デスマスクがトンズラした翌朝から、シュラの地獄は始まった。

春麗「シュラさんっ!」

悪友について問いただされるの嫌さに、朝食にも顔を出さないで滝の前に避難したシュラだったが、岩影の割れ目に体を押し込んで気配を殺していたにもかかわらず、春麗はものの5分で彼を見つけ出した。

春麗「朝ごはんを食べないと体に悪いですよ!隠れたって駄目です!わかるんですから」
シュラ「・・・なぜ;」
春麗「カンです。とにかく、ごはんだけはちゃんと食べてくださいね。あと・・・・・・あの、デスマスクさんは?」

そら来た。
シュラは喉の奥から一瞬変な声を出したが、なんとか答えた。

シュラ「あれは・・・・その・・・・・遠くに行った」
春麗「遠く?って、どこですか?」
シュラ「どこか・・・・は、知らん」
春麗「下手な嘘をつかないで下さい。そんなに冷や汗かきながら言われても、見てるほうが辛いですから」
シュラ「・・・・・・・・・;」
春麗「デスマスクさん・・・・・・ギリシアに帰ってしまったんでしょう?」
シュラ「・・・・・・・・」

 口下手な上に嘘がつけない硬派の男、シュラ。もう少しスタンスが柔らかければどんなに人生ラクだったか。しかし彼はたぶん、それを一生知らずに終わるであろう。
 春麗がうつむいた。

春麗「・・・・・・私・・・・・・」
シュラ「・・・・・・・?」
春麗「私・・・・・わたしっ!私、ギリシアに行きます!!」
シュラ「!?いや、待て;早まるな、そんな馬鹿なことをして・・・・」
春麗「馬鹿でもいいの!私、デスマスクさんが好きだから!!」
シュラ「それは理由になってない!というか俺の前で爆弾発言は本当にもうやめてくれ!なんなんだどいつもこいつも!」
春麗「シュラさん、ギリシアに行くにはどの方角に歩けばいいの!?」
シュラ「なにで行く気だ!!徒歩か!?別の意味で馬鹿な真似はよせ!大体、ギリシアに行って何をする気なのだ!?」
春麗「デスマスクさんに会いたいんです!」
シュラ「会ってどうする!」
春麗「会って・・・会って・・・・・・・・・・私をもらってくれるよう頼みます」
シュラ「もら・・・・・・!?」
春麗「あの人と一緒に生きていきたいの・・・・!」

 そう言い放つなり膝からくず折れて泣きじゃくり始めた春麗を、シュラはただ呆然と見下ろした。
 ・・・・・・・確かに、デスマスクは言った。「春麗が俺に惚れた」と。
 だが・・・・しかし!
 ここまで惚れたとは聞いてない!!あいつ一体何をした!?;

シュラ「・・・・・どうして、そうまでデスマスクを好いたのだ」
春麗「どうしてって・・・・・・だって・・・・・・・・かっこいいから」
シュラ「・・・・・・・・・・・・・・・・・どの辺が・・・・・?」
春麗「・・・・前髪」
シュラ「そんな希薄な動機があるか!!」
春麗「希薄じゃありません!!男だって・・・・あなただって、くせっ毛よりはサラサラストレートの女の方がいいクチでしょう!?それと同じよ!!」
シュラ「誰がいつそんなことを言った!?俺は女になんぞ興味ないわ!!」
春麗「そんな・・・・・・・それはそれで何かが寂しい・・・・・」
シュラ「黙れ!どうでもいいだろう俺のことは!!それより、下らない理由でデスマスクの追っかけなどするなと言ってるのだ。人生を棒に振って終わりだぞ!あれは男のうちでも最低の部類に入る!」
春麗「そんなことないです!デスマスクさんは、すごく優しくて、親切で、素敵な人だもの!」
シュラ「奴の表皮何分の1ミリを見てそう思ったお前・・・・;」
春麗「それに、あの人はすごく孤独な人なんです!だから私、せめて・・・・・」
シュラ「あれは孤独ではなくて孤立というのだ!悪いことを言わんから、あの男には関わるな。薄情きわまりない上に外道で極悪、それがデスマスクという男だ!」
春麗「でも、誰にでもそういうわけではないはず・・・・」
シュラ「誰にでもそうだ!!」

