第五戦 VSクラーケンのアイザック

リュムナデスの柱を倒した直後の一輝と貴鬼の会話。

――――――――あっ、一輝、どこへ?
――――――――もちろんポセイドン神殿だ。オレにはちまちまと柱を壊してゆくなど性に合わん
            このまま一気にポセイドンの首をあげてやる!

・・・・・台詞はかっこいいが、実際にそんなことがまかり通ったらいままでの星矢達の苦労は一体・・・・
いや、それより、死んだ海将軍の立場の方が問題か。

デス「お、おい、兄さん、星矢達を捨てていっちまうぞ!?」
サガ「まあ・・・・・そこら辺が彼なりの美学だからな・・・・・」
デス「薄情な美学だなオイ」
カミュ「はっ!氷河!氷河が立ち上がった!!」
シュラ「カミュ・・・・・その、氷河が出てくるだけで一喜一憂する癖、どうにかならんか・・・・・・?」
カミュ「うるさい。お前だって紫龍が出てくれば大喜びするだろうが」
シュラ「それはまあ・・・・しかしお前ほどでは・・・・・・」

 どうでもいいが、画面の氷河はまた泣いている。

――――――――戦場で油断をするな・・・敵を前にしたら常にクールでいろ・・・
            我が師カミュにも命を賭してまで教えられたことなのに・・・
            う・・・う・・・・この氷河、いまだに非情になりきれんとは・・・うっ・・・くっ・・・・

カミュ「思い出してくれたか氷河・・・・」
デス「クールって・・・すでにお前自身が忘れてることのような気がするんだが・・・・・」

 この上なくホット・・・つーかむしろウェットな師匠の見守るなか、氷河は一路北氷洋の柱を目指して走り出した。
 その顔には固い決意の色が見える。
 もう大丈夫だろう。たとえ「偽カミュNO2」が登場したとしても、氷河が騙されることはありえまい。これでようやく彼は一皮むけ、真の氷の聖闘士として新たな人生を踏み出したのだ。
 ・・・・・という私の予想は、次に出てきた彼の幼なじみクラーケンのアイザックによって、五分後には完全に裏切られていた。

――――――――ア・・・アイザック、い、生きて・・・生きていてくれたのか・・・・・

 片目の男の姿を確認するなり、またまた泣いて膝まずく氷河。
 カミュの時とまったく同じポーズである。

シュラ「氷河!!おまえクールになると今さっき誓ったばかりではないか!!おいカミュ、お前も何か言ってやれ・・・・」
カミュ「い、生きていたのかアイザック・・・(涙)
シュラ「貴様もか!!(怒)おまえら二人、氷の聖闘士なんてさっさと辞めてしまえ!!なんなら俺がこの場で介錯を・・・・」
ロス「いやいや待て待て待てシュラ(汗)気持ちは分かるがお前も落ち着け。というか、カミュは既に死んでいる。いまさら首を落としても気色が悪いだけだぞ。そ、それよりカミュ。あのアイザックという奴は一体何者なのだ?」
カミュ「アイザックは・・・氷河の兄弟子、つまり私の一番弟子だった男だ。他の弟子が次々と辞めていく中、一人で頑張って私を慕っていてくれた・・・氷河が来る前までは二人っきりで修行していたのだ。うう・・・それがある日、私が聖域から帰ってくると氷点下の海に溺れて行方不明になっていた・・・・サガ、貴様のせいだ!!
サガ「そ、そこでなんで私が!?」
カミュ「うるさい!貴様扮する偽教皇が『産地直送のボルシチが食べたい』などと寝言をほざいたせいで私が聖域に赴いたのだ!その間にアイザックが事故ったのだぞ!私がボルシチなどを届けにいかなければ、あいつはあんなめにあわずに済んだのだ!!」
シオン「届けにいったお前もお前だ。いいからその手を離してやれ。サガが窒息しているぞ・・・」
サガ「ぐ、ぐえ・・・・・」

 そうこうしている間にも、相手に弱みを持つ氷河はボコボコ攻撃を受けていた。
 あった瞬間過去を悔いて泣き出され、むしろ最初はアイザックの方が戸惑っていた気がしないでもないが、しかしさすがは一番弟子。・・・・というか、途中でカミュからはなれた男。氷河よりはよっぽどクールに敵に臨んでいる。
 
――――――き、きいてくれ。お前には俺が死を持って償いをしよう。だ、だからアイザック。目覚めてくれ、どうか・・・
――――――だまれ!死んだ母親にいつまでも想いを寄せているような軟弱もののお前に説かれる覚えはない!

