ギリシア・アテネ行きの飛行機の夜。
隣の座席で寝息をたてている春麗の顔を、紫龍は静かに眺めていた。
・・・彼女を責めることなどどうしてできるだろう。いつもいつも泣かせたままを放り出して戦いに赴いた自分に。
 振り返れば待っていてくれるなどと・・・それが永久に続くなどと考えた自分が愚かだったのだ。
デスマスクのどこがいいのかはわからない。見当もつかない。
しかし相手が誰であろうと、今はただ春麗が幸せになってくれればそれでよかった。
 覚えてる限り昔から一番大切だったひと。
 どうかどうか幸せに。




 壁の隙間から爽やかな晴天の日差しが差し込む翌朝、デスマスクはベッドの上で丸まってたところを豪快に起こされた。

バラン「グレートホーン!!」
デス「ぐわあああっ!!?」

 ガンゴンゴン、ベシ!めきゅ!

バラン「起きろデスマスク。一大事だ」
デス「・・・・・・・」
サガ「白目をむいている場合か!起きろといっているのだ!打ち所が悪かったフリをしても無駄だこの馬鹿者が!」

 床にひっくり返ってぴくりともしない男をサガが足でどつきまくると、数分後にようやく黒目が戻った。

デス「起こす気なのか永眠させる気なのかどっちだてめえら・・・・」
サガ「起こす気だからアルデバランにやらせたのだ。殺す気なら私がやっている」
デス「・・・・。・・・・・何のようだよ朝っぱらから」
サガ「聞いて驚け。今、下に紫龍が来ている」
デス「うっ・・・・;」
バラン「それだけではない。春麗も来ている」
デス「・・・・・・(滝汗)」
バラン「お前に会いたいそうだが、どうする?」
デス「追い返してくれ!んなもん決まってるだろうが!デスマスクさんは面会謝絶だ!そう言っておけ!」

 これを聞いたサガは地の底をつかんばかりの深い深いため息をついた。

サガ「・・・・・・いっそ、お前が寝てるうちに縛り上げて引き渡してくれようかとも思ったが・・・・しかし今さらながらつくづく思う。こんな男を押し付けてしまってはあの娘が気の毒だ。安心しろデスマスク。今回の面会はできうる限り拒否しよう」
デス「ほんとか!」
サガ「お前の喜ぶ顔を見ると地獄のように不本意だがな。借りはいつか必ず返せ」
デス「俺、個人的にあんたには相当の貸しがあるはずだろ・・・・・・昔は色々やらされたし・・・・」
バラン「そんなことより早く上に避難したほうが良いぞ」

 渋い顔でアルデバラン。

バラン「紫龍と春麗の二人は、何が何でもお前を捕える気らしいからな」




 白羊宮ではムウが門前払いに苦戦していた。

ムウ「ですから、デスマスクは面会謝絶なんですよ。素直に帰ってください。こっちだって大変なんです」
春麗「でも!こんなにはるばる中国から来たんですもの、会わないうちは帰りません!デスマスクさんが病気なら私が一生懸命看病します。お熱だって計りますし、お粥だって作りますし、膝枕だってしてあげます!」
ムウ「あなたもある意味病気ですよ。あの男にそんなことして何になると言うんです」
春麗「私、デスマスクさんが好きなんです!」
ムウ「それは何度も聞きました」
紫龍「ムウ、頼む。通してくれ。どうしてもデスマスクでなければならんのだ」
ムウ「紫龍、あなたまでそんな・・・・」
紫龍「春麗のこともそうだ。が、しかし。それ以上に老師が心臓発作で倒れてな。今は下に安置しているが・・・エコノミー症候群かもしれん。飛行時間長かったし」
ムウ「・・・・どうしてあの方まで来てるんですか・・・・;」
紫龍「心臓のほうは必死でマッサージしてるうちに動き出したが、魂が抜けてるらしくて現世に帰ってこないのだ。一刻も早くデスマスクに頼んで老師を捕まえてきてもらわなければ本当に死んでしまう!積尸気に行けるのは奴だけなのだ!」
ムウ「・・・・・・・・・」
紫龍「ムウよ、まさか老師を見殺しにし、俺達を止めるなどと言うわけではないだろうな?」