 シュラは力いっぱい怒鳴った。
 ところが。
 その言葉は、なぜか春麗をさらに夢見がちな視線にさせたのだ。

春麗「誰にでも外道・・・でも、私には優しかったわ。だったら私は、特別?」
シュラ「・・・・う・・・・・・・・;」

 所詮一介の男に女の妄想を止めることなど出来はしない。

春麗「私、あの人を支えてあげたい・・・v」
シュラ「いや、しかし、その・・・そう、デスマスクは遊び人なのだ!女と見れば片端から口説き落とす人間で・・・・・」
春麗「そんなあの人を変えてあげたいv」
シュラ「簡単に変わるような男では・・・・」
春麗「私、やってみますv」
シュラ「・・・・・・;」

 女の妄想「私ならあの人を変えられるわ」は、男の妄想「嫌よ嫌よも好きのうち」とタメを張れるほど始末におえない。
 そしてまた、何で自分はこんなに必死にデスマスクの後始末をしてるんだろうという根本的な疑問も沸いたため、シュラはしばらく沈黙した。
 やがて。

シュラ「・・・・・・紫龍をどうする気だ」
春麗「え?」
シュラ「デスマスクのことはいい。好きに料理してくれ。ただ、紫龍を捨てるような真似は断じて許さん。あいつのどこが蟹に劣るというのだ」
春麗「捨てるも何も私達別につきあってるわけじゃ・・・。でも、そう・・・・そうですね。紫龍・・・・・だけど、紫龍は、私にはいい人過ぎます」
シュラ「蟹は悪い人過ぎるぞ。それでもいいのか」
春麗「・・・はい。あの、それより『蟹』って・・・・・;」

 シュラはまた少しの間黙した。

シュラ「・・・・・・わかった。お前の意志は固いのだな」
春麗「ええ」
シュラ「なら、俺があの馬鹿をここへ連れ戻して来てやる。ギリシアに行く必要は無い。待っていろ」
春麗「でも・・・・!」
シュラ「待っていろ。同じ事を言わせるな。・・・・・それから」

 ちらりと遥か下の大地に目を向けた。

シュラ「・・・・少し頭を冷やせ」

 視線の先には、春麗の帰りの遅いのを心配したか、探しに出てきた紫龍の姿が小さく見えていた。






 どうして自分がこんなことをしなければならないのか。
 その疑問はもう極力考えないようにして、シュラは聖域に帰ってきた。
 さっさと蟹に全責任とらせて問題を終わらせる。それが一番だ。

シュラ「ムウ。デスマスクは上にいるな?」
ムウ「あ、お帰りなさい、シュラ。デスマスクですか?いいえ、昨日の夜に帰ってきましたけど・・・・」
シュラ「いないのか!?」
ムウ「何でも五老峰で面倒なことがあったとかで、その後すぐに、気晴らしに街へ出かけたようです。もう少ししたら朝帰りすると思・・・」

 ・・・・皆まで言わせぬうちに、シュラが友人の両肩をがっしりつかんだのは無理も無いことだったと言えよう。

シュラ「お前テレポーテーションが使えるな?俺をあれのところに連れて行け今すぐ今すぐ今すぐ!!」
ムウ「あの、恐いですよシュラ;」
シュラ「何でもいいから早くしろ・・・斬るぞ」
ムウ「やめてください;」

 逆らわない方がいいと判断したムウは、言われたとおりシュラを連れてテレポーテーションをする。

ムウ「デスマスクのところでいいんですね?」
シュラ「他の場所に降りたら殺す」
ムウ「あの・・・・そう言われましても、人の小宇宙を探して目的地にするのは結構難しいんですけど・・・・・いえ、はい、やります」

