第7戦・・・・VS海魔女のソレント


 アテナが鉛と化している一方、ただ一人行動を起こしている聖闘士がいた。

----つ・・・着いた。これが南大西洋の柱か。

アフロ「・・・フン。南大西洋に向かった小宇宙とはアンドロメダのことか。ソレントとかいう小僧も気の毒にな。絶対避けられないレーダー付き核弾頭ミサイルで狙われたようなものだ」
シオン「・・・・・なんだか、さっきからお前の話を聞く限り、アンドロメダはかなりの危険人物のような印象を受けるが・・・」
アフロ「危険も危険、超一級連続謀殺魔ですよ。なあ、皆」
サガ「・・・・・そんなに悔しかったか、負けたのが・・・・」

 アフロディーテの個人的意見は置いておくとして、画面ではソレントが笛を吹きながら登場したところだった。
 彼がアルデバランを倒した海闘士であることを悟り、戸惑う瞬。
 
----どちらにしろもはや戦いは終わったのだ。これ以上死人に等しいきみを相手に闘うつもりは私には無い。さあ引きたまえ。
----じ・・・冗談じゃない。闘いはまだ終わってはいない。ぼ・・・ぼくたちの誰かが一人でも生きている限り・・・・女神と地上を救うために、闘いをやめるわけにはいかないんだ。

アフロ「見ろ。機会あるごとに『闘いをやめよう』宣言をしていたくせに、自分が言われるとあくまで粘る。そういう奴だ、アンドロメダは」
シュラ「いや、そこは普通に粘ってもらわんと困るだろう」
ロス「むっ、吹っ飛ばされた・・・!」

ドシャアッ!!

----君にはもう闘う力などない。死にたくなければここから去れ。
----いったはずだ・・・生きてる限り引くことはできない・・・・
----・・・それほど死を望むのならよかろう・・・

 つぶやいたソレントは、唇に笛をあてた。

----聞きたまえ!死のメロディーを!!

デス「・・・・自分で『死の』って言ったら聞いちゃいけないことまるわかりだと思うんだが・・・こいつきっと、『毒キノコだから食べてみなよ』とか平気で言う人間なんだろうな」
アフロ「つまらんツッコミをいれるな。美しい旋律ではないか。ここまで来てようやく優雅な気分になれた」
ロス「なるなよ。人の闘いの最中に」

----うっ、だめだ。この曲を聞いては・・・
----無駄だ。耳をふさいでもこの笛の音は君の頭脳に直接響くのだ。そして君を殺す!!

サガ「・・・というのは、あれか。頭にこびりついて離れないと言う意味か。ゴダイゴみたいな」
シオン「ゴダイゴは殺るまでしない。お前も意外に趣味が古いな;」
サガ「クラシック鑑賞は武人のたしなみです」
シュラ「いや、クラシックというか・・・」
アフロ「静かにしてくれたまえ!せっかくの演奏を聞き逃す!」

 アフロディーテが怒ったので、私達は沈黙し、画面の音に耳を傾けた。
 が。
  ・・・・ガンダ〜ラ、ガンダ〜ラ・・・・・・・・ガンダ〜ラガンダ〜ラ♪・・・ガン

全員『頭にこびりついて離れねえ!!』
アフロ「サガ!!貴様がいらんことを言うからだぞ!!この脳裏で延々とリフレインしまくるガンダーラをなんとかしろ!!」
サガ「な、なんとかしろと言われても・・・;」
シオン「おのれ、ソレントよりもむしろこっちがデッドエンドシンフォニーだ!止まりそうに無い!」

 何が鬱陶しいって、歌詞の全体像はわからんくせにガンダーラだけまわり続けるのが鬱陶しい。
 
デス「いっそ最後まで歌ったら止まるんじゃねえか?ガンダ〜ラ、ガンダ〜ラ、ゼイセ〜イ・・・・♪
アフロ「やめろ!ますます回る!っていうか、何で歌えるのだ君!」
ロス「・・・・仕方ない。今日は一日ガンダーラで行くしかないようだな。さすがに一晩寝れば治るとおもうが・・・」
シオン「・・・・・すさまじく欝な一日だな、おい・・・・・」

 と、その時。現世のソレントがふいに演奏をやめた。

----な、なんだ・・・この歌声は・・・!?アテナ・・・アテナの歌声が聞こえる・・・!!

なに!?