ムウはしばし沈黙した。
それからゆっくりと一つ目をまたたくと、言った。

ムウ「二人ともここに有り金を出しなさい」
紫龍「え・・・・?」
ムウ「有り金を出せと言ったのです」
紫龍「あ、ああ」

 チャリンチャリン。
 二人がとまどいつつも財布の底を叩くと、丁寧に改めて、

ムウ「やはり思ったとおりだ。ある程度重さがあるにしろ、ほとんど財布は空の状態だ。きみらにはわからないだろうが、まだ全然額が足りない」
紫龍「なに・・・?」
ムウ「いいですか。聖域の通行も緊急事態ならば自然に通す。110番が無料なのと同じように・・・・しかし・・・」
春麗「ちょ、ちょっとまって!今料金の説明を聞いている暇はないのよ。私達はすぐにでも・・・」
ムウ「このままではここを通すことはできないといっているのです!」
春麗「エ?」
ムウ「特に紫龍は千円札も無しに通るつもりですか。断っておきますが白羊宮はそんなに安いものではありませんよ」
紫龍「ムウ・・・まさか俺達から通行料をせしめる気か!?」
ムウ「黄金聖闘士とは君たちが考えている以上に強欲なのです。特に最近は不況ですし。決して今までの戦闘常識で黄金聖闘士をはかってはいけない!きみらが物価を1と考えたならその10倍20倍もへだたりがあるのです。このことをよく覚えておくことです!」
紫龍「黄金聖闘士・・・・というか、そんなのお前だけなのでは;」
ムウ「地獄の沙汰も金次第ですよ。通りたかったら払うことです」
春麗「・・・・・・いくら出せばいいのかしら」

 と訊いたのは春麗だった。小さな顔には決然とした意志が見える。

ムウ「いくらなら出せるんです?」
春麗「・・・・これだけ」

 そう言って懐から取り出したのは、ぼってりと厚みのある高額紙幣の束。

春麗「持参金のつもりで持ってきたのだけれど・・・・あなたに払います。会えなければ意味がないもの」
紫龍「持参金て・・・君はそこまでの覚悟で乗り込んできたのか春麗・・・・・・」
ムウ「どこでこんな大金稼いだんです?私的考察としましては、これはあなた方二人の結婚式用に老師が貯めていた年金ではないかと」
春麗「今となっては出所は関係の無いことです。通してくれますね?もちろん」
ムウ「・・・・・・・・・・」

 今さら「婉曲にお引取り願う口実だったんですが」とは言えないムウだった。




 袖の下に物を言わせて白羊宮を通過した春麗と紫龍。続いて目の前に現れるはアルデバランの守護する金牛宮である。

春麗「何の気配も感じないわね・・・」
紫龍「油断をするな。前に来たときもそうだった。・・・それはそうと、なんで普通に気配を探ったりしてるんだい春麗・・・?」
春麗「嫌ね、紫龍。今の女の子にとって、怪しい気配の察知ぐらい痴漢撃退のためのたしなみよ」

 ちょっと頬を染めて恥ずかしげに微笑む少女が、自分の知ってる幼馴染とは別人のように思えて仕方の無い紫龍。
 しかし彼女の方が自分より老師との付き合いが長いのだと考えると気配の一つや二つ感知するのが当たり前という気もする紫龍。
 彼女がデスマスクに惚れているのも謎だが自分が彼女に惚れているのも段々微妙になってくる紫龍。
 この世に女は一人じゃないぞ紫龍。
 