 ものすごい目つきで睨まれ冷や汗をかきながら、何とかデスマスクの居場所に着地するべくセブンセンシズ研ぎ澄ませるムウであった。






 そこはホテルの一室だった。
 ベッドの上に、見慣れた銀髪。その隣に見知らぬ金髪。
 そして虚空から突如現れた鬼のような殺気。

シュラ「あの世へ行けぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」
デス「!!!?!!」

 ・・・・一瞬でベッドから床まで裂いたエクスカリバーの一撃をかろうじてかわしたところは、さすがに腐っても黄金聖闘士だったようだ。
 デスマスクはすっかり眠気のとんだ顔で、床の上からシュラを見上げていた。

デス「なに?お前、帰ってきたのか?」
シュラ「寝床へ戻れ蟹・・・・・・・女と重ねて8つに斬る!!」
デス「それを言うなら4つだろ。・・・いや待て落ち着け;」
シュラ「貴様、人に何もかも押し付けて逃げたその足で女遊びか。楽に死ねると思うなよ本気で」
デス「だから落ち着けって!よく見ろ!」
シュラ「何を!!」
デス「女じゃねえ!!」

 デスマスクが指差す方を振り向くと、騒ぎに目を覚ましたらしい(当たり前)金髪が頭をあげてこっちを見ていた。
 見知らぬ女と思いきや、しっかりアフロディーテである。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・

シュラ「別の意味で貴様を殺さねばならんような気がする。くたばれ害虫」
ムウ「まだしも女性と遊んでいた方がマシでしたね・・・」
デス「違うっつーの!!妙な想像するな!!」
シュラ「言い訳はあの世でルネ相手にしてくるがいい!!」
デス「やめろ!こいつとは単に夜中に酒場で会って一緒に飲んで、酔って始末に終えなくなったからここまで運んで寝かせただけだ!!何もしてねえって!!第一ここリーマン用のビジネスホテルだし!!」
ムウ「聞くほどに浮気の言い訳くさいですよデスマスク。いい年した男二人が一つベッドに寝るのもどうかと思いますし」
デス「二部屋取るのは無駄だろうが!!」
シュラ「貴様は存在自体が無駄だ。消えろ。失せろ。二度と出てくるな」
デス「ちょっ・・・!」
アフロ「?なんだ?どうした?何してるのだ君ら?」
デス「いやよくわからん・・・・なんか、お前が原因らしい」
アフロ「そうなのか?シュラ、待った。私のために争うな」
シュラ「死にたくなければ貴様も黙れ阿呆」

 ・・・。その後。
 とりあえず、公共の場で惨殺はまずいという理由から、ムウがなんとかシュラをなだめ、4人は揃って聖域へと一時帰宅した。
 怒髪天つく勢いのシュラが、彼としては非常に珍しいことではあったが一部始終を全て総責任者のサガにぶちまけ、すぐに全員収集されて蟹の緊急裁判が行われることとなった。

デス「何も全員にさらし者にしなくたっていいじゃねえか・・・」
サガ「うるさい。私も一度や二度の不祥事ならば眼を瞑ってやるが、貴様今までに何回このテの問題を起こしたと思っているのだ。上手く手を切れないなら女など口説くな!」
デス「口説いてねえ!口説いた女はきっちりカタつけてる!」
ムウ「開き直ってる場合じゃありませんよ。あなた、経過はどうあれ老師のお嬢さんに手を出したんですから・・・」
デス「だから出してねえって!!」
リア「見苦しいぞ。お前も男ならば言い訳などするな。しっかり責任を取って誠意をしめずべきだろう。違うか」
デス「責任、って、じゃあ何か?ヤればいいのかヤればぐごっ!!」