 言ってることも正論だ。

カミュ「氷河!アイザック・・・・!ああ、私は一体どっちを応援すれば!!
アフロ「弟子云々よりお前が最優先すべきは『アテナの聖闘士』だろう!?目的を見失うな!」
カミュ「貴様と蟹にだけはいわれたくないわ!」
アフロ「死んでからは私の方がよっぽどまともだ!!」
シオン「いや、お前ら全員おかしいから」

 カミュが応援する暇も無く、中盤の軍配はアイザックに上がったようだった。
 氷河の倒れた後、天秤座のクロスを運んでちょろちょろしていた貴鬼が絶体絶命の危機に陥っている。
 ふむ・・・・殺されかけてもパンドラボックスを離さないあたり、なかなか根性のある小僧だ。
 ムウの弟子と聞いたから気になっていたが・・・・・私の孫弟子になるわけだし・・・・・
 しかし弱いといえばあまりに弱い。まだ幼いせいか。それともムウがまともに修行の相手をせず、単にパシリとして使ってるだけだからか。
 ・・・・・・・ムウならやりかねん、という気もするが・・・・・・・・

シュラ「カミュ。アフロディーテ。喧嘩はそこまでにしておけ。ほら、氷河が立ち上がったぞカミュ」
カミュ「!」
アフロ「・・・・・・テレビ画面に貼りついている・・・・・いいのだろうか、あんなのを野放しにしておいて・・・」
シュラ「言うな」

――――――――アイザック。お前は死んだ母親に会いに行くのは私的なことだといったな。ならばお前に命を助けられたこともこの氷河の私的なことだ。

カミュ「氷河!おまえ、命の恩人に対して何と言う言い草・・・私はお前をそんな風に育てた覚えはない!!
アフロ「そんな風に育てなかったのが君の大間違いだ!いいからもう黙っていてくれ!」

 そして今、その氷河がアイザックを討つため、白鳥ダンスを踊り出す!
 ・・・・・・・何度見ても恥ずかしい前振りだ・・・・・・
 ・・・・・・と・・・・・

シオン「?そういえばミロはどうした?すぐに駆けつけるとか言っていたが、いまだに現れんな」
シュラ「まあ今現れてもカーサはとっくに片付いた後ですが・・・・」
カミュ「ミロ?・・・・は。そういえば」
シオン「忘れていたのかお前・・・・・あいつが誰のために飛んでくると思っているんだ・・・」
デス「おい、チャンネルかえろ。聖域を見てみようぜ」
カミュ「し、しかし・・・・」

 弟子見たさに愚図愚図言っているカミュを無理矢理テレビの前から引っぺがし、画面を変える。
 するといきなり、スピーカーから逆上しているミロの声が聞こえてきた。

――――――――だから、「動いてはいけない」などと言う話、俺は一切聞いていないと言っている!!
――――――――だから私も言っている。報せていないだけで、そういう事になっているのだと。