紫龍「・・・いや。それでもやはり春麗は俺の大事な・・・・」
春麗「?どうかしたの?」
紫龍「いや・・・」

 もごもごと言葉を濁した。
 金牛宮に目をやると、薄暗い入り口が静まり返ってそこにある。

春麗「やっぱり誰もいないみたい。一気に通っちゃいましょう」
紫龍「う、うむ・・・」

 だが直後、そうは問屋が卸さないことを二人は身をもって体験したのだった。

バラン「グレートホーン!!」
紫龍「うっ!!」
春麗「きゃあーっ!」

 突如襲い掛かってきた圧倒てきな衝撃にはじき返され、地面に転がる二人。
 春麗がすばやく身を起こす。

春麗「そ、そんな!まるで壁があるように・・・何かいるの!?」
バラン「勝手にこの金牛宮をとおりぬけることはゆるさん!この牡牛座のアルデバランがな!!」

 現れた巨大な男に彼女はちょっとひるんだようだった。

春麗「し、紫龍・・・何この人?」
紫龍「春麗。オレが奴に百龍覇をしかける!そのスキに一気にこの宮を・・・」
バラン「待てい。いきなり最大奥義で来ることなかろうが;まあ落ち着いて話し合おう、知らぬ仲でもあるまいし」
紫龍「女相手に不意打ち仕掛けたくせに何を言う!」
バラン「女だろうが男だろうが、そう易々と通してたまるか。悪いことは言わん、帰れ」
春麗「どうして邪魔をするんですか?私たちはただ、デスマスクさんに会いたいだけなのに」
バラン「・・・・・・・どうしてと聞かれると実は俺も微妙なのだが・・・・・」
春麗「なら通して」
バラン「くどい!どうしても通りたければお前自身の手でこのアルデバランを倒すのだな」

 さり気に百龍覇との対決を避けつつ、黄金聖闘士はがっしりと腕を組んで斜に構えた。
 春麗は眉をひそめた。

春麗「何ですかその構えは。戦う気が無いの?」
紫龍「君にはあるのか春麗・・・・・?;」
バラン「フッ、たかが小娘を相手に露骨なファイティングポーズをとる必要もあるまい。このままでも十分お前を倒せるわ!」

 無表情で見下ろしながら言われたと同時に、

 バコッ!!

 横手の地面に穴があく。

春麗「な・・・・こ、これはアルデバランさんの拳圧の仕業なの・・・?そんな、いくら黄金聖闘士がすごい人だからって、あの態勢から・・・」

 しかもいつ拳を繰り出したのかまったくわからなかったわ・・・あの人にとって、あの構えこそが既に攻撃態勢になっているの・・・?

春麗「まるで居合いだわ・・・。そうよ、日本の剣法にある居合い切りのようだわ」
バラン「春麗よ、おとなしく去れ。お前と私では戦うには実力が違いすぎる」
春麗「うっ・・・」

 春麗は唇を噛み締め、悔しそうに男を睨み上げた。

春麗「やっぱり、段違いの黄金聖闘士を敵に回して戦うこと自体が間違いだったということなの・・・?」
紫龍「いや・・・・段とかそういう以前に人種が違うだろう春麗・・・・そもそもデスマスクを追ってる時点で間違いだろうし・・・」

 ひたすらツッコミ役と化した幼馴染を一瞥もせず、必死に考える。
 このまま引き下がったらデスマスクさんには会えない・・・そうよ、私はまだ引き下がれない。デスマスクさんに会うまではこんなところで帰れないわ・・・
 でも、どうやったらこのアルデバランさんに勝てるというの・・・・いえ、勝てないまでも、せめて一矢むくいたい・・・・!

 その時である。
 さながら天空から舞い降りる稲妻のように一つのイメージが頭の中に閃いた。

老師「剣をぬかせるのじゃ!!」
春麗「ろ、老師!?」
老師「日本剣法を題材にとったとき教えたじゃろう。居合い斬りは剣をぬいてから鞘に収めるまでの一瞬が勝負じゃと。つまり居合いの剣は(中略)いわば死に剣となるのじゃ」
春麗「で、でも、それがどうしてアルデバランさんに・・・」
老師「だから言っておる。剣をぬかせるのじゃ・・・タウラスの拳を・・・」

紫龍「・・・春麗?」
春麗「はっ!」

 われに返った。
 闇の中のイメージが払拭され、今自分が直面している現実に戻ると、相変わらずアルデバランは目の前で腕を組み、そして紫龍は脇でどう出ていいのか決めかねながら心配そうにこちらを見つめていた。
 耳の奥で老師の言葉がかすかにこだましているような気がした。
 春麗は思わず口に出してつぶやいた。