シオン「おい、アテナが歌を歌われているらしい!聞こえるか!?」
デス「いや、全然・・・・」
ロス「音量を上げろ!」

 だが、音量を上げても一向に歌声は聞こえない。
 なぜ。

----ア、アテナの歌声・・・い・・・いや、歌声と言うよりも祈りのような・・・アテナの小宇宙が旋律となってこのセイレーンに感じているのか・・・

アフロ「・・・ということは、テレパシーみたいなものか?だとしたらこの頭で回り続けているガンダーラがそれか!?」
シオン「女神を愚弄するな愚か者!!ガンダーラごとき、アテナの足元にも及ばぬわ!!」
シュラ「比較するようなものでも無いと思うのですが・・・」
デス「おい、ソレントが何か言ってるぞ。アテナから恐怖を感じると。・・・やっぱりな。俺もあの女は恐いと思ったんだ。水にうかねえし」
ロス「恐怖を感じるのはお前の身にやましいところがあるからだ!」
デス「そんなこと言ったらサガなんか恐怖のあまり心臓発作だぞ。やましさのあるなしにかかわらず、あの女は恐い!」
シュラアテナと呼ぼうな、デスマスク」

 倒れた瞬に息の根を感じ、回想にふけっていたソレントは我に返る。
 
----結局は死ぬ運命だったようだな。ゆるせ、アンドロメダよ。

止めを刺すべく笛をかざし・・・

カッ!!ぽち。

----またポセイドン神殿に誰か乗り込んだな。・・・(カノン)

アフロ「!!なんだ!?なんでいいところで画面が変わるのだ!?」
デス「さあな。CMだろ」
サガ「いや、カノンは一応ボスなんだからCM扱いはするな。何かの演出だろう」
ロス「・・・・すまん、俺がチャンネルを踏んだせいらしい」
アフロ「戻してくれ!すぐ!アンドロメダが死んでしまう!」
シュラ「心配していたのか。だが、別に戻したからといって何が変わるわけでもないような・・・」
アフロ「いいから早く!」

 アイオロスが急いでチャンネルを変える。
 ちなみに、画面のカノンはこのとき、「恐るべき強大な小宇宙を感じて北大西洋の柱まで来たのに誰もいない」というまるでデートの待ち合わせにすっぽかされたような状態だったのだが、誰に顧みられることもないまま画面は切り替えられた。
 ポセイドン神殿へ。

アフロ「?神殿を映せとは言ってないぞ。ちゃんと元に戻してくれ」
ロス「ええと・・・・・どこのチャンネルだったか・・・・;」
サガ「待て。星矢がいる」

 画面に向けてボタンを押そうとしたアイオロスの手を、サガがつかんで止めた。
 神殿の扉を開け放ち、ボロボロの星矢が今ようやくポセイドンの前に現れたところだったのだ。


第8戦 VSポセイドン


 一瞬敵とにらみ合った少年は、直後、床に倒れているシャイナを見つけた。

----シャイナさん!オレを呼ぶようなシャイナさんの小宇宙を感じたので来て見たらやっぱり!

シオン「・・・・ということは、アテナの歌よりシャイナの小宇宙が印象強いということだろうか」
ロス「シャイナ、ワンポイント先取ですね」
サガ「何のポイントだそれは」

 ポセイドンの玉座の後ろにある壁が重い音を立てて開く。その向こうにそびえたつ巨大なメインブレドウィナ。
 星矢はアテナをたすけるべく、力ずくでポセイドンをどかしにかかるが、攻撃のことごとくをはじき返されて地に倒れる。

----お前たちにとってすべては終わったのだ。

 重たい言葉と共に、壁が再び閉じた。

----う・・・くっ・・・う・・・

 星矢は、それでもまだ立ち上がろうとする。

----あきらめの悪い。まだ向かってくるか。
----あ・・・あきらめてたまるか・・・黄金聖闘士達が自らの血を与えてくれたこの聖衣・・・この黄金に輝く聖衣をまとってる限り・・・簡単にあきらめたりしたら黄金聖闘士たちに笑われる・・・・

デス「笑えねえよ。あきらめたら世界が終わるんだからよ」
アフロ「むしろ殴るな。私だったら」

 ポセイドンが再び攻撃をしかけた。
 どういう原理になっているのかはわからないが、星矢の纏った聖衣が粉々に消し飛んでいく。

----こ、このままではやられる・・・!うわああーーーっ!!

 カッ!!

 何かがぶつかる音がして・・・
 星矢が床に落ちた。ゆっくりと。
 そして、彼の前に降り立つ二つの影。

シュラ「紫龍!」
カミュ「氷河っっ!!!」
デス「うおわっっ!?カミュ!?お前一体いつ帰ってきた・・・・」
カミュ「ああ氷河、左眼が・・・!いっそこのカミュの片目をお前にやりたい!氷河!氷河!」(画面へばりつき)
デス「・・・聞いとらんな・・・・」
シュラ「・・・・帰ってきた早々本当にやかましい・・・・紫龍なんか両目とも見えてないんだぞ

 その紫龍の存在がカミュには見えていないのだろう。
 星矢をかばうべく飛んできた二人は、不自由な眼でポセイドンを睨み、言った。

----星矢、おまえひとりを死なせはしない!
----死ぬ時は一緒だぜ兄弟!