 目を吊り上げたミロと言い合っているのは、神に最も近い男、慇懃無礼なバルゴの聖闘士シャカである。

――――――大体なぜ俺のところに連絡が回ってこんのだいつもいつも!前はこうではなかっただろう!?
――――――あいすまん。どうせ上にはお前一人しかいないのだと思うと、わざわざ天秤宮を抜けていくのが面倒でな。
――――――シャカ貴様・・・いくら天蠍宮が孤立しているからと言って・・・!それで言ったら双児宮と巨蟹宮を抜けてアイオリアに連絡まわしているアルデバランは何なのだ!!
――――――あれは体力が有り余っているからそれくらいでちょうどいいのだ。
――――――くっ!もういい!お前と言い争っている場合ではないのだ。俺にはカミュとの約束がある。たとえ老師の命令だろうが、海底神殿まで行かせてもらうぞ!
――――――ミロ、下まで下りるのか?
――――――ああ!
――――――それならついでに、雨漏りを直して欲しいと私が言っていたとムウに伝えておいてくれ。そして帰りがけにでもいいから何か冷たい飲み物を一つ・・・・
――――――刺されたいか!!連絡網すらまわさぬ奴にそこまでしてやる義理はない!!喉が渇いたのならとっとと自分で買いにいけ!!
――――――・・・・・・フッ、つれないな。
――――――やかましいわ!!

 とことん不毛な言い争いの結果、ミロに続いてシャカもしぶしぶ重い腰を上げ、処女宮から下りていく。
 
アフロ「・・・・・・なんだか左遷された役員の様だなミロ・・・・・」
シュラ「シャカも悪びれもせずにひどいことを言っている・・・・ミロよ、もう少し怒ってもいいのでは・・・・・」

 そこで画面が変わり、今度は白羊宮が映し出された。
 ここでも、ムウとアイオリアが何やら言いあっている。

――――――――このままではアテナも星矢達も全員死ぬ。それでもこの聖域を動くなと老子は言うのか。
――――――――教皇なき今老師は聖闘士の最高指導者・・・その指示に背くわけにはいかないでしょう。
――――――――バカな・・・!

デス「ううむ・・・こっちはこっちで下手に気温上昇しているな・・・しかもかなりまずい面子で」
アフロ「アイオリアは魔鈴への想いをバラされた恨みがあるからな。まさに一触即発といったところか」
シオン「そんな私用で一触即発になる黄金聖闘士はいらん」

 冥界からはらはら見物している人間がいることなど露とも知らず、アイオリアはなおも熱くなって怒鳴る。

――――――――老師はアテナと星矢達を見殺しにするつもりなのか!?

 そしてそれに応えたムウの言葉に、私たちは一同、絶句した。

――――――――おそらくそうかもしれません・・・
            この闘いが始まった時から星矢達には死んでもらうつもりだったのかもしれません・・・・

 な・・・・・・・!!!

カミュ「もういいだろう!?氷河が気になる!!チャンネルを戻すぞ!!」
シュラ「おい!!いま大事なところだろうが!!まて!ちょっ・・・・!!」

 画面は海底神殿に早変わり。

デス「ふざけるなよカミュ!もどせ!今すぐ聖域にもどせ!!」
カミュ「うるさい!氷河とアイザックが気になるのだ。おとなしくしていろ!」

 そう言ってカミュの掲げた右手から絶対零度の凍気がほとばしり、こちらと彼&テレビとの間に氷の壁が出来上がる。

カミュ「その壁はフリージング・コフィンの変形。黄金聖闘士が数人がかりでも打ち壊せるものではない。北氷洋の柱が崩れるまでそこで見ていろ」
デス「あいつなんつー勝手なことを・・・!シュラ!お前のエクスカリバーで何とかならんのか!?」
シュラ「や、やってみる。エクスカリバー!

キキキィィィィィーーーーーーーーッッ (←黒板を思い切り引っかいたあの感じ)

サガ「!!ギャ、ギャラクシアンエクスプロー・・・・・・!!」
ロス「待てえええっっ!!何する気だお前っ!?」
サガ「駄目なのだ・・・!あの音は絶対嫌なのだっ(涙目)!!やめてくれ!でないと全てふっとばす!!」
シュラ「わ、わかった。わかったからその、前でクロスさせた両手を下ろせ」
サガ「ううっ・・・・」

 こうして、若干一名を除く全員は皆テレビから隔離され、氷の壁のこちら側からひたすら氷河の闘いが終わるのを待つことになった。
 再びこの壁が取り払われた時、カミュがどうなるのか私は知らない・・・・


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