春麗「拳を・・・抜かせる・・・」

 がっしりと胸の前に組まれたアルデバランの腕。あの構えを解く事ができれば、彼の攻撃は死に剣に等しくなるという。
 問題はそれをどうやって解かせるかだ。
 例えば、黄金聖闘士をも凌ぐほどの力とスピードで殴りかかったら、いかな居合いの達人とはいえ腕を解いて防御するしかないだろう。
 けれど、春麗にはそんなフィジカルな力の持ち合わせなどなかった。
 恨めしくアルデバランを見上げる彼女の瞳に、透き通った涙が浮かんだ。

春麗「私・・・・私では貴方を倒すことなんてできないわ・・・・・・・そんなこと無理よ」
バラン「だろうな。ならば大人しく踵を返せ。命までとるとは言わん」
春麗「どうして・・・・会いたい人に会うのがいけないの・・・・・?私、せっかくここまで来たのに・・・・」
バラン「・・・・。気持ちはわかる。・・・あ、いや、あれに惚れた気持ちはわからんぞ?それはわからんが、無念の気持ちはわかる。こんなところまでよく来た。お前は・・・大した女だと思う」

 アルデバランは苦々しい口調で言い、視線をそらした。気持ちだけならばすぐにでも道を開けてやりたいとその横顔は語っていた。

バラン「・・・・俺があいつならば無下に帰すような真似は決してせんのだがな。・・・・だが、デスマスクは会いたくないと言ってきかん。お前のためにも言っておくが、これ以上あれに関わるな」
春麗「デスマスクさんが・・・・私に会いたくないと・・・・・」

 すっと白くなった春麗の頬を涙の筋が這った。

春麗「私・・・・・嫌われてしまったの・・・・・?」
バラン「あ、いや・・・・」
春麗「どうしてかしら・・・私、何か悪いことしたのかしら・・・鍋を焦がしたせいかしら」
バラン「さあ;」
春麗「・・・・・・・・わかりました。私、帰ります。・・・・ただ」

 少女はうつむき、ポケットからそっとハンカチを一枚取り出した。静かにそれで自分の目頭を押さえ、涙をひとつふたつ落とすと、微笑んでアルデバランを見上げる。

春麗「せめてこれを・・・・・私の想いだと、デスマスクさんに伝えてください」
バラン「お前はそこまであいつのことを・・・。・・・・・・承知した。必ず伝えよう」

 あまりにも純粋な気持ちの表れに、さすがのアルデバランもなんとも言えぬ表情で一も二も無く頷くと、差し出されたハンカチを受け取ろうと手を出した。

 そのとたん異様な光を放つ春麗の双眸。

春麗「かかったわねアルデバラン!!見えたわ野牛の両拳が!」
バラン「な、なに!?ぐぅをおっ!!!!」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・この時起こったことは筆舌に記しがたい。

 ただ、女の身でも確実に男を再起不能にできる急所を春麗が心得ていたことと、金牛宮を抜けた後、紫龍が満面に同情の色を浮かべながら最低5回は背後を振り返った事だけを述べておく。
 階段を駆け上がりながら彼はそっときいた。

紫龍「春麗・・・・・・君はどこでああいうことを覚えたんだい・・・・?」
春麗「言ったでしょう?痴漢撃退のための乙女のたしなみよ。・・・・・・殴り易い位置にあって助かったわ」
紫龍「・・・・・・・・・・・・」

 おそらく未だ動けずにいるであろう戦士を案じ、紫龍はもう一度後ろを振り返ったのであった。
 遠ざかりつつある金牛宮がなんだかとても痛々しく見えた。




さて、下の階でこんな悲劇が繰り広がってた一方、諸悪の根源デスマスクは巨蟹宮からより上へと移動中だった。
 天秤宮に足を踏み入れたとき、ふと彼は眉を寄せた。
 ・・・・寒い。あまりにも寒すぎる。