シオン「そこで全員一緒に死なれても。こっちに来たら追い返すぞ。いいな」
一同『はい』
カミュ「・・・でも、氷河は・・・・」
シュラ「手元においておきたいのはわかるが我慢しろ!アテナがどうなってもいいのか!?」
カミュ「・・・・・・・・・・」

 しぶしぶながらカミュが黙る。

アフロ「・・・なあ、そろそろいいだろう?もとの南大西洋の柱に戻してくれ。アンドロメダが死んでるから」
デス「何が見たいんだお前・・・」
カミュ「駄目だ!せっかくかっこいい氷河が出てきたのに!」
アフロ「今まで散々勝手なことをしていてまだ我侭をぬかす気か!?いい加減にしてくれ!私はアンドロメダが気になる!アイオロス、チャンネルを貸してくれ!」
ロス「あ、おい・・・!」

 アフロディーテが無理矢理チャンネルを奪った拍子に、画面がぱっと切り替わった。
 聖域である。

----これ以上ここで手をこまねいているわけにはいかん!オレは星矢たちの加勢に行くぞ!

 アイオリアか・・・・またいきなり熱い奴から始まったな・・・

----アイオリア、何度言ったらわかるのです。聖域を決して動いてはいけないと老師のお言葉です。
----いかに老師の言葉とはいえ、星矢たちどころか女神さえも見殺しにするようなそんな指示に従えるか!
----どうしても動くというのなら、女神に対する反逆罪として誅殺しなければなりません。
----な・・・なにい・・・(やや小声)

サガ「いきなり弱気になったな。やはりムウのほうが役者が一枚上か」
シオン「・・・無意味に自信過剰なお前の弟よりはマシだろう・・・」
ロス「しかし、このままではいかんな。我が弟ながら、こらえ性というものが欠片も無い人間だから、ほっておくと本気でムウと一戦交えかねん。俺が生きていたら代わりに海底に行ってやるところなんだが・・・!」

 歯軋りするアイオロスの前で、冷戦はなおも温度を下げて行く。

----ムウ、この俺を殺すというのか。
----やむをえないでしょう。

 どういう風にやむをえないんだ。それは。

----バカな!よせふたりとも!!オレたち黄金聖闘士同士で争いをはじめてどうなると言うんだ!!

ロス「おお!その通りだ、えらいぞミロ!俺のいたころより少しは成長して・・・」

----し・・・しかし確かにこのままではなんとかせねば本当に聖矢達どころか、女神さえも死んでしまう・・・・

サガ「・・・感化されやすいところはまったく変わらんな・・・偽教皇時代もこいつだけは扱いやすかったし」
ロス「ああああくそっ!!どいつもこいつもこらえ性の無いこと夥しい!!わかった!俺が何とかすればいいんだろう!?」
デス「いや、誰もそんなことは。一番こらえ性の無いのはあんたじゃないのかひょっとして・・・?」

 デスマスクのツッコミも、アイオロスの耳には届いていないらしかった。
 彼はやおら立ち上がるなり部屋の隅にダッシュ。置いてある電話の受話器を取り上げてなにやら番号を押す。
 ?何を・・・?
 私達が不審に思っているそのうちに、彼は電話を切って戻ってきた。

カミュ「何をやっていたのだ?」
ロス「画面を見ろ」

 いわれて向き直れば。

 ドーーーン!

----人馬宮から流星が飛び立った!
----地中海に向かって飛んでいくぞ!

アフロ「あれは・・・」
ロス「カロンの宅急便に頼んで送ってもらった俺の聖衣。早さが自慢だ。死ぬまでには間に合うだろう」
シュラ「カロン・・・機材レンタル店だけではなかったのか。一体どういう仕事の仕方を・・・;」
ロス「いつぞや白銀聖闘士に星矢の命が狙われていたときにも頼んだことがある。少々高いが確実に届けてくれるぞ」
シュラ「俺が問いたいのはそういう意味ではなく」
デス「いいじゃねえかなんでも。役に立つならよ」
ロス「うむ、これでいいのだ。安心するがいい、我が弟よ!」

 アイオロスが胸を張って言い切り、ふたたびテレビの前に座す。
 現世の黄金聖闘士達は、呆然と光の去っていった方角を見上げていた。

----アイオリア、あれはまさしく・・・
----う・・・うむ・・・・

 戸惑いつつもうなずく黄金の獅子。

----ムウよ、いかに老師と言えどもアイオロスの意志までは押さえ切れなかったようだな。
----・・・・・・


ロス「呼び捨てか・・・聖衣送ったのに・・・せめて『我が兄』とかの前置詞をつけてくれても良さそうなものだが」
サガ「兄の気持ちなど報われんものだ。私ももっぱら呼び捨てらしい」

 急にすすけた友人の背中を、サガがぽん、と叩いて慰めたのだった。



BACK   NEXT