 ・・・・・あらぬことを口走った蟹の後ろ頭を、サガが全力でどつき倒す。

サガ「それのどこに誠意があるというんだ貴様・・・・?」
デス「いや・・・・でも・・・・・・だって・・・・・・・・・・・;」
カミュ「誠意といえば、やはり結婚だろう。幸せな家庭を築いて、親子川の字で寝る生活を送るがよい」
デス「絶対嫌だ。俺はまだ23だぞ!落ち着くには早ぇ!」
アフロ「適齢だろう。相手がいるだけ幸せに思え。なあ、アルデバラン?」
バラン「そこで何で俺に同意を求める・・・?」
ミロ「なあ、カミュ。俺は前から不思議だったんだが、結婚するのと籍を入れるのとではどっちが先だ?」
カミュ「籍を入れることを結婚するというのだ。後も先も無い。同時だ」
デス「おい、結婚の方向に話を持っていくなよコラ。俺は結婚なんかしねえ!責任とらなきゃなんねえようなこともしてねえ!仮に万一誰かと結婚するようなことがあっても、義父が人間なのは最低条件だ。当たり前じゃねえか!」
サガ「蟹の分際で贅沢をぬかすな。貴様に人権など無いわ」
デス「お前な・・・・糟糠の部下相手にそこまで酷い事言うか普通・・・?」

 ムウがため息をついてパンパンと手を叩いた。

ムウ「・・・このまま、結婚云々について話し合ってても埒が明きませんよ。デスマスクはその気ゼロですし、無理強いしたら逃げるだけです。そうでしょう?」
デス「おう」
サガ「おうではない!」
ムウ「まあまあ・・・。それでですね。用は問題を収めればいいわけです。今回はデスマスクも春麗をつまみ食ったわけではありませんから・・・・ここは本人から彼女にきっぱり断ればいいのではないですか?」

 この極めて常識的な意見に、黄金聖闘士たちは口を曲げつつもそれぞれ頷いた。

リア「・・・・・そうだな。少々納得の行かんところもあるが、何事もはっきりさせるのが男の道。断れデスマスク」
ミロ「はっきり言うのが一番だな」
デス「うむ・・・・・・ま、それならいくらでもやってやるけどよ」
シュラ「何がやってやるだ!!もともと貴様が原因だろうが!!」
デス「怒るなよ。ちゃんと断る。断る」
サガ「待て。お前、何と言って春麗をふる気だ?」
デス「あ?そんなの、『お前のツラは二度と見たくない』って言えば済むだろ?」
シュラ「どこまで外道だ!!そんな言葉を女相手に叩きつけるな!!」
サガ「まったくだ!『女は自分の顔の悪口意外は何でも許す』という格言を忘れたか!?死ぬまで恨まれるぞ貴様!!」
シュラ「・・・いやサガ、俺はそういうつもりで蟹を責めているわけでは・・・;」
デス「今まで散々使ってきたけど、すっぱり切れれたぞ、この言葉」
バラン「つくづく最低だな、お前;」
ムウ「あのですね、デスマスク。春麗はあなたが酒場でひっかける尻の軽い女性とは違うんですよ。普通の純朴なお嬢さんなんです。もう少しソフトな出方をしなければだめでしょう?不用意に傷をつけて、紫龍の逆鱗に触れたらどうする気なんです」
デス「そうかねえ・・・精神力はそんじょそこらの女よりよっぽど強ぇと思うけどな、俺は」
ムウ「とにかく。余計な恨みを買って、これ以上問題が拡大することだけは避けてください」
シュラ「安心しろ。そんな事になったら、今度こそ間違いなく斬ってやる」
ムウ「貴方は手袋でもはめといてください・・・物騒な・・・」

 サガがデスマスクに訊ねた。

サガ「穏便に断ることはできるのか?」
デス「できないことはないけどよ。あんましつこいと、つい積尸気冥界波!とかやってるからな、いつも」
サガ「・・・良かったな。証拠の残らない技で。しかし今回は失敗はゆるされんぞ。殺したらお前も老師と紫龍に滝に放り込まれるだろうからな」
デス「・・・おお」
カミュ「ならば、予行演習をしておくのはどうだろう?」
サガ「予行?」
カミュ「そうだ。誰かに春麗の役をやってもらって、より穏便な断り方を試してみればいい」
サガ「ふむ・・・なるほど」

