死んだ後の世界とは、なんとも味気ないものである。酒も刺激も女もない。こんな事なら死ぬんじゃなかったとも思うが、私の場合、死んだのはかなり不可抗力(誰だってそうだろうよ)だったのでいかんともしがたかった。
 私はシオン。童虎の親友、前聖戦の生き残りにして聖域の教皇をつとめながら、13年前に不甲斐なく暗殺された牡羊座の聖闘士である。
 ・・・・・・我ながらディープな生前を送ってきたものだ。
 私が死んだ当時、ほとんど同じくらいの時期にアイオロスもこっちへ来た。おかげでひとりぼっちにならずには済んだが、さすがに13年も同じ顔つきあわせているといささか飽きが来る。アイオロスももともと口達者な男ではないし。
 サガの悪口も出尽くした。
「退屈だな、アイオロスよ」
「そうですね・・・・」
 そんな無為の日々を送っていた私たちだが、最近ちょっと変化が起こった。
 星矢とかいう小僧どもが大奮闘してくれたおかげで、こちら側の新顔が増えたのだ。
 最初にデスマスクが送られてきた時には「着払い不可」を理由に返品してやろうかと思ったが、その後数時間の内にカミュ、シュラ、アフロディーテ、サガまでもが到着したので、それなら別にいいかと置いとくことにした。
 喜んでいいのかどうかは微妙だが、13年ぶりの賑わいで、とりあえず私は歓迎している。
おりしも、地上ではまた新たな戦いが始まろうとしているようだし・・・・・・


「今度はなんだ?」
「どうやら、ポセイドンがよみがえるらしい」
シュラの問いに、地上の光景に釘付けなカミュが応えた。
 死後の国のメインフロントには、さすがに死者を哀れんでか、ささやかな娯楽として地上と直通のブラウン管だけは備え付けられている。
チャンネル数が少ないのが残念だが。
「で、星矢達はどうしてる?」
「集中治療室で意識不明の重体だ」
 カミュ、気が気でないらしい。
「ああ・・・っ!こんなことならもう少々パワーダウンしてオーロラ・エクスキューションを撃ってやるべきだったか・・!起きろ氷河!目を覚ませ!・・・・あ、しかし目を覚ましたら問答無用で対ポセイドン大戦争に駆り出されるのか?う・・・しかしアテナが・・・・!寝てろ氷河!目を覚ませ!
 お前一体何させたいんだ。
「むう・・・・紫龍も満身創痍だし・・・・いや、俺のせいなんだが、しかしあいつが後先考えず自爆技使うから・・・・」
 カミュに並んで、シュラもブラウン管の前にどっかりあぐらをかく。
「大体瞬なんかバラに血ぃ吸われただけなんだから輸血次第で何とかなるんじゃ・・・・
「フ・・・・このアフロディーテのブラッディ・ローズをなめてもらってはこまクハっ・・・・!!」
 バラ咥えてかっこつけながら言いかけたアフロが、刺で唇を切ったらしく口から血をだくだく流しながら会話不能に陥った。
バカかおまえ
「・・・・・・・っ!」
デスマスクだけにはいわれたくなかろう。
「星矢は・・・・・まあ仕方ないな。あいつが一番過酷にボコられていたからな」
「しかし、そういえば、この集中治療室にいない一輝は・・・・?」
 カミュの言葉に、全員の視線が場の片隅の男に集中した。
「う・・・・・・・」
見られた方はただただ小さくうなだれているが・・・・
「まあ・・・・どこの誰とは言わないがな」
「ああ、そいつさえあんな馬鹿なことしなければ星矢達も傷つかずに済んだなんてことはいまさら言っても始まらないからな」
「しかし、青銅相手にあんなに本気でギャラクシアンエクスプロー・・・・・・皆までは言わないけどな」
「何も止めに入った一輝を塵になるまで消し飛ばすこと無かったのではないか?いや、本当に誰とは言わないが」
言え!!そこまで言ったのなら言うがいいだろう!?なんだそれは!?優しさか!?それとも単なるイビリか!?そうよ!このサガが奴等を半殺しにしたのよ!!イビリたければイビるがいいわちくしょうーーっ!!」
 イヤミの嵐に耐え兼ねたか、逆切れして怒鳴り返すサガ。涙目になってる辺りが痛々しい。
「ふ、まあ、皆のもの。サガも本心はともかく今のところは反省しているようにみえることだし、これ以上いじめるのはよそうではないか。私もこいつに殺されたが、それほどは怨んでもいないつもりだしな」
「・・・・・・・教皇・・・・・・・・・・・・実はきっちりうらんでるでしょうあなた・・・・・・」
あン?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すみませんでした・・・・・・ほんとに・・・」
 サガの泣き顔もそろそろ見慣れた風物詩になってきた。
「お」
「どうした?シュラ」
「新キャラだ」
 言われてブラウン管をみれば、なるほど、綺麗な顔をした男が映っている。
「七将軍の一人・・・・セイレーンのソレント?」
「美人だな」
「ということは、アンドロメダの相手に違いあるまい
「だな」
「うむ」
 が、しかし。数分の後、そのソレントと戦い始めたのは・・・・・・・・・・・
アルデバラン!?
「おいおいおいおい違うだろそれは!!
「12聖宮一のごっつい老け顔キャラがでてくるとは・・・・・美しくない!!」
「やめろ!アルデバラン!お前は既に顔で負けている!この勝負、決着はついた!」
 言いたい方題だなお前達・・・・・
「では、誰が相手をすればいいと?」
「そうだな・・・・・妥当な線ではシャカかムウだろう」
「ミロは?」
駄目だ。素で負ける
「本人聞いたら怒るぞオイ・・・・どこまでも地雷型なんだから蠍は・・・・」


