふむふむ・・・
 「巫山戯るな」ですか。

沙織「FUZAKERUNA・・・・!!シャカ・・・わかりました。あなたの速達の意味が・・・!!
ソロ「そんな床に両手ついてうなだれなくても、非常にわかりやすい言葉ではあるような気がするが・・・」
沙織「いいえ、シャカはこの一言に全ての意味を込めています。
   『一輝にパンドラを嫁がせるだと?冗談ではない。フェニックスはこの私が乙女座の後継者に選んだ男。どこの馬の骨ともわからん根暗なコブをつけるわけには行かぬ。断じて!』・・・これがシャカの真意です」
瞬「むう・・・たった5文字からそこまで読み取るとは・・・さすが知恵の女神よ」
一輝「待て。誰が乙女座の後継者だと!?肩書きといい聖衣のデザインといい、これほど俺に似合わんものはないだろうが!!
沙織「一輝。聖闘士は聖衣が主ではありません。全ては小宇宙で決まるのですよ」
一輝「だったらなおさら意味も無くバルゴ・クロスなど着たくないわ!!どうしてもというならシャカにフェニックスを着せるぞ!!」

  なるほど、それは確かに嫌ですね・・・・見てみたい気もしますが・・・・
  
沙織「まあ、後継者問題は後々皆で話し合うことにしましょう。黄金聖闘士達人材不足で殺気立っていますからね。あなたがたを取れなかった場合、白銀聖闘士か邪武達になってしまうのですから無理もありませんが・・・・ハーデス、いっそ鍋底景気になって冥界の人手が余ったらこちらにまわしてくれませんか?ラダマンティス辺りなら破格の待遇山羊座を空けておきましょう」
瞬「考えておこう。・・・・フェニックスよ。冥界に戻ったら、パンドラに手紙を書かせる」
一輝「いらん!!そんな不幸の手紙は絶対いらんぞ!!」
ソロ「ではそろそろお開きにするか。アテナよ、達者でな。・・・・・・・・はっ!わ、私は一体何を・・・・
瞬「元気でな、婿殿。・・・・ああ、ようやく出ていってくれた・・・・
一輝「待てこの・・・!瞬!もう一回ハーデスを出せ!!あいつ去り際に勝手なことを・・・・!!」
「勘弁してください兄さん・・・なんかもう身も心もボロボロです・・・・」
沙織「それは行けませんね。サガ、隣室に待機させているミロとアイオリアを・・・」
「いいです!!大丈夫です!!問題ないですからっ!!」
ソロ「あの・・・・・なんだか良く分からないのですけど、そろそろ帰っていいですか・・・?世界の子供たちが待ってるので・・・・」

  というわけで、すったもんだの末第一回ゴッド・サミットは閉幕となりました。
 まだ解決していない議題が残っていますが、それはおおよそ人類の未来と何の関係も無いことですので、その後の自然な展開を見守りたいと思います。
 本日強制的に召喚されたアンドロメダ、フェニックス、ジュリアン・ソロの三人は、私が責任もって送り帰して差し上げましょう。
 スターライト・エクスティンクション!!
 ・・・はい、済みました。

 次回の首脳会議も平穏の内に行われることを祈りつつ、ここで中継を終わります。
 これから白羊宮へ下っていきますので、この仕事を押し付けた通り道の同僚の方々覚悟しておいてくださいね。(にっこり)
 それでは皆様、ごきげんよう。牡羊座のムウでした。


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