 ・・・この辺りから、話がまた変な方向にずれ始めた。

サガ「皆、ちょっと聞いてくれ。予行演習をすることになった」
デス「おい、決定かよ今の;」
サガ「誰か春麗になってデスマスクに告白しろ。断り方を研究する」
シュラ「・・・・先に言っとくが俺は嫌だ。死んでも」
デス「ああ。俺も嫌だ。お前に告白されんのは」
ムウ「っていうか、立候補者を募ること自体無理があるんじゃないでしょうか、その提案・・・」
サガ「なら指名する。アフロディーテ。やれ」
アフロ「・・・・絶対くると思ったがやっぱり来たか・・・・」

 いつもいつもこんな役ばっかりだ、とぶつぶつ言いながら、アフロディーテはデスマスクに向かい合った。
 金の髪をふわりとかき上げ、匂い立つような眼差しで、

アフロ「『君が好きだ。結婚してくれ』」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ムウ「・・・・・・・・・・・・よしましょう。限りなくリアル過ぎて嫌です。デスマスクも、すぐに断ってくださいすぐに」
デス「つーか、今のどこが春麗なんだよ;。口調も何も全然違うだろ」
アフロ「仕方ないだろう!そんな女は会ったこともないのだから!!」
デス「第一、お前は色気がありすぎる。春麗は色気も胸もほとんどないタイプの小娘なんだぞ」
アフロ「知るか!胸なんか私もないわ!」

 アフロディーテは完全に機嫌をそこねて引っ込んだ。
 カミュが言った。

カミュ「見た目清純というなら・・・シャカがいいのではないか?綺麗な顔をしているし」
ムウ「貴方も無気力そうな顔しながらきわどい案ばかり出してきますね。と、そういえば、シャカはどこにいるんです?この場には来ていませんが」
ミロ「あいつなら、座禅の時間がどうとかで部屋にこもってたぞ」
サガ「呼んで来てくれ」

 シャカが来た。

シャカ「何のようかね?私は朝のワイドショーチェックで忙しいのだ。さっさと用件言いたまえ」
サガ「座禅では無かったのか。まあいい。ならば率直に言うが、デスマスクにプロポーズしてフラれてくれ」
シャカ「死にたいのかね?」
サガ「必要なことなのだ。頼む」
シャカ「・・・・・・・・・・・・」

 しばしの沈黙の後、シャカはつかつかとデスマスクに歩み寄った。

シャカ「一度しか言わんからよく聞くがいい。いくぞ。『神が人に定められた今生の喜びは大宇宙の真理の歪みにより崩落し人は・・・』」
デス「いや、そこまで前衛的なプロポーズはいらん。っつーかそれ勧誘だろ。普通のでやってくれ普通ので」
シャカ「なんだ、君も注文の多い男だな」
デス「いいから普通にやれ」
シャカ「・・・・・・」
 
 シャカはまた少しばかり考え、そして、

シャカ「『私のもとへ来い。死に水をとってやる』」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

デス「・・・・・・・・オーソドックスなのはわかるけどよ・・・・・・プロポーズっつーより暗殺予告にしか聞こえねえんだが・・・・・」
シャカ「不満かね」
サガ「・・・あー、シャカ。ワイドショーに戻っていいぞ。・・・・・見た目だけ清純でも使えんものは使えんな・・・」

 シャカは帰っていった。

サガ「やはり、見た目ではなく中身の純朴さを重視すべきだ。この中で一番性格が清純なのは誰だ」
デス「・・・・いねえと思うんだけどな、この中に清純派・・・・・」
ムウ「清純かどうかは別として、単純なのはミロでしょうか」
カミュ「純は純でもかなり違う純なのでは」
ミロ「違うとかそれ以前の問題だ!俺は嫌だ!」
ムウ「後は、中身だけならアルデバラン」
デス「それは俺が絶対嫌だ;」
バラン「・・・・・・いや、問題はそういうことではないだろう」

 アルデバランは腕組みをしたまま呆れたようにため息をつく。

バラン「そもそも、男にやらせているところが違う気がする。やはり、女の役は女がやらねばいくらやっても演習にならんだろう」
サガ「それはそうだが、しかし女など・・・・」
バラン「気は進まんが、心当たりを連れてくる。彼女に頼んでくれ」