そんなこんなのうちにアルデバランが敗北し、アテナが出てきて捕まって、本格的に対ポセイドン戦に突入した。
ちなみに、彼女が一人でポセイドン神殿に乗り込んだ時、ここにいる全員の総ツッコミ「何考えてんだあんた!!」が入った事を記しておく。・・・・


「結局また星矢達だよりか・・・・」
シュラがにがにがしげに呟いた。
「仕方ないだろう。ハーデスのアホさえいなければ黄金が動けたんだろうが・・・」
「けどよ、ムウなんかテレポーテーョン使えるんだから、瞬時に海底神殿行って七将軍を各個撃破反撃食らう前に帰ってくるって手もありなんじゃあ・・・・」
「・・・・・デスマスク・・・・ムウを自分と同レベルの卑怯度で考えるなよ・・・・」
「ちょっと待てシュラ。俺は確かに子供から大人まで幅広い年齢層をまんべんなくあの世・・・・いや、俺達にとってはこの世か?に送ってきたが、別に卑怯なことはしておらん!紫龍とも堂々戦ったしな!!大体それで言うなら、磨羯宮素通りさせた直後に石段ごとぶった切ったお前の方がよっぽど卑怯・・・・・」
「黙れ。それ以上言うと殻を割って鍋に入れるぞ、蟹!!」
「やってみろ!腹壊すぞ!」
「誰も食うとはいっとらんわ!!」
「あああうるさいっ!!テレビの音が聞こえんではないか!!二人とも、黙らんなら氷付けにして陳列するぞ!!その上アフロがバラでオシャレに飾る!!そうなりたいか貴様達!」
「・・・・・・・・・聞かれなくてもなりたくねーよ・・・・・そんなもん」
「だったら黙れ!!」
カミュの一喝に、何やら釈然としない顔をしながらも黙って座り直す蟹と山羊。
 とりあえず、バラで飾られたこいつら二人の氷像なんぞ、私も普通に見たくない。
 画面では、青銅の小僧どもが新生聖衣を装着していた。
「ニュークロス?どうしたのだ、あれは?」
「貴鬼が持って来たのだ。見ろ。口喧嘩などしているから見逃す」
「しかし、クロスはかなり損傷が激しかったのでは?少なくとも俺はエクスカリバーで短冊切りにしたんだが」
「ミロ達が自分の血を提供してくれたらしい。後はまたムウがカンカンやったんだろう」
 全員一様にブラウン管に目を注ぐ。
「で、誰が誰のに血を分けたのだ?」
「内訳は老師が紫龍、シャカがアンドロメダ、ミロが氷河でアイオリアが星矢・・・・なんだがしかし・・・」
 説明しながら、とうとつに涙を流し始めるカミュ。
 おい・・・・
「氷河・・・・物心ついてからずっと『クールになれ』と教えてきたのに・・・・・あんな逆噴射的直情男の血をもらって大丈夫だろうか」
後を引きうけて献血してもらっただけありがたいと思え!!お前そんなことばっかり言ってるとトモダチ無くすぞ!」
「というかなんというか、こういう奴と親友でいてやるあたり素朴にいい奴なんだな、ミロ・・・・」
「たぶん、最期まで定期的に墓参りに来てくれるのも奴だろうな・・・・」
「ありがたいがどこか不憫だなミロ・・・・・・」
 私の目から見ればカミュに劣らず、こいつらも結構失礼なこと言ってるような気がするが。
 と、その時、今まで皆にハブられて部屋の片隅にしょんぼり「の」の字を書いていたサガがブラウン管の前までやってきた。一同思わず、
なんだお前
「・・・・たのむらからそういう言い方しないでくれ・・・・俺はこれでもう十分反省しているんだ・・・・・本気で」
 泣くな。
「その・・・アイオリアが星矢のクロスに血をやったと聞いてな。あいつには、どうせならこのサガの血をやりたかった・・・・罪滅ぼしも含めてどうせ死んだ身体だ。血の半分や四分の三、とったところで痛くも痒くも無い」
誰も要らんわ、そんな不吉な血。黒サガが感染ったらどうしてくれる」
「感染るって・・・・・・俺は梅毒扱いか・・・・・?」
「誰がそんなことを言った。梅毒にあやまれ。エセ教皇」
「・・・・・・・・いやもう本当にやめてくれ頼むから・・・・・・すでに冥界にいながら、俺はもう一回死にたい気分だ・・・」
 落ち込むところまで落ち込んで闇に消えそうになってきたサガを見るにみかねて、アイオロスがそっと言葉を添える。
「すまん、端から見てもなんだかかわいそうになってきた。いい加減やめてやれ、おまえら・・・」
全員、一瞬舌打ちしたようだが、
「・・・・仕方あるまい」
と、しぶしぶサガのためにも場所をあけてやった。
「恩に着るぞアイオロス・・・!」
「まあ、一番古い友人だからな。いいからもう泣くのはよせ。そんなだからいつまでたってもいじめられるんだぞお前」
「・・・・う・・・わかった」
 テレビでは、いよいよ星矢が海底神殿に乗り込み、一匹目の海将軍と対決し始めたところだった。


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