デス「・・・いるんだろ、カミュ。出て来いよ。何してんだこんなところで」
カミュ「お前が来るのを待ってた」

 柱の影から出てきたのは、眉間の辺りに年中しわが寄ってる男・アクエリアスのカミュ。
 彼の顔を一目見ただけで、デスマスクは何だかひどく不景気な気分になってきた。

デス「・・・・辛気臭いなお前は本当に・・・・。俺を待ってたって?何のためにだよ」
カミュ「デスマスク、おまえをここでとめるためだ」
デス「なんだと?」
カミュ「隣人であるシュラの命令だ。これ以上先に進むな。死にたくなければ春麗に会え、デスマスク」
デス「要するにパシリか。なにかと思ったぜ。残念ながら従うわけにはいかねえな」
カミュ「ここまで出向いたのが私だということはせめてもの慈悲だぞ。シュラが出てたら今頃お前の首は無かったろう。未だかつて無いほど怒ってるからな、お前のこと・・・・」
デス「そんなに怒ってたか・・・・やべえな;」
カミュ「むしろ私などに頼まず、直に引導渡しに来るのが本人のたっての希望だったが、そこはどうにかギリギリで押さえた。15年度カレンダーで共演してるせめてものよしみだ。ありがたく思ってくれ」
デス「微妙なよしみだなそれ・・・」
カミュ「まあな。しかし共演自体が意味不明なのだからいたし方あるまい。お前は瞳孔開いてたし・・・ポーズも積尸気冥界波なのだか巨人の星を目指してるのだか見分けのつかない格好で・・・」
デス「やかましいわ。お前こそ何の芸も無い顔でうつってたくせに。カメラ目線に失敗したぎこちのなさが満点だったろうが、小心者」
カミュ「・・・・。カレンダーの話はお互いよそう。・・・・・・さて、と。私は何しにここへ来たんだったか・・・」
デス「いやもう、お前上帰れ;」

 だがカミュはちゃんと用件を思い出した。

カミュ「春麗に会ってきちんと申し開きをしろ。それが筋というものだ」
デス「そういうのが通用しなさそうな女なんだよ。察してくれ」
カミュ「どうしても逃げるというのか」
デス「逃げる!」
カミュ「・・・・・ならば仕方が無い」

 つぶやくと同時に、ゆっくり持ち上がるカミュの両腕。

カミュ「オーロラエクスキューション!!」
デス「まて・・・・・!!」

 とっさに防御体勢で自身をかばうデスマスク。そこはさすがに堕ちても黄金聖闘士。一撃で息の根を止められるということはなかった。大幅に後ずさりさせられたものの、何とか耐えてやりすごす。
 ただし、寒さのあまり全身の筋肉が一時硬直し、再び動き出すのに少々時間がかかった。
 その少々の時間の間に両足をがっちりフリージングコフィンで固められたのであった。

デス「おい、なんだこれ!はずせてめえ!」
カミュ「無駄だ。その氷の枷はいかなることがあっても溶けん。また、たとえ黄金聖闘士数人の力をもって破壊しようとしても不可能なのだ。お前の足は永遠にその枷の中で朽ち果てることはない・・・・足から上は責任もたんが・・・・まあそういうことだ」
デス「どういうことだ!!足だけ永久保存されて何の意味があるっつーんだよ!」
カミュ「なに?では全身保存しろと?」
デス「言ってねえ!!」
カミュ「とにかく、そうでもしなければお前は止まらんだろう。大人しくそこで待って、春麗と対面するのだな」
デス「くそっ!」

 足元の氷を手刀でがしがし叩くも、やはりびくともしない。
 デスマスクは歯軋りして悔しがったが、しかしふとあることに気づいて顔を上げた。

デス「・・・・おい。一つ訊きたいんだが、俺が春麗と話した後はこれきっちりはずしてくれるんだろうな?」
カミュ「・・・・・・・・」

 カミュは静かに視線をそらし、

カミュ「この無人の宮で永遠に・・・・さらばデスマスクよ・・・」
デス「はずせねえんだな!?待てこらゆるさねえぞ阿呆ーーーっ!!!;;」

 しかし叫ぶ同僚を後に残したまま、カミュは上へと帰って行ってしまったのだった。




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