 そんな言葉を残し、あっけにとられている一同を置いたまま出かけていったアルデバラン。
 戻ってきたときには、一人の女性を連れてきていた。

魔鈴「一体なんの用なんだい?黄金聖闘士が雁首そろえてさ」
リア「まっ・・・・・!!」
サガ「魔鈴か。すまないが力を貸してもらえるか?少々困った問題が起こってな」
魔鈴「なにさ」
サガ「このデスマスクに告白してフラれて欲しいのだ。もちろん、演技で構わん。馬鹿馬鹿しいと思うだろうが、私達は今、穏便な女性の断り方にひどく悩んでいるところなのだ」
魔鈴「へえ。あんたたちも可愛いとこあるんだね。ま、いい気な悩みと言えばそうだけど・・・・・。いいよ。下らないけど、私でよければやってやるよ。仮面は取らないでいいんだろ?」
サガ「ああ全然いい・・・・」
リア「よくない!!」

 怒れる獅子の放った拳は、魔鈴とサガの間の空気を一刀両断して地面に大穴を開けた。

魔鈴「な、何をするんだいアイオリア!」
リア「何もくそもあるか!!こんな下等極まりない宴会ネタに名乗りをあげるな!!」
魔鈴「!別に名乗りをあげたわけじゃないよ!そっちから頼んできたことだろう!?」
リア「告白の真似事などお前にだけは断じて頼まん!!他の誰にも頼ません!!言うときは俺の方から言う!!わかったらさっさと帰れ!!」
魔鈴「・・・・随分だね。ああ帰るよ。あんたの顔なんか二度と見たくない!」

 カンカンに怒って、魔鈴は姿を消した。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

リア「・・・・・・・・・・・・・・・」

 彼女の去った方を睨みつけながら、歯を食いしばって佇むアイオリア。
 ぽん。
 落ち行く肩に手をかけたのはデスマスクだった。
 彼は哀れみの視線と共にこう言った。

デス「・・・・一緒に勉強しような。穏便な断り方」
リア「ライトニングプラズマーっっ!!!!」

 ・・・・・それは昼日中でもはっきり見えるほど強烈な閃光だったという。





一方その頃、五老峰。

紫龍「いま・・・・・なんて?」
春麗「・・・・・・・・・・・・・・。ごめんなさい」

 呆然とする紫龍の前で、春麗がはっきりと告げていた。

春麗「私、デスマスクさんが好きになってしまったの」
紫龍「・・・・・・・・・・・・」
春麗「昨日の夜、デスマスクさんにそう言ったら・・・・・今朝になったらもぬけの殻で・・・・シュラさんが、呼んで来てくれるって・・・・でも・・・・・2時間で往復するって言ったのに、まだ帰ってこなくて・・・」

 修行をしようとシュラを探したが見当たらず、どこにいるのかしらないかと春麗に何気なく問うた紫龍が聞いたのは、予想だにもしなかった告白であった。
 とっさに返す言葉が見つからなかった。

春麗「・・・・ごめんなさい」

 ただ、春麗が自分の前で顔をうつむけて呟いている、その姿だけが心に焼き付いてしまったから。
 だから紫龍はなんとか微笑んで見せた。

紫龍「俺に謝る必要は無い。思いは誰がどうすることもできないものだろう?」
春麗「紫龍・・・」
紫龍「なにがあったところで、君が大事な人であることに変わりはないし・・・。デスマスクはああ見えても本当はいい聖闘士だと思うから・・・たぶん・・・・だから、俺に出来ることがあったらなんでも言ってくれ。君の力になりたい」
春麗「・・・・・・」
紫龍「君はどうしたいんだ?」
春麗「・・・・・・・・私・・・・・・・・・・・デスマスクさんに会いたい。ギリシアに行きたいの」

 春麗は紫龍の顔を見上げられぬまま、そう言った。
 言われた少年は、どこまでも優しく微笑んでそっと彼女の肩に手を置いた。

紫龍「なら行こう。俺が連れて行くよ、春